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ジェーン・スーの人生観「自分が粗末に扱われたと受け取る人には、自尊心が削られてきた過去がある」無意識下の思い込みが与える影響

集英社オンライン / 2024年11月3日 11時0分

ジェーン・スー、桜林直子の快適論「シーツを変える頻度が違う人とはベッドを分ける」「毛玉のついたタイツは処分した方がいい」〉から続く

人生の大事な場面で何かを選択するとき、「どうせ私なんかダメだから」と弱気になってしまうことは無いだろうか?コラムニストのジェーン・スーは常に前向きに人生を捉えているという。

【イラスト】ジェーン・スーの人生観

エッセイスト桜林直子との雑談をまとめた書籍『過去の握力 未来の浮力』より、一部抜粋・再構成し、弱気になってしまう人を救えるかもしれない対談を紹介する。

わたしの辞書には「欲しい」がなかった

桜林直子(以下、サク) スーさんは悪意を汲まない人だよね。

ジェーン・スー(以下、スー) そうそう、昔から。あとから「あれ?嫌味言われてた?」って気づくことがたしかに多い。遅いよね。性格的におめでたいところがある。



サク わたしは悪意センサーが敏感なんだよね。あの人ヤバいかもとか、避けた方がよさそうとか、早めにわかる。うまく使えばいいこともあるし、キャッチしすぎてるなと思うこともある。

スー あくまで結果論だけど、私の場合は悪意をキャッチできないからスルーできることも多いし、相手が私を恣意的に下に見ようとしたところで響かない。鈍感だなあ、と思われてることもあると思うよ。

回避能力が乏しいからヤバい人に突っ込んでっちゃうこともあるけど、それで大惨事が起きたこともないから、まぁいいかなと思ってる。

明確な悪意も世の中にはあるけれど、本質的には受け手がどう取るかの問題なんだと思ってて。だから、こっちにコンプレックスがあったり過敏になってると、悪意のないところに「悪い」って色をつけてしまうこともある。

「その言葉と態度、私に向けられた悪意として認定します」みたいな感じで感情を差し押さえてくる人がいるけど、いやいやそれ全然違うよって思うこともなくはないよね。

これが万人にとっての真実です、ではなくて、その人にとっての真実でしかないから。どこに光を当てるかで物事の見え方がずいぶん違う。

サク その人にはそう見えているっていうやつね、いわゆる認知の歪み。みんなそれぞれ歪みがあるからね。

スー 誰にでもあるよね。私も含めてオール認知歪み。飲み口が欠けたコップを出されてもまったく気にしないか、そういうコップを出された自分は疎まれてる、バカにされてると認識するタイプか。そういう違い。

自分が粗末に扱われたと繊細に受け取る人には、自尊心が削られてきた過去があることが多いと言うけれど。

「どうせダメだろうな」って諦める

サク そう、そのあたりのことを話したい。ちょっと子どもの頃の話をしていいかな。

わたしは「みんなはしていいけどあなたはダメ」と言われながら育ったのよ。どういうことかというと、たとえば、わたしは三姉妹の真ん中なんだけど、姉と妹は次の日学校が休みの土曜の夜は遅くまで起きていてよくて、みんなで深夜の番組を見ようっていう楽しみがあった。

だけどわたしだけはなぜか夜8時すぎには寝なきゃいけなかったの。

スー え? サクちゃんだけ? なぜ?

サク 親も、意地悪しようとか、わかりやすい悪意はなくて、この子はテンションが上がるとうるさいからって、そういう理由。たしかにわたしは調子に乗りやすかったから親の配慮もわからなくはない。

けど、そういう小さな扱いの違いが重なって、他の人はしていいけど「わたしはダメ」が家の中では当たり前になったのよ。そうすると、がっかりしないようにあらかじめ「どうせダメだろうな」って諦めるのがクセになるんだよね。

スー そりゃキツいよね。幼少期に「あなたはダメ」と言われて育つと、大人になって誰ももうダメなんて言ってないのに「これ欲しい」「あれしたい」が素直に言えない人になっちゃうってサクちゃん言ってたね。

サク そうなの。「わたしはダメ」っていう設定をとっくに外していいのに、大きくなってからも、諦め癖が残っちゃった。諦めるのが最善、なぜなら願っても無理だから。そういう思考がしっかり身についてしまったのよね。それを続けていたら、気づくと、手持ちのカードがあれもないこれもないって本当に何もなくなってた。

スー 手持ちのカードって?

サク あれをやってみたらどうだろう? こっちはどうかな?っていう可能性だよね。わたしの場合、そうした可能性が自分にあるということ自体、知らなくて。知らないっていうか、可能性があると信じられないっていう感じかな。実際に目に見えているものだけで「これしかないから仕方がない」みたいな感じでやってた。

スー 私は目の前に10個の扉があったら、開けたい扉からどんどん次々開けていくタイプ。サクちゃんは?

サク わたしは1個選んだら、他の扉は消滅するって思うタイプだった。だからその1個もなかなか選べなかった。

スー え? それってどういうこと?

サク そもそも自分に対して幾つもの扉が用意されていると思えなかったんだよね。

選ぶという感覚がない。しょうがないから「この扉」でいくしかない、みたいな、そういう感覚。

羨ましくなるのがイヤだから周りを見ない

スー 自分で選ぶという感覚がなくても、人生って進んでいくの? 逆に新鮮かも。私にはやりたいことも夢も目標もないけど、それでも選ぶ感覚はしっかりあるな。主体は自分っていうか。選べば選ぶほど、可能性は広がっていくって思ってるし。

扉を開けたら、そこにまた新しい扉がドドーンと幾つも出てくる感じ。常に新しい扉が用意されていると根拠なく信じてる。選ぶの面倒くさいなーというのは何度もあったけど。そういう場面に出くわすと、サクちゃんはどう思うの?

サク 隣の人が楽しそうにカードを選んでいても、いいなとか羨む気持ちもあまり起きなかった。

スー それもないの??

サク いいなーって羨むのは虚しいのよ。自分とは関係のない、別の星のお話だって割り切る方が楽だから、そう割り切ってたのかも。

スー それはある種の処世術だね。そのときどき最善を尽くしてきただけで、たどり着いた先が「昔からたどり着きたいと思っていた場所」ではなかったってサクちゃん言ってたけど。

サク そう。幼い頃から将来の夢を聞かれても、わからなすぎて答えられなかったのね。未来に旗を立ててそこに向かって進むというやり方を知らないから。目の前にあるカードだけで進んでると、自分がどこに向かってるかわからなくなるのよ。気づいたら、あれ、なんでここにいるんだっけ?って。

ラーメンの一蘭ってあるじゃない。あれと一緒。個人ごとのカウンターに座って、周りを見ないまま、ただ前を向いてる。

スー 味集中システム!

サク 羨ましくなるのがイヤだから周りを見ない。

スー 本来は夢を叶えたい人が夢集中システムを採用するのにね。お互い夢を持たないタイプなのに、背景があまりにも違うな。サクちゃんは周りを羨まないために目の前を見て過ごしてきたのか。

サク そのときはわかってなかったけど、欲を持たず行き先を決めないまま進んでると、気づくと望んでもない場所にたどり着いてることがあるのよ。でも、どこにたどり着いても、そのことを誰のせいにもできない。結局、全部自分で責任を負わないといけないんだよね。

スー そのシステムでやってくのはまずいって気づいたのは何歳くらい?

サク 33、34歳の頃かな。そのときは「まずい」というほどの自覚はなかったかな。いい匂いのする方に進めば、目的地を決めなくてもいい場所に行けると思っていたのに、実際はどこにいても不満ばかりで、あれ? おかしいなって感じだった。

このままだとこの先もいい場所に行けないのでは、と気づいて立ち止まったの。今さら未来に旗を立てるやり方はできないけど、ちょっとずつやり方を変えていこうと思った。

どこに行きたいか、どうなりたいかを決められないのは、「どうせ望んでも無理」と思っていたからなんだよね。

それなら「望んでよし」って、自分で自分に許可を出せば、行きたい場所に行けるかもって思い至ったの。

過去の握力 未来の浮力 あしたを生きる手引書

ジェーン・スー , 桜林直子
過去の握力 未来の浮力 あしたを生きる手引書
2024/10/31
1,650円(税込)
168ページ
ISBN: 978-4838732968

過去を大事に抱えていない?
未来に背を向けていない?

人生のシナリオは
あとから自分で書き換えられる

TBSラジオ人気Podcast番組「となりの雑談」の
エッセンスをギュッと凝縮、
二人の掛け合いパートに、
それぞれが書き下ろしを加えた
読み応えのある一冊となりました。

見えている世界が違うスーさんとサクちゃん、
二人が時間をかけて
じっくり丁寧に言葉を交わして見えてきた
「生きるヒント」は、
人生がうまくいってる人いってない人、
双方の琴線に触れること間違いなし◉

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