〈県警も注目〉「兵庫県知事はパワハラどころでない」元同僚男性が告発「局長のAさんは知事らを諫めるために命を絶った」知事は会見で辞職を否定も…【2024 政治記事 1位】
集英社オンライン / 2024年12月24日 8時0分
2024年度(1月~12月)に反響の大きかった政治記事ベスト5をお届けする。第1位は、兵庫県庁で問題になった斎藤元彦知事のパワハラ疑惑について取材した記事だった(初公開日:2024年7月16日)。兵庫県の斎藤元彦知事とその側近らが違法行為を犯した疑いがあるとの告発文書を県関係者やメディアに送り、県から懲戒処分を受けた県の元西播磨県民局長Aさん(60)が県議会の調査委員会出席を前に死亡しているのが見つかった。自殺とみられる。知事を支えてきた片山安孝副知事は12日に辞職を表明。知事にも5回辞職を進言したというが、知事は頑なに辞職を否定している。
〈画像〉辞任の際に号泣する片山安孝副知事と、兜や浴衣姿で笑みをうかべる斎藤知事
「メディアは“パワハラ疑惑”と伝えていますが、そんな緩い話ではありません」
告発文書が出たのは3月12日のことだ。
「斎藤知事が当選した2021年の知事選で、知事側近の“4人組”と称される県幹部職員4人が選挙期間前から事前運動を行い論功行賞で昇任したとか、斎藤知事らがパワハラを繰り返したり企業から贈答品を多く受け取ったりしている、との7つの疑惑が羅列されていました。メディアは“パワハラ疑惑”と伝えていますが、そんな緩い話ではありません」
そう話す在阪記者が続ける。
「プロ野球の阪神とオリックスの優勝を祝し計画した昨年11月のパレードで費用の原資にしようとした寄付が集まらず、信用金庫に補助金を増額してそれをキックバックで寄付させた疑惑や、昨年7月の斎藤氏の政治資金パーティーの券を、県補助金の減額をちらつかせて関係団体を脅して買わせていたとする疑惑など、事実なら完全に犯罪となる重大な疑惑が書かれていました」(同記者)
直後から県当局に“犯人”として目星をつけられたAさんは、3月25日に片山安孝副知事の事情聴取に自身が書いたことは認めたものの、その詳細については斎藤知事が偽って発表した疑いがある。
斎藤知事は2日後の3月27日、記者会見で「ありもしないことを縷々並べた内容を作ったことを本人も認めている。不満があるからといって、業務時間中なのに、嘘八百含めて文章作って流すという行為は公務員として失格」と発言。同月末で退職を予定していたAさんを西播磨局長職から解いて退職を認めず、停職3か月の懲戒処分にした。
ところがAさんと連絡を取っていた県関係者の話は全く違う。
「聴取の後、Aさんは僕との電話で、『自分が書いたことは認めたが、嘘八百とか事実無根ということは一切認めてません。あれ(告発文書の中身)は事実や』と怒っていました。しかもこれが大事なことなのですが、Aさんは2021年の斎藤氏の知事就任の前に神戸から約100キロ離れた西播磨県民局に就くことが決まっており、本人は知事からパワハラを受けたと思っていない。
『僕はこの3年間の県民局長時代を含む約40年の公務員生活をとても充実して過ごし、県には何の不満もない』とも片山副知事に伝えたと言っていました。
人事畑出身で人望もあった彼には県政を憂慮する職員から多くの情報が寄せられたようで、彼は退職を目前に後輩らの職場環境を見かね、情報を整理し告発したのです。私怨でやったのではなく、事情聴取にも事実だと主張したのです」(県関係者)
優勝祝賀パレード“資金調達”担当のBさんは心を病んで休職し…
斎藤知事が説明した「ありもしないことを並べたと本人も認めている」「不満があるから」との核心の供述は、斎藤氏がでっち上げたか、片山副知事が虚偽を報告していた疑いがあるというわけだ。
「すぐ激高する斎藤知事を周りが押さえられず、記者会見で口走ったのだと思います。(斎藤知事が)告発文を目にした時にものすごく怒った、と伝わってきていますから。Aさんは曲がったことが嫌いな男で、告発の信ぴょう性は高く、嘘ではないと思います。痛いところ突かれて怒る人はいます。知事が怒ったのは、まさしくそのパターンだと思います」(県OB)
「公益通報」を人事処罰で封じ込めたかに見えた斎藤県政だったが、丸尾牧県議が5月に県職員を対象に独自に実施したアンケートの結果を公表したことで流れが変わった。ここには知事のパワハラや、企業などから知事ら県幹部への贈答品に関する証言もあったという。
こうしてAさんの告発は「嘘八百」ではないと見られ、県議会で地方自治法100条に基づく調査特別委員会である百条委員会の設置につながる。しかしここでもAさんを封じ込めようとする動きが露骨になる。
「Aさんは県に『パソコンも洗いざらい持って行かれた』と話していました。百条委では前の知事選で自民党と共に斎藤知事を推薦した兵庫維新の会の県議らが、パソコンに入っていたプライベートなデータも全部開示せよと求めました。Aさんはこれを相当気にして、何とか回避できないか周囲に相談していました」(Aさんの知人)
Aさんが開示を食い止めようとしたのは、告発文書の根拠になった情報を後輩らが寄せたメールがパソコンに残っていたからではないかと県関係者は推測する。
実は、阪神・オリックスの優勝祝賀パレードに絡む“資金調達”の担当となった県幹部Bさんは心を病んで休職し、告発文書が出た後の4月に自殺とみられる急死をしている。これがAさんの心配の背景にあった可能性があるというのだ。
「Aさんは、自分の告発が(Bさんの死の)きっかけにある程度なったんじゃないかなと思ったんじゃないでしょうか。これ以上被害者を増やせないという思いが、どこか片隅にあったんとちがうかな、と思いますね」(前同)
Aさんの遺族は音声データを提出、県警も“一人”を聴取
だが、データ開示で揺さぶられてもAさんは百条委でシロクロをつけようとしたことは間違いないと関係者は口をそろえる。
「彼は『準備は着々と進めている』と言っていました。だからAさんが死ぬことを考えていたなんて、まったく想像できなかったですね」
そう話すAさんを知る元同僚の男性は、自死の選択は抵抗勢力の圧力に押しつぶされたのではないと言い切る。
「Aさんは告発文書を書いた時、向こう(知事や側近)はもっと早く白旗を上げると思ったことでしょう。あんなむちゃくちゃな記者会見やって、平気な顔してここまで引きづるなんて、誰も思ってなかったですからね。
A君とは長年の付き合いがありましたが、ここまでやっても本当のことを言わない知事らに対して、死をもって諫めるという要素があるんじゃないかな、と私は思っています。義理堅くて間違ったことは絶対に許さないという男でしたからね。
維新が相当妨害工作をやってきてましたから、百条委に出た時に妨害工作で場が乱れるのは明らかじゃないですか。だからそこはきっちり…。自分の命かけてやったと私は感じましたね」(元同僚の男性)
死をもって諫める、との見方には最初は首を縦に振らない知人もいたようだ。だが、Aさんが出席予定だった7月19日の百条委に向け遺族が提出した資料の中身は、この分析があながち間違っていなかった可能性を示唆している。
「Aさんの遺族は7月12日に百条委にAさんの陳述書と、斎藤知事が県内の出張先で地元特産のワインを地元首長に『まだ飲んだことがない。折を見てお願いします』と求めた際のものとする音声データを提供しました。
同時に『死をもって抗議する』『百条委は最後までやり通してほしい』とのAさんのメッセージも伝えています」(在阪記者)
Aさんの事情聴取を行い、告発文書にも登場する片山副知事は辞意を表明。斎藤知事は県職員労働組合から辞職要求を受けたほか、選挙で推薦した自民党県連からも事実上の辞職勧告を突きつけられているが、辞任は頑強に拒んでいる。
7月16日の記者会見でも「県政を前に進めていく」と繰り返し、Aさんが亡くなったことには「百条委への精神的なプレッシャーがあったと思う」と口にした。
「斎藤知事は全く辞める気配がなく、混乱は続くでしょう。優勝パレードの寄付疑惑やパーティー券購入強要は、県の意向を気にしなければいけない関係者の告白がなければ立証は難しく百条委で解明できるかどうかはわかりません。
しかし、兵庫県警は告発文書に書かれた贈答品疑惑で“4人組”の一人を事情聴取しています。これを入り口に捜査が展開される可能性もあります」(社会部記者)
AさんとBさん。二人の幹部職員の命が消えた兵庫県庁で何があったのか、徹底した解明が必要だろう。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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