「陰謀論」はなぜ蔓延るのか? 「スピリチュアル」 と混じり合うことで生まれるとてつもなくマズい現象とは
集英社オンライン / 2025年1月9日 7時0分
〈DMでいきなり告白するZ世代…「あー、たまにそういうイタイやついるよね」と笑っているけど、そもそもほとんど話したことのない人からの告白って変?〉から続く
2021年、トランプ大統領の支持者たちが起こしたアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件。おのときの加害者たちが信じていたのは「選挙は盗まれた」という根拠のない主張だ。世界中で多くの人たちが信じ込んでしまう「陰謀論」はそもそもなぜ拡大していくのだろうか。
【画像】芸能人も陰謀論を唱えるなど、日本でも多くの憶測が生まれた事件
書籍『「それってあなたの感想ですよね」論破の功罪』を一部抜粋・再構成し、「陰謀論」が蔓延る原因に迫る。
笑えない陰謀論の話
陰謀とは、密かに計画される悪事のことです。表では公正な競争を装いながら、その裏で企てられる談合のようなケースが該当します。
近頃、随分とネガティブなニュアンスがついたものの、この陰謀や陰謀論という言葉そのものは、本来であればもうすこし気軽に使用できたもののはずです。
しかし、そうも言えなくなってきました。
アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件、ハインリヒ13世を名乗る貴族出身の男が起こしたドイツクーデター未遂事件、そして日本国内におけるワクチン接種会場への不法侵入事件等、陰謀の可能性を考えるのではなく、それを真実であると確信した人々による反社会的活動が後を絶たないからです。
現行法に優越する真理を確信する者たちの反社会的行動が、もはや民主主義を危機に陥れているのは明らかです。
そこで本書では、推測に過ぎない陰謀を真実だと確信し、しかも社会や他者にそれを強要する者を「陰謀論者」とし、そして彼らが確信するその説を「陰謀論」と鍵括弧をつけ記すことで、意味を限定して使いたいと思います。
彼らの思考回路を理解するためには、推理小説やサスペンスドラマをイメージすればよいと思います。
これらの作品では、次から次へと不可解な出来事や情報という「点」が見つかっていきます。この怪しい「点」が蓄積されていった中盤から終盤にかけて、「点と点が繋がって真犯人が見つかる/謎が解明される」というカタルシスがあり、しかもそこから霧に包まれていた視界が広がるように、一気に物語は全貌を現します。
安倍晋三元首相銃撃事件を例にとって説明すると、たとえば「山上容疑者の立ち位置からは右前頸部に銃弾を当てることはできない」「動機が不可解」といった数々の疑問という名の「点」と、「現場付近のビル屋上にあった白いテントが事件からほどなくして消えている」
「山上容疑者による銃声を調べると空砲であった」といった、あたかも推理小説におけるヒントのような怪しげな「点」が繋がることで、「山上容疑者の銃撃は空砲だ。
確たる動機を有した真犯人に依頼されたスナイパーが、白いテントから狙撃したに違いない」といったように、まさに推理小説やサスペンスドラマのような一つのストーリーが完成してしまうわけです(もちろん、これらの「点」には多くの虚偽が含まれています)。
こうしたコミュニティには、同じような考えを持った人々が集うため、やはり似たような情報が次から次へと流れ込んできます。
能動的に検索して情報を得ることもありますが、アルゴリズムにより自らが求める情報が選別されるわけなので、結局のところは受け身の状態で都合のよい情報を受け取っているのと大差ありません。
そして、数多の真偽が不確かな「点」を積み重ねるうちに、あたかも点と点が繋がるように一つの線でストーリーが繋がってしまい、そのことをもって点たちには信憑性があると認識してしまうわけです。
もちろん、繋がったからといって正しいとは全く限りません。
「陰謀論」と相性のよいスピリチュアル
それでは、そんな「陰謀論」と相性のよいスピリチュアルとは何でしょうか。色々な説明の仕方がありますが、私は「仮説構成体」を補助線にするのがよいと思っています。
いつも勉強がはかどらないのに、なぜか今日は長時間できてしまう。いつもはいじめっ子に立ち向かえないのに、今日は歯向かうことができた。こうした上手く説明ができないことは、日常生活には沢山あります。
しかし、「やる気」や「勇気」という目には見えない言葉や概念を導入してみるとどうでしょうか。やる気がでたから勉強ができる、勇気が湧いたから立ち向かえる、といったように上手く説明ができてしまいます。
このように、それがあると上手く説明できる言葉や概念が仮説構成体です。
スピリチュアルの世界もまた、「仮説構成体のようなもの」を補助線とすれば、その界隈と無関係の私たちにも大まかに理解ができます。
頭の中にある考えが突然浮かんだという不思議な現象については、神から「波動」を受け取ったから(物理学における波動とは別物です)とか、宇宙の意思と「チャネリング(交信)」したから、といった具合です。
「やる気」「勇気」が「波動」「チャネリング」に変わっただけです。
人間は思ったよりも容易に神秘体験をしてしまうようで、しかもその威力は絶大です。そんな神秘体験とそれを説明する「仮説構成体のようなもの」が分かち難く結びついてしまえば、自ずとそれは「仮説」ではなく「真実」となり、やる気や勇気と同じように、ありありと波動やチャネリングが実感できるようになるのでしょう。
しかし、だからこそ「陰謀論」と結びつくと非常にマズイことがおきます。
波動やチャネリングによって、神や宇宙意思といった世俗を超越した何かの声を聞いてしまえば、「陰謀論」の正しさが、これ以上ないくらい強力に裏付けられるからです。
その界隈で組み立てられた強引な推論に対し、それは正しいというお墨付きを超越的な何かから受け取ってしまえば、そこに疑いを挟むのは難しいでしょう。
仲間たちとともに過ごす充実した日々
そんなスピリチュアルと混ざりやすい「陰謀論」の界隈では、規範だけでなく壮大な物語も得られます。
ここで記す物語とは、人間が目的に向かって歩む日々のことを指します。それもただの目的ではなくて、確たる価値基準により生じた目的です。
この目的が社会全体で共有されたとき、それは大きな物語となります。一刻も早く近代化を目指すべきだ、一致団結して戦争に勝利しよう、成長を続ける日本とともに豊かな生活を実現しよう、といったものです。
が、現代社会ではそのような皆が共有する壮大な物語が消滅してしまったのは周知のとおりです。
ところが、「陰謀論」界隈の住人になれば、そんな物語が簡単に手に入ります。たとえば、芸能界の裏側には闇の組織が存在していて、彼らの悪事を暴こうとした芸能人たちは殺されてしまったとするものです。
彼らは闇の組織と戦うという使命感を胸に、今日もネット上で活動を続けています。正義感を胸に宿し、仲間たちとともに過ごす日々は充実しているに違いありません。
しかし、だからこそ彼らは自分の「真実」を社会や他者に強要してしまうという、反社会的な活動に及びがちです。
規範・使命感・物語・仲間・選民意識といったものが軒並み手に入る魅力的な共同体ですが、その副作用もまた甚大なのです。
写真/shutterstock
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