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夫・子供・財力・美しさ・仕事…すべてを手に入れる「ワーママ」の睡眠時間は何時間?目を見張るしかない雑誌VERYの令和の価値観

集英社オンライン / 2024年12月30日 11時0分

「母になれない」でも「母にならない」とまで決意できない…「普通に幸せ」に生きる難易度が高すぎる世の中を生きるには〉から続く

かつては「セレブな主婦」やそれに憧れる人が読むものだった雑誌「VERY』。だが、現在の誌面には「主婦」という肩書きの読者モデルはあまり出てこなくなり、自身でガッツリ稼いでいる既婚女性の登場が増えているという。だが「夫・子供・財力・美しさ・仕事」すべてを完璧に手にいれるための彼女たちの日々の時間割は凄まじいものだという。

【画像】パワフルな「ワーママ」がたとえられるある動物

人気コラムニスト月岡ツキさんの著書『産む気もないのに生理かよ!』より一部を抜粋・再構成し、パワフルなワーママの新しい時間割を紹介する。

VERYと「ゴリラ」の時間割り

「ゴリラになりたくない」ある日、同僚が言った。

それは『もののけ姫』の終盤でタタリガミになった乙事主に取り込まれそうになったサンが「いやだ!タタリガミなんかになりたくない!」と叫ぶシーンを彷彿とさせるような切実な響きを持っていたのだが、同僚は「もののけ姫」ではない。「ワーママ社員」である。

「子育ても仕事もおしゃれも自己研鑽も完璧にこなすために毎朝4時に起きてます!みたいなワーママになりたくないんだよ……てかなろうと思っても無理だよ……」

それができるワーキングマザー界の豪傑のことを彼女は「ゴリラ」と称した。メンタルもフィジカルもゴリラ並みであると。

たしかに、そんな生活は人であることを捨ててゴリラとして生きなければ到底続かないだろう(ちなみに、本来ゴリラはメンタルが弱くストレスを感じやすいらしいが、イメージトークで便宜上そう呼んだにすぎない。なおここでいうゴリラは褒め言葉である)。

私は令和のワーママ、すなわち働きながら子育てする現代の母親はみんなゴリラだと思っていた。私は自分の仕事と自分の世話で手一杯になってしまう人間なので、さらに子供という他者を養育する大仕事を担っている人のことは、素直に尊敬する。

尊敬するが「私にもできるはず」とは到底思えないし、やりたいとも思わないので母になっていない。

私は雑誌VERYを愛読している。表紙が井川遥さんやタキマキこと滝沢眞規子さんだった頃から読んでいる。対象年齢が違いすぎるし、私は子供を産んでもいなければましてや独身だった頃から読んでいるのだから、我ながらターゲットから外れていると思う。

しかしVERYにはあって他の雑誌にはない「磁力」のようなものがたしかにあり、それに惹きつけられた独身子なし20代前半の私は、異世界を覗き見するような気持ちでVERYの分厚い誌面を眺めていた。

VERYといえば「VERY妻」という言葉に象徴されるように、経済的に豊かで、見た目も身につけるものも美しく、子供の教育に熱心で夫とも恋人みたいな関係を保っている女性をイメージする人が多いと思う。

2019年頃までのキャッチコピーは、「基盤のある女性は、強く、優しく、美しい」というもので、基盤とはすなわち「稼ぎのいい夫と子供がいる家庭」だろう。

夫・子供・財力・美しさの4つを兼ね備えた主婦であることをよしとする思想が表れている。しかし昨今のVERYは打って変わってかなり「ワーママ」寄りだ。

古き良きVERYはいわゆる「セレブな主婦」やそれに憧れる人が読むものだったけれど、ここ数年のワーママシフトは凄まじいものがある。

「私たちに、新しい時間割り」

古き良きVERYはいわゆる「セレブな主婦」やそれに憧れる人が読むものだったけれど、ここ数年のワーママシフトは凄まじいものがある。

誌面には「主婦」という肩書きの読者モデルはあまり出てこなくなり、夫婦共働きで、かつ妻も正社員だったり独立していたり、自分で会社をやっていたりしてガッツリ稼いでいる人が増えた。

かつては「夫におねだりするもの」として掲載されていたジュエリーも、「私が仕事を頑張るための必要経費として家計に計上して買う」「育休復帰のお祝いとして清水買いしました」といった言葉が並ぶようになり、VERYウォッチャーとしては隔世の感がある。

そんな令和のVERYのキャッチコピーは「私たちに、新しい時間割り」である。夫や子供の都合に合わせて生きる従来の主婦像から脱して、「私もガッツリ働いて稼ぐから、時間や家事のやりくりを協力してね!」というワーママ像が見える、今っぽいキャッチコピーだと思う。

ここ数年のVERYの巻頭には決まって「私の『新しい時間割り』」という連載がある。匿名読者の日々のスケジュールが記載されているのだが、これが毎号「ゴリラ」すぎるのだ。

仕事の合間に家事や保育園の送迎をこなすだけでは、おそらくこのコーナーには載れない。

会社経営や外資系金融など、夫婦ともに多忙な仕事をこなしながら、さらに子供の自宅学習や習い事の送迎時間を確保し、自分磨きのためのジムやピラティス、夫との二人時間、友達と会ったり趣味を楽しむ時間を捻出したりしている、「一体いつ寝てんの?」という人たちが、実際何をどうやっていつ寝ているのかを解説するコーナーなのである。

そして答えは、「あんまり寝てない」である。

5時起床、23時就寝くらいならまだいいほうだが、この連載で7時間以上寝ているワーママは私の記憶ではほぼ見たことがない。

夫・子供・財力・美しさの4つに、「仕事」を加えたのが令和のVERYなのだとしたら、そのすべてを手に入れるための時間割には7時間寝ている暇はないようなのだった。

メンタルの状態によっては見ないほうがいい日もある

もっとも、妻が「仕事」を手に入れて稼げるようになれば、モラハラ夫や家事育児に協力的でない夫とは離れてもいいわけで、令和のVERYにはシングルマザーのモデルが出てきたり、離婚やモラハラに関する特集が組まれたりもしている。

「基盤」は女が自分で作る時代です!という心強さがあって好感が持てるのだが、シングルになったとしても「時間割り」が超タイトでワーママが寝られないことには変わりがないだろう。なんなら、よりゴリラになる必要があるに違いない。

私はこの「私の『新しい時間割り』」ページの「5時起床」の文字を見るだけで「私にワーママは無理だ……」と思う。

なにせ10時からオンライン会議がある日は9時50分まで寝ている人間なのである。「母になったらやらざるを得ないのだから、そうなればできるようになるもんだ」と言われるかもしれないが、そもそもやらざるを得ない状況にはなりたくないというのが本音である。

同僚は子供を育てながらフルタイムで働いている。彼女は「ゴリラにはなりたくない!なれない!」と言い、「ゴリラにならなくてもワーママができる世の中になってほしい」とよくこぼしている。

しかしそんな彼女も分刻みのスケジュールを日々こなしながら、子供の離乳食を作って食べさせ、床にこぼされた離乳食を拭いたあと、夜遅くに仕事に戻ったりしているという。自分の世話しかしていない私からしたら、すでに十分立派なゴリラである。

そうかと思えば子供を育てながら会社を経営したり、子供を育てながら仕事もして大学院に行ったりしているスーパーゴリラワーママもいたりして、人と比べはじめたらきりがない。もう搭載しているエンジンが違うとしか思えない。

そういうスーパーゴリラワーママは「女性だったり母だったりしてもやりたいことを諦めなくてよい」という希望をくれる一方で、「あの人は子供を育てながらあれもこれもやっているのに、私ときたら……」という、底なしの自己否定沼へ引きずり込むこともある。

スーパーゴリラワーママは何も悪くないけれど、メンタルの状態によっては見ないほうがいい日があるのもたしかだ。

令和の時代に「母」が求められるもの

令和の時代に「母」をやるには求められるものが多すぎる。

「女は良妻賢母でおればよい」という「基盤」時代がよかったとは思わないけれど、心も体も強くなければこなせない令和のワーママ業務は人を否応なしにゴリラにさせる。

母親だけでなく、令和のワーパパもまた「基盤」時代の父とは違った精神力と体力が求められているのだろう。

夫婦でゴリラとなり、険しい「令和の子育て山」を登っていくのか?と問われ、私たち夫婦は尻込みしてしまい現在に至る。

ゴリラになりたくない同僚は、今年から時短勤務にするという。「ぼーっとする時間が欲しい」「とにかく寝たい」という理由から、らしい。

私もそれがいいと思う。親もたまにはぼーっとする時間が必要だし、7時間は無理でももっと寝てほしい。「子育てしてたって、たまにはぼーっとする時間もあるよ、けっこう寝られてるよ」という親が増えたら、「令和の子育て山」に登ってみるかと思える夫婦も増えよう。

彼女の「新しい時間割り」はVERYには載らないかもしれないが、私は山のふもとから陰ながら応援したいと思っている。

イラスト/書籍『産む気もないのに生理かよ!』より
写真/shutterstock

産む気もないのに生理かよ!

月岡ツキ
産む気もないのに生理かよ!
2024/12/5
1,760円(税込)
240ページ
ISBN: 978-4868010463

20万部超ベストセラー
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の著者三宅香帆さん推薦!

あなたの人生は、あなただけのものだ。社会や親や誰かのものじゃなくて。月岡さんの言葉は、あなたの孤独な選択を、きっと優しく照らしてくれる。


30代から圧倒的支持! ポッドキャスト『となりの芝生はソーブルー』の話し手であり、DINKs(仮)のつっきーこと月岡ツキによる初の著書。

「母になりたい」とは思えない。
でも、「母にならない」と
ファイナルアンサーもできない。


どうして産みたいと思えないのか、どうして産みたくないと言い切れないのか。自分の身体、自分を産んだ母、母になった友達、生きてきた世界、いま生きている社会。さまざまな側面から「産む産まない問題」を綴ったエッセイ集。

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