是枝裕和が“向田邦子の最高傑作”をリメイク 「女は阿修羅だよ」ラストの台詞に込められた“男女の悲哀”
集英社オンライン / 2025年1月12日 16時0分
宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すずの豪華主演によるNetflixシリーズ「阿修羅のごとく」が配信開始された。原作は脚本家の向田邦子で、1979年にNHKで放映された作品のリメイクとなる。監督は数々の映画賞を受賞し、家族をテーマにした作品も多い是枝裕和。“向田邦子の最高傑作”との呼び声が高いこのドラマは、是枝監督によってどう変貌したのか?
「どう逃げずに、偶然ではなく必然にするか」
――向田さんと親交のあったプロデューサーから今回の話を持ちかけられたそうですが、そのときの気持ちは?
是枝裕和(以下同) 断れないなと思いました(笑)。なぜ、僕に話を持ってきたかというと、僕が「阿修羅のごとく」を題材にして、演出で人をどう動かすかっていう内容のワークショップを4、5年前にやっていたんです。それを聞いて、「是枝さん、向田邦子に興味あるんだ」ってきたから、やらないわけにはいかない感じでした。
――是枝さんはこれまで何度も向田邦子さんからの影響を公言してきました。
その中でも「阿修羅のごとく」は人間ドラマの頂点だからね。ハードルは高いけど、がんばりました。
――制作にあたって心がけたことは?
最初にお引き受けした時には、台本も一字一句変えずにやろうと思ってたんですけど、途中で方針を変え、けっこう脚本をアップデートしました。もちろん、向田ファンに怒られないように、世界観は崩してはいないつもりですけど。
1979年という時代設定はそのままにして、いま見ると共感しにくいなと思うエピソードは今の視聴者に共感してもらえるように、変えたというよりは軸を動かした感じです。女性たちが、男に従属するとか引きずられるとか、選んだ男に幸せを左右される、っていう状況からちょっと離したんですよね。
むしろ女性たち自身の意思で選んでいる形にしました。
――女性像を現代的にしたということでしょうか。
長女・綱子もあの関係(料亭の主人と逢瀬を重ねている)をずっと続けていくんでしょうけど、巻子に“恥ずかしくないの”って聞かれて、“恥ずかしくないわ”って言い切る一言を足してみたり。夫の浮気に悶々としている次女・巻子も、最後の結婚式のシーンでは家庭内のパワーバランスが変わっている描写を入れたり。
――確かに、時代感覚がアップデートした印象を受けました。
それと、偶然を削ろうとも思っていました。原作だと意外と、間違い電話やなにかを落とすことで物語が進むところも多いので、そのへんをどう逃げずに、偶然ではなく必然にするかっていうことをやりました。
オリジナルの第七話って、けっこう間違い電話が多くて、街で出会った男にゆすられている四女・咲子の電話を三女・滝子が取っちゃって話が続くシーンは、いくらなんでもなと思って、病院には勝又が「行こうよ」って誘う流れに変えたんです。それで勝又を使って二人の距離を縮めていくようにしました。
――今回の屋上のシーンは原作にはないですもんね。
ないんですけど、実は脚本にはあるんです。撮ったけど編集で切ったのか、そもそも撮らなかったのか、わからないですけど。
――人物描写以外で、1979年を描く苦労はありましたか?
街並みがもう残っていなかった。それがいちばん大変でした。原作では四姉妹の父・恒太郎の実家は東京・国立なんですけど、当時といまとはまるで違うので、国立に意味があるのかって調べました。
そしたら、向田さんと仲がよかった山口瞳さんが国立に住んでたか国立が好きだったかって話を読んで、そんなに意味はないのかなと思い、池上に変えました。その方が娘たちとの距離が近くなるので。
向田邦子作品のすごさ
――今回、監督するにあたって、原作を読み返しましたか?
しました! 全部ハコ書き(シーンごとのあらましを書いたもの)に戻しました。そうするとちょっと辻褄に合わない人の動かし方をしているな、とかがわかってきました。
別に粗探しをしたわけじゃないんですけど、いま自分が演出するならシーンの順番をこう変えるなとか、そういうことに色々気を遣いましたね。ちょうど2年前です。お正月に原作を全部一回分解して、組み立て直したって感じです。
――組み立て直したことで、向田作品に対してどんな発見がありましたか。
それまでも読み直したり見直したりしましたけど、本気で勉強し直すことはなかったので、いい機会だから、もう一回ちゃんと向き合ってみたんです。
向田さんって、ハコ書きしないんですよ。頭からバーンと書いちゃう、っていう話は前から聞いてたんだけど、筆が走ってノってるところと、悩んだろうなと思われるところ、いろいろわかるから、それが勉強というかおもしろいなと思った。
あと、脚本によっては本当に緻密で全部セリフにしている。言い間違い、聞き間違い、言い直しまで、ちゃんと台詞に書いてあるんですよ。当時見たときは役者のアドリブだと思ってたので、ここまでやるのかと思いました。
――是枝さんの四姉妹ものというと『海街diary』があり、プレスリリースでは「阿修羅のごとく」と比べて「表と裏」と表現されていますが、これはどういうことですか?
両方とも四女はすずがやってるっていうぐらいかも……。四姉妹ものって谷崎潤一郎(『細雪』)とか『若草物語』とかいろいろあるけど、「阿修羅のごとく」はたぶん、四姉妹のダークなところを炙り出しているものだよね。
『海街』は場所も含めて、陰か陽だと陽のほうが強い。まあ、あれも死で始まって死で終わってるけど、すごく光に満ちた話だとすると、「阿修羅」は全部冬の話だし、話もドロドロしてるから、それで裏表って言ったのかもしれない。
でも、「阿修羅」が先にあったからね、裏が先なんだよ。
ラストの台詞に込められた「男女の悲哀」
――現場の雰囲気はどんな感じでしたか?
つねにセット脇に用意したテーブルにりえちゃんと尾野さんが笑って話していて、それにすずちゃんと蒼井さんが巻き込まれ、本番ですって呼んでもなかなか来ないっていう(笑)。
三女と四女だけのシーンだとスムーズなんですけど、長女と次女が絡むとなかなか本番にいけない。本番直前まで全然関係ない話で盛り上がって。もちろん本番が始まればすっと役に入りますけど。すごいにぎやかな現場でした。
――タイトルにもなっていて印象的なラストの「女は阿修羅だよ」という台詞に対して、どう思いますか?
男の身勝手な物言いだなと思いますね。それで、今回は鷹男がその台詞を言ったあと、姉妹に笑いながら「バカじゃないの?」って否定させましたけど。
男は都合よく女を菩薩と阿修羅に分けるじゃないですか。でも基本的に一人の中に両方ともいるんですよね。もちろん、四姉妹の中にも。
――ドラマでも男はオタオタしていて、場を取り繕うのに必死でした。
現実、そうじゃないですか。ただ、女性が4人いれば、4人のキャラクターってこうなるよねっていうパターンがいくつかあって、そこはちゃんと踏襲してる感じがしますね。
『海街』をやったとき、実際の四姉妹を取材したんですよ。そこで長女はどうなりやすいとか、三女だけは他の姉妹と服を共有できないとか、音楽や服の趣味が合わないのはおもしろいなと思いました。
「阿修羅」も長女が奔放ではないけど自由恋愛をして、次女がむしろ長女的なふるまいで“母”を継いでいくというのは、話としてあるなって感じで。向田さんも三姉妹で、取材をされたかどうかはわからないけど、すごくちゃんと書かれてるなって印象を改めて受けました。
――最後に、今回ドラマで全話監督をされるのは13年ぶりだったかと思いますが、最近のTVドラマについてはどう思われますか?
数が多すぎるなと思ってます。全部見られないんだもん。いまいくつあるんですか?
これだけの数をこなす役者もスタッフもいないよね。相当、無理して作ってるんだと思います。
昔はTVの前に座って見るものは一つって決まってたけど、いまは裏番組を録画して後追いで何本でも見れちゃうから。そういう意味では作り手が大変な時代になっている。これだけの数を埋めなくちゃいけない、誰の要請で埋めなくちゃいけないのかわかんないけど、単価は安い、数は多いで、役者も大変だと思いますよ。本当に変えた方がいいと思う。
取材・文/高田秀之 撮影/石井文仁
〈作品詳細〉
Netflixシリーズ「阿修羅のごとく」
独占配信中ある冬の日。竹沢家の四姉妹が久しぶりに集まった。生け花を教える長女・綱子、専業主婦の次女・巻子、図書館で司書として働く三女・滝子、そしてウエイトレスの四女・咲子。滝子の話では、母・ふじと暮らす老齢の父・恒太郎には愛人と子どもがいるという。信じられないとは思いつつ、母の耳には入れないことを誓い合う4人。しかしこの騒ぎをきっかけに、女性たちの日常に潜む、さまざまな葛藤や秘密が明るみに出る。
【キャスト】
宮沢りえ 尾野真千子 蒼井 優 広瀬すず
【スタッフ】
原作・脚本:向田邦子
監督・脚色・編集:是枝裕和
企画・プロデュース:八木康夫
プロデューサー:福間美由紀 北原栄治 田口聖
音楽:fox capture plan
制作プロダクション:分福
製作:Netflix
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