「生け贄」として埋められる子ども、78歳の老人と結婚させられる9歳の少女、銃撃を逃れて毒ナタを振るう少年…メディアが報じないアフリカの「不都合な真実」
集英社オンライン / 2025年1月14日 7時0分
〈「日本はIS側と交渉できていたのでしょうか?」中東のテロリズムの当事者性をもはや日本が回避し続けられないと、日本人ジャーナリストが実感した悲劇〉から続く
「生け贄」として埋められる子どもや、78歳の老人と結婚させられる9歳の少女、銃撃を逃れて毒ナタを振るう少年など、アフリカのありのままが記された『沸騰大陸』。これまでアフリカに関する著作を3冊上梓してきたルポライターの三浦英之氏に、最新刊の話題を中心にアフリカの「不都合な真実」について話を聞いた。〈全3回の1回目〉
「感情」と「空気」が真空パックされた1冊
――三浦さんのアフリカ4部作のうち、最初の3作はそれぞれ大きなテーマ、いわばアフリカで隠蔽されてきた「不都合な真実」に光を当てた力作でした。一方、今回の『沸騰大陸』は、それらの闇の近くに確かに存在する、見落とされがちな現地の人々の生活、小さな生の輝きに焦点を合わせた作品です。三浦さんの中で『沸騰大陸』はどのような位置づけですか?
三浦英之(以下同) 『日報隠蔽』『牙』『太陽の子』といった大きなテーマでは描くことができなかった、アフリカで暮らす、市井の人々の生活を描きたかったんです。
集英社の情報サイト「イミダス」で連載を始めるとき、押し入れの奥に押し込まれていた、アフリカ特派員時代の資料を詰め込んでいた段ボール箱を開けてみたら、大量の未発表のメモや写真が出てきた。汗にまみれたメモ類に1日がかりで目を通した後、「ああ、これは行けるな」と思いました。
当時の「感情」や「空気」が真空パックされたようにそのまま詰め込まれている。僕がアフリカにいたのは7年以上も前のことですが、今読んでもまったく古びていない。それらを再結晶化したのが今回の『沸騰大陸』です。
――「生け贄」として埋められる子どもや、78歳の老人と結婚させられる9歳の少女、銃撃を逃れて毒ナタを振るう少年などなど、印象的な短編ルポ・エッセイが34編収録されており、構成の点でも過去の3作品とは趣が違います。
アフリカ特派員時代はサハラ砂漠以南の49カ国を担当していました。結局行けたのは35カ国前後。そのうち『沸騰大陸』には25カ国のエピソードを詰め込んでおり、アフリカという多種多様な人々が生きる大陸を、なるべく多角的にとらえられるよう構成しています。
――作品の隅々から、現地に生きる人々のリアルな息遣いが伝わってくるようです。未発表の取材メモを元にした作品ということでしたが、驚くほどに生々しく感じました。
僕は2000年に新聞記者になって以来、その日に取材したり見聞きしたりした出来事については、「マイ・ルール」としてできる限り、その日のうちにメモにして残すようにしています。その際、「メモには絶対、嘘は入れない」というのが鉄則です。
後日、メモを作ろうとすると、どうしても記憶があやふやになって、人間って自分の都合のいいように記憶を作り変えちゃうんですよ。だから、できる限りその日のうちに、自分で見たこと、聞いたこと、思ったことだけをメモに書く。A4の1~3ページぐらいにして、写真をプリントしたものや資料も含めて全部、ポケットファイルに入れておく。そんな大量のメモ・ファイルが、僕の机の上にはあと8冊ぐらい並んでいます。
「大事故だ」と思って東京のデスクに電話をしたら…
――『日報隠蔽』『牙』『太陽の子』という大きな作品を完成させながら、その間で『沸騰大陸』につながる膨大なメモを残しつつ、新聞記者としての日常業務をこなす。これほどの活動をしていながら、特派員としてのアフリカ滞在はたったの3年、という点にも驚きます。
3年間、高校野球部員の「しごきノック」のように、全力でこっちに飛び込んでボールを取った後、すぐさま立ち上がって、今度はこっちに滑り込んでボールに飛びつくような日々を延々と繰り返していました(笑)。
ひたすら全力でアフリカ中を飛び回って、サバンナにテントを張って泊まったり、ジャングルの奥に入り込んだりして、自由に取材をしていたんです。
でも、アフリカ特派員の良いところって、そうした自由な動きをしていても、全然許されることなんです。当時はまだ、ほとんどの出張先で携帯電話の通話ができませんでしたし、東京からもあまりルーティーン的な記事の出稿を求められない。
――記事の出稿を求められない?
たとえばワシントンやニューヨークの特派員であれば、米大統領選や国連の記事など、日々大量に出稿が求められます。一方、アフリカ特派員はどんなに原稿を出しても、紙面に載らないことがほとんどなんです。
たとえば、あるとき、西アフリカで大雨が降り、川があふれそうになって数百人がガソリンスタンドに避難していたんですが、そのうちの一人が火がついたままの煙草をポイ捨てしたら、漏れ出ていたガソリンに引火して大爆発し、100人以上が犠牲になるという事故が起きた。「大事故だ」と思って東京のデスクに電話をしたら、「いや、いらないかな……」と。
それでも僕は3年間、各地を旅しながら、見たもの聞いたものを残らず拾って、せっせとメモを作り続けた。今回の「沸騰大陸」は、僕のその3年間の「旅行記」でもあるんです。
――そもそもアフリカへの最初の取材は、ご自身で会社に企画書を出して実現したと。もともとアフリカに、何か特別な思いがあったんでしょうか?
いや、最初はあまりありませんでした(笑)。もともと日本の安全保障に興味があって、最初に会社に出した企画書は自衛隊のPKOについてでした。アフリカに行きたいというよりは、PKOの現場を取材したかった。それで当時、自衛隊が派遣されていた南スーダンに出張で行ったんです。
アフリカに到着してすぐに強制送還
――でも当時、スーダンは内戦中ですよね?
アフリカに到着して一番初めに味わった出来事が、強制送還ですよ(笑)。空港に降りて陸上自衛隊からの招聘状とパスポートを出したら、入国審査官がニヤニヤしながら「100ドルよこせ」と言ってくる。でも、こちらにはそんな賄賂まがいのカネは出せない。
困り果てていたら、空港所長がやって来た。所長だったらなんとかしてくれるはずだ、と期待してついていったら、所長室に入るなり、今度は空港所長が「俺に500ドル渡せ。何とかしてやる」と。
それを固辞したら、警備兵を呼ばれ、兵士4人にカラシニコフ銃を突きつけられて強制送還。もうビックリしましたけど。会社に電話をしたら、「抵抗せずに戻ってこい」と。
――そんな理不尽なことがまかり通るんですね。
そのときに乗っていたのはドバイ系の航空会社だったんですけど、仕方なく飛行機へ戻ったら、キャビンアテンダントが笑顔で「ウェルカム・バック」と(笑)。そしてビジネスクラスのとこに座らせてくれて、シャンパンが出てきました。「年に何回かあるのよ」って。
――まるでフィクションのような話です。
まったく信じられない話です。飛行機についてはもう一つ面白い話があって、こっちは『太陽の子』に少し書いたのですが、アフリカ中部の紛争国・コンゴ民主共和国で、ある鉱山王に同行して地方のレアメタル鉱山を取材したことがありました。
コンゴでは国内移動でもパスポートや荷物の検査があるのですが、鉱山王はそれぞれ係員に100ドル札を手渡し、すべてノーチェックで通過していく。
同行した僕たちがそれ以上に驚いたのは、途中で飛行機のルートを変えさせたことです。鉱山王は通常、プライベートジェットで移動しているのですが、その日は運悪くそのプライベートジェットが点検中で、通常の旅客機で移動するしかなかった。往路こそ、所有するレアメタル鉱山がある地方への直行便があったのですが、復路では前後2日間、その地方空港には発着便がなかった。
日本でたとえるなら、鉱山王は東京に住んでいて、所有するレアメタル鉱山が秋田にある。行きは秋田への直行便があったが、翌日の秋田発着の便がない。そこで彼がどうしたかというと、言わば札幌発東京行きの航空機を急遽、秋田空港に一時着陸させ、東京に戻るという強引な手を使ったんです。
鉱山王は「カネさえあれば、コンゴでは何でもできる」と豪語していましたが、アフリカといえど、ちょっととんでもない話です……。
取材・文・撮影/集英社学芸編集部
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