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渋谷スクランブル交差点の老舗「三千里薬品」が閉店…「100年に1度」の再開発が進む渋谷で何が起きているのか

集英社オンライン / 2025年1月15日 11時0分

渋谷のスクランブル交差点に面する老舗の薬局店「三千里薬品 神南店」が2024年12月31日に閉店した。閉店のニュースは大きな話題を呼び、同店が「渋谷のランドマーク」として人々の記憶に残っていたことがうかがえる。三千里薬品は変わりゆく渋谷の街をどう見ているのだろうか。同薬局を運営するエイシャン・ブラザーズの取締役総務人事部長・斉藤均氏に、三千里薬品の歴史と変わりゆく渋谷の街の思い出について話を聞いた。

【画像】1965年ごろの「三千里薬品」。ふんどし型の懸垂幕には、それぞれにメーカーの医療品の名が

昔から広告宣伝に長けていた

同店は1962年(昭和37年)に誕生した。前身は「三千里食堂」で、食品事業を営んでいた。

「この土地を持っていたオーナーは、ここに合う商売をいろいろと考え、結果として食品事業から薬局事業に変えました。当時、再販売制度というものがあって、定価販売が主流。そこで定価よりも安い値段で薬や化粧品を売って、それが当たったんです」(斉藤均氏、以下同)

三千里薬品を世に知らしめたのが、新聞に挟んだ折込チラシ。

「当時は折込広告チラシが絶大な影響力を持っていました。新聞販売店に頼んで、たくさんばら撒いてもらいましたね」

アナログな宣伝といえば思い当たるのが「三千里薬品」の看板。赤と青の看板で多くの人の記憶に残っているだろう。現在はデジタルサイネージだが、初期はネオンの看板だった。これはいつ作られたのか。

「正確には分からないですが、昔の映像を見ると、1965年あたりから使っていたようです。当初は、ふんどし型ののれんのような看板で、のれんのそれぞれに医薬品の名前が書いてあった。そこにメーカーさんからは競って自社の商品を書いてほしいと言われていました。渋谷では、今も昔も三千里薬品の看板はランドマークですね」

そこから看板はサイネージに代わり、別の企業のCMも流されるようになった。しかし、そのCMの間には、かつての看板を思わせる「三千里薬品」の映像が。

「デジタルのポップにしてからは、映像と一緒に音楽も流しました。『あら三千里あら三千里〜♪』とメロディーが流れますよね。以前、若い女性と渋谷ですれ違ったとき、そのメロディーを口ずさんでいて、広告効果を感じました(笑)。あれ、音付きの映像は1時間に8回流れるんです。それが何時間も。だから耳に残りますよね」

アットホームだったお店

長年ランドマークとしてあり続けた三千里薬品だが、そこを行き交う人には、どのような変化があったのか。

「僕が渋谷に来た1965年ぐらいから、若い人は多かったですね。それからだいぶ後にはなりますが、ガングロ系の女性がいたのもよく覚えています。それとサラリーマン。若い人とサラリーマンの街でした」

そこを行き交うサラリーマンとは、こんな交流もあったという。

「昔は、店を入ってすぐのところにカウンターがあったんです。そのカウンターで薬の販売をしていました。だから、歩道と店内の距離がすごく近くて。夜の8時ぐらいから、そこを酔っ払ったお客さんがどんどん通るんですよ。
それで彼らに挨拶されたりして、カウンターから手を振り返していました。アットホームでしたよね。こちらも『この薬を飲むと、明日すっきり起きれますよ』って彼らに薬を売ったりして(笑)」

まるで、昔ながらの商店街を見ているかのような光景だが、そんな風景がスクランブル交差点にはかつてあったのだ。

「最近は、再開発で外国の人をどんどん呼ぼうという流れになっているので、顕著に外国の方が増えたのも印象的です。コロナ禍前は中国の方が多かったのですが、コロナ禍後は欧米系の人が増えてきました。スクランブル交差点を通る6~7割が外国の人の印象を受けます」

三千里薬品のある神南エリアは、東急が行っている再開発のエリアとは異なるが、再開発の影響を思わぬ形で受けたという。

「最初は、『スクランブル交差点の人を西口側に呼び込もう』ということで渋谷の再開発は進んでいたんです。我々も『それは困るなあ』と思っていました。でも、蓋を開けてみれば、スクランブル交差点に人も増えて、それは我々としてはうれしかったですよね」

変わりゆく渋谷と、変わらない渋谷 

変わりゆく渋谷の街だが、斉藤氏は渋谷がどんな街になってほしいと考えているのか。

「最近の再開発で、外国人観光客だけでなく、若い学生さんやOL・サラリーマンも増えています。我々の神南エリアは、そんな人たちがゆっくり買い物できたり、休める場所になったりするといいと思っています。近くにには道玄坂があります。そこから降りてきた人がゆっくりできる場所でありたい。

渋谷全体としては、若者の多様な?いい文化を持ってた昔ながらの雰囲気を残しながらも、時代に合わせて新しくなっていってほしいと思います」

かくいう三千里薬品も、薬局としての役目は終えたが、この春に新しい業態のお店として生まれ変わる。

「新しいお店は、いろいろな企業さんとタイアップして、その企業さんの情報を発信できるようなイベントスペースにしようと思っています。例えば、タイアップした企業さんの商品を売るなどして、情報発信拠点、渋谷文化発信拠点にしたい」

現在、渋谷では一大トレンドとなり多くの企業が参入している、いわゆる「ポップアップストア」のようなものだろうか。確かに、渋谷のあの立地で商品や企業の発信ができるのは、企業側にとっては大きなメリットだろう。

三千里薬品も、渋谷のランドマークとしての機能を果たしながら、時代とともに変化を遂げている。春に誕生する新業態のお店は、渋谷の歴史にどのような彩りを添えるのか。
 

取材・文・撮影/谷頭和希

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