新卒の“大幅給与アップ”に危険なカラクリ…「初任給」で判断するのは危ない? ボーナス削減、昇給率ダウン、そして2年目には…
集英社オンライン / 2025年2月5日 17時0分
ここ数年、新卒社員の給与を大幅に引き上げる企業が相次いでいる。しかし、これを額面どおり受け取ると痛い目にあうこともあるという。初任給が急騰している企業には“カラクリ”があることもあり、しっかりと見定めることが必要だ。
初任給30万円を超える企業が続々と
ユニクロやGUを展開する「ファーストリテイリング」は、今年入社する新入社員の初任給を30万円から33万円に引き上げることを発表した。
日本最大のベンチャーキャピタルでもある「SBIホールディングス」は1月29日、新入社員の初任給を4万円引き上げて34万円にすると発表。さらに「大和ハウス工業」にいたっては、初任給を一律10万円アップ。大卒社員は35万円になる予定だ。
そのほか、ソニーグループ、明治安田生命、住友生命、りそな銀行、アイリスオーヤマ、サントリー、モスフードサービス、NHKなどなど、多くの企業が初任給の引き上げを発表している。
これに関してまず問題視されているのは、既存社員のモチベーション低下だ。いままでコツコツと頑張り、少しずつ昇給してきたにも関わらず、新卒の社員が一気に同程度の給与をもらうことになるのはどうなのか? まずは今いる現役社員の手当てを先にするべきなのではないか、という指摘がSNSで相次いでいる。
〈既存の社員の給料上げろよ 働くの馬鹿らしくなって辞めるぞ〉
〈優秀な人材を獲得するためには初任給30万にする必要があるんだろうけど、新人なんて簡単に辞めてくよ。その会社を今まで支えてきた既存社員をもっと大事にした方がいいと思う〉
〈もしも俺と部下の給料の額が逆転したら 部下には何も言わないよ、仕事教えない フォローしない 指導しない 責任負わない 会話しない 最低限これらを徹底する そりゃそうでしょ〉
もちろん、ほとんどの企業は今回の新卒の初任給の引き上げに合わせて、既存社員の給与のベースもアップすると掲げているが、複雑な思いをしている社員がいるのは確かだ。
また一方で、この新卒の初任給アップは、新卒側も気を付けなければ思わぬ落とし穴にハマってしまうという。「就活生や新入社員は、給与アップを手放しに喜ぶには注意が必要です」と、株式会社人材研究所のディレクター・安藤健氏が指摘する。
ボーナスと基本給 どっちでもらうほうがお得?
「初任給の引き上げとして取り上げられている事例は、『30万円』『41万円』などと記載されている通り、正確には毎月支払われる『基本給』のことを指しています。基本給が上がる一方で、年収に対する賞与比率を減らし、その分を基本給に上乗せしているだけであれば年収ベースでは変わりません。基本給・賞与・諸手当などを合算した“総報酬”を考える必要があります。
また、初任給が高いからといって、その後の報酬も高くなるとは限りません。というのも、企業の給与原資が一定である以上は、今回の初任給引き上げ分は、必ず既存社員の人件費からまかなわれる形となります。
もちろん既存社員一人ひとりの給与額そのものを減らすと反発が必至であることから、多くの企業では人件費の総額を維持するために昇給率を減らしたり、昇給・昇格する人数を減らしたりするなどして、“気づかれないように”既存社員の人件費を調整するでしょう」
一見、魅力的に見える新卒初任給の大幅な引き上げでも、裏ではこのような“からくり”がある可能性があるわけだ。ほかにも、福利厚生や退職金の有無など、実質的に会社からどれほどのお金が支払われているのかは、毎月の給与だけでは判断できない。
ただ年収ベースがたとえ変わらなくても、賞与の代わりに基本給がアップすることについては、社員にとって大きなプラスではないかと安藤氏は話す。
「賞与は本来、会社の業績に応じて変動する後払い賃金という意味合いが強いです。実際、多くの会社では、賞与規定に『会社業績によって変動する』だったり、『賞与支払い月時点で会社に在籍している人を対象に支払う(つまりその時点で辞めることが確定している人には払わない)』といったルールが定められています。
ですから、トータル年収は同じでも賞与を減らしてその分、基本給が上がるほうが本来、社員にとっては毎月固定額として必ずもらえることを確約されているために喜ぶべきことなのです。見通しの立てにくい賞与に生活を頼っていると、長期的なライフプランも立てづらくなるでしょう」
しかしおもしろいことに、安藤氏が実際に人事として社員の声を聴いたところ、総年収を基本給として均等12分割(12か月に割る)されるよりも、毎月の基本給を減らしてでも賞与として年2回インパクトのある大きな額をもらった方が嬉しいとの回答が多かったという。
「まさに『合理的にいいことが、必ずしも心理的にいいこととはいえない』好例です。年1回、もしくは年2回大きい額が支払われる賞与は、働く個人にとって1年間の中での“節目”という効果もあるのでしょう。その意味で、“賞与を減らし基本給が上がる”ことは、今まで賞与が担っていたモチベーションを上げる効果が薄まってしまう可能性は考えられます」
今年の新卒も来年には“既存社員”に
そして何より忘れてはならないのが、新入社員たちも、来年には2年目の“既存社員”となる。今度は翌年の新卒初任給のために人件費を調整される側になるというわけだ。このような初任給の引き上げの流れが続くと、これから先、企業の体制そのものが変わってくるという。
「日本企業はこれまでのような『ベア』という全社員一律賃上げ基調は薄くなり、今後は『成果を上げた人は昇給するけれど、上げていない人は昇給しにくい』状況になっていくかもしれません。初任給引き上げといってもその後、不確定要素がたくさんあります。
ですから、これから社会人となる新卒生は目先の初任給だけにこだわらず、まずは成長できて自分の市場価値を高められる仕事につくことを第一目的として、就活を進めた方がいいかと思います」(安藤健氏、以下同)
大学生の就職活動では売り手市場が続き、企業たちは優秀な人材の確保に四苦八苦している。就活生たちはしっかりと自分の目で企業研究をして、長い目で見て入りたい会社を選んでいくようにしよう。
取材・文/集英社オンライン編集部
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