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なぜ男性間セックスは特殊で否定的なイメージになったのか?

集英社オンライン / 2022年6月23日 8時1分

聞くだけで楽しく歴史が学べる人気Podcast番組「コテンラジオ」。番組パーソナリティ・深井龍之介が初めて書籍化した著書『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』(ダイヤモンド社)から「同性愛」の項を一部抜粋・再構成してお届けする。

男性は男性ともセックスしてきた

「男性は女性とセックスをするのが当たり前だ」という考えは、僕たちの社会の大前提になっています。映画を見てもドラマを見ても、男性は女性とセックスしていますよね。

最近は性的少数者への権利の平等性が語られるようになり、同性愛の人々が少なからず存在することも知られてきました。ただ、あくまでも彼ら・彼女らは「少数者」ということになっています。ノーマルな男性は男性に欲情しない、という前提は変わりません。しかし、それは非常に特殊な考え方です。



人類史を見ると、男性同士でも結構、普通にセックスをしています。

中国もヨーロッパも日本も、どの文化も共通して男性間セックスが認められていました。あまりに普通だったので例を挙げるとキリがないくらいですが、プラトンも、ソクラテスも、アレクサンドロス大王も男性同士でのセックスをしていました。日本でも織田信長をはじめ、多くの歴史上の偉人が男性間セックスを経験していました。「いや、俺は男性とは絶対にセックスをしないんだ」という“少数者”もいたかもしれませんが。

それがなぜ、男性間のセックスばかりが特殊で、否定的なイメージを持たれるようになったのか。それは、ユダヤ教とキリスト教の影響です。

2000年ほど前に中東の元大工さんが始めたのがキリスト教です。キリスト本人が同性愛について言及したかはともかく、聖書の記述をもとに「同性愛は悪いことである」とする価値観が、信者の間で広がっていきました。

キリスト教はヨーロッパ中に広まりましたから、キリスト教の拡大と一緒に同性愛を否定する考え方も浸透していきました。

でも、キリスト教の世界の外では、男性間セックスは一般的でした。江戸時代には将軍や武士、庶民など、どの身分でも男性同士でセックスをしています。しかし明治時代になると、日本人は先進的な欧米の文化を取り入れる必要に迫られます。そうでなければ、日本も先進国になれませんから。

性に開放的な女性は「魔女」とされた時代

当時の日本は、資本主義から科学、工業、洋服、食事に至るまで欧米文化を取り入れたのですが、その際にキリスト教的な価値観もくっついてきました。そして「同性愛は悪」ということになったというわけです。

ちょっとわき道にそれます。ここまで、男性の同性愛について書いてきましたが、女性の同性愛についてはどうだったのでしょうか。

実は女性の同性愛は、男性の同性愛に比べて史料や記述がとても少ないんです。歴史的に多くの社会で長い間、女性や子供は性の自己決定が認められてきませんでした。

たとえばヨーロッパでは15~18世紀まで、性に開放的な女性は「魔女」とされ、「魔女狩り」の対象になっていました。第二次世界大戦後、人の性生活についての科学的な研究報告として発表された「キンゼイ・レポート」が登場するまで、欧米では「女性は性欲を持たない」と考えられてきました。

こんな状況だったので、女性の同性愛者について史料を残すのは大変危険なことだったのかもしれません。しかも多くの史料は、男性によって編纂されてきました。「女性は性欲を持たない」という固定観念を持っている男性が、女性の同性愛者についての記述を残せないのは、ある意味で当たり前だったのかもしれませんね。

たった10年の歴史でも社会の価値観の変化は目まぐるしい

江戸時代の日本は、男性の同性愛を避ける必要は必ずしもありませんでした。しかし、西洋化が進むと文化はパッケージで輸入されますから、富国強兵とは直接関係のない価値観も含めてごっそり変わっていく。すると、日本人の「当たり前」も変わってしまう。そういうことは、しばしば起こります。

たとえば、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック〈現メタ・プラットフォームズ〉、アマゾン・ドット・コム)など、シリコンバレーの企業が強くなると、その影響で日本企業も「シリコンバレーの文化を取り入れないと負けてしまう」という雰囲気になりました。

それはそうなんですが、ビジネスに直接は関係なさそうな文化、たとえばスーツではなくTシャツにジーンズで仕事をする文化までパッケージで入ってきて、「スーツを着るのはダサい」という価値観が広がったりしました。明治時代に欧米から取り入れた「スーツは格好いいんだ」という価値観を、今度は否定するわけです。

このように、少し長期的な目線に立つだけでも、社会の価値観がコロコロと変わっていることに気づくでしょう。

僕たちの社会の前提になっている「当たり前」なんて、その程度のものなんです。

#2 親が、自分の子供を殺した時代――「命の価値」を歴史から考える はこちらから
(6月24日8時公開予定)

『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』(ダイヤモンド社)

深井龍之介

2022年3月30日

1650円(税込)

単行本(ソフトカバー) 208ページ

ISBN:

978-4-478-11227-4

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