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賢い若者だけが気づいている「偽りの男女平等」が蔓延する前近代的な日本社会

集英社オンライン / 2022年9月27日 14時1分

2021年の世界の国別男性家事負担率、男女の社会的な格差を示すジェンダーギャップ指数で、ともに日本は先進国で最底水準にある。なぜ、こうした男女差別がいまだに根強く残るのか?

女性の管理職が極めて少ない国、日本

男女雇用機会均等法が施行されたのは1985年で、それから40年近くたったものの、社会的な性差の格差を示すジェンダーギャップ指数で日本は世界の最底辺をうろうろしている。その理由は国会・地方議会における女性議員と、企業の役員・管理職になる女性が、先進国だけでなく新興国と比べても際立って少ないからだ。

とはいえ日本は、法律上はあらゆる性差別が禁じられているし、その法律を守って会社の仕組みをつくっているのだから、「女性差別といわれるのは心外だ」と反論したくなる気持ちもわかる。しかしそうなると、「平等に昇進の機会を提供しているのだから、管理職になりたがらないのは女性の自己責任だ」ということになるし、実際、(大きな声ではいわないものの)このように考えている男性経営者はたくさんいるだろう。



日本の企業はなぜ、形式的には平等なのに、女性の管理職がこんなにも少ないのか?

この謎を解いたのが、社会学者の山口一男氏だ(『働き方の男女不平等』日本経済新聞出版社)。

山口氏は、アメリカなど欧米の会社では、役職と学歴はリンクしているという。多民族社会であるアメリカでは、人種や性別、性的指向などの(自分では変えられない)属性による差別を禁止するルールが徹底しているから、会社が採用や昇進・昇給を決める基準は、

①学歴や資格
②仕事の成果
③仕事の経験

この3つしか認められていない。「メリトクラシー」というのは、この3つの「メリット」を数値化し、それのみで(他の属性をいっさい考慮せずに)労働者を評価することで、これによって差別のないリベラルな社会が実現するとされた。

メリトクラシーの社会では、当然、管理職の比率は大卒が多く、高卒が少なくなる。これはアメリカだけでなく、世界中がそうなっている。

学歴社会なのだから当たり前だと思うだろうが、山口氏は世界にひとつだけ、この原則が通用しない国があることを発見した。それが日本だ。

『働き方の男女不平等』(山口一男)より作成

前近代的な日本の会社の3つの特徴

日本の会社の特徴は、次の3つだ。

① 大卒の男性と、高卒の男性が課長になる割合は、40代半ばまではほとんど変わらない
② 大卒の女性は高卒の女性より早く課長になるが、最終的にはその割合はあまり変わらない
③高卒の男性は、大卒の女性よりも、はるかに高い割合で課長になる


これをどう理解すればいいのだろうか。

①高卒の男性でも、大卒の男性と同じように出世できるというのは、素晴らしいことに思える。日本の会社は学歴ではなく、社員一人ひとりの「能力」を見ているのだ。

②高卒の女性より大卒の女性のほうが出世が早い、というのも当然だろう。日本の会社では、新卒採用で女性を「総合職」と「一般職」に分けている。総合職は男性と平等に扱われる大卒エリートで、一般職は事務系の仕事だから高卒も多いだろう。それが同じ昇進では、いくらなんでも理不尽だ。

問題なのは、③大卒(総合職)の女性よりも、高卒の男性のほうがはるかに早く課長に昇進することだ。60歳時点では高卒男性の7割が課長以上になっているのに、大卒女性は2割強と半分にも満たない。

身分や性別のような生まれもった属性ではなく、学歴や資格、業績など個人の努力によって地位が決まる社会が「近代」だ。そして近代的な社会では、このようなことが起こるはずはないと山口氏はいう。だが、驚くべきことに、日本の会社はいまだに「前近代」にとどまったままなのだ。

「日本の会社は江戸時代」というのはショッキングだが、経営者はこれを真っ赤になって否定するだろう。「うちは近代的な経営をしているのに“前近代”とはなにごとだ!」というわけだ。

そしてこの反論は、あながち間違いとはいえない。ある要素を調整すると男女の格差はなくなって、大卒の女性も男性社員と同じように出世している。その要素とは、「就業時間」だ。

子どもを産んだ女性が“差別”を実感する社会

日本の会社ではずっと長時間の残業やサービス残業が問題になっているが、一向に改まらない。なぜこんなかんたんなことができないのか。それは、「日本の会社は残業時間で社員の昇進を決めている」からだ。

「そんなバカな!」と思うかもしれないが、就業時間を揃えると、大卒女性は男性社員と同じように昇進しているのだ。

近代社会では、労働者は会社と契約を結び、労働を提供するのと引き換えに報酬を受け取る。日本の会社も形式的にはそうなっているが、実態は江戸時代の「イエ」にちかい組織で、いったん正社員になれば人生のすべてを会社に捧げ、会社はそれにこたえて、生涯にわたって社員と家族の生活の面倒をみる、という関係になっている。

正社員(イエの一員)はかつては男性だけだったが、いまでは女性も加わることができるようになった。しかし女性がイエの一員として認められるには、無制限の残業によって滅私奉公し、僻地や海外への転勤も喜んで受け入れ、会社への忠誠を示す必要がある。

そしてこれが、「子どもが生まれても働きたい」と思っていた女性が、出産を機に退職していく理由になっている。

日本の大手企業は、幼い子どものいる女性社員のために、「マミートラック」と呼ばれる仕事を用意している。「男性や独身女性と同じように働かせてはかわいそうだ」との配慮だとされているが、残業しなくてもいいマミートラックでは忠誠心を示すことができず、イエの一員とは認めてもらえない。当然、給料も減るし昇進もできないだろう。

これまで対等の関係だったのに、いきなり二級社員のように扱われ、同期ばかりか後輩にも追い抜かれていくというのは、優秀で真面目な女性ほど耐え難いにちがいない。こうして彼女たちは、燃え尽きて、専業主婦になっていく。日本は、一見男女平等のように見えても、「女性が子どもを産むと“差別”を実感する社会」なのだ。

夫婦のあり方に変革が迫られているが…

しかし、問題はこれだけではない。会社に滅私奉公しないと出世できないのは男性も同じで、その結果、夫は残業+サービス残業で超長時間労働になって、とうてい家事や子育てを分担することなどできない(だから、日本の男性の家事負担率は先進国で最低になる)。

男性1日あたりの無償労働時間(赤)と有償労働時間(青)の国際比較(単位・分)balancing paid work, unpaid work and leisure (OECD)をもとに作成

働いた経験のある女性ほど、会社の事情がわかっているので、「早く帰って家事を手伝ってよ」とはいえない。そんなことをすれば、夫の昇進が遅れて生活が苦しくなってしまうことをわかっているからだ。

こうして会社を辞めて専業主婦になった女性は子育てのすべての責任を一人で背負うことになるが、どれほど苦労しても、まわりは「専業主婦で楽なんでしょ」と思っているのでまったく同情してくれない。専業主婦は、じつはものすごく孤独なのだ。

「こんなはずじゃなかった。わたしだって働きたかったのに」と思っても、いったん正社員のキャリアを絶ってしまうと、よほどのことがないかぎりパートか非正規の仕事にしか就けない。かつての自分と同じ“バリキャリ”の独身女性たちを横目で見ながら低賃金のパート仕事をし、夫のいない家庭で家事も育児もすべて一人でこなさなければならない。

それでつい、愚痴をいってしまうこともあるだろう。しかしその夫も、長時間労働で疲れ果てている。どんどん儲かって給料も上がるならやる気も出るだろうが、多くの会社は業績が右肩下がりで、リストラされないよう必死に会社にしがみついているだけ、というサラリーマンもたくさんいる。夫だって、「こんなはずじゃなかった」と思っているのだ。

それで妻に対して、「オレは、仕事を続けたほうがいいっていっただろ。専業主婦になりたいっていったのは、お前じゃないか」と思わずいってしまう。こうして、幸福だったはずの家庭に不幸が忍び寄ってくるのだろう。

取材・文/橘玲

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