ヤクザの親分の父と愛人の母の間に生まれて…「俺に文句あるのか!」とツッパりまくって生きてきた高知東生は罪を犯した後、どう生き直しているのか
集英社オンライン / 2023年1月25日 11時1分
2016年6月、ラブホテルで不倫相手の女性と覚醒剤、大麻を所持していた疑いで現行犯逮捕された高知東生さん(58歳)。その後、通院、カウンセリングを経て自助グループへの参加など、今も回復活動に励んでいる。リアルな思いをつぶやくTwitterがたびたび話題となり、2023年1月25日には自身初となる自伝的小説『土竜』を刊行した高知さんに話を聞いた。(全3回の1回目)
波乱万丈の人生を綴った初小説『土竜』
――本日はよろしくお願いします。
ちょっと待って、これドッキリじゃないよね?
――ドッキリではないです。
だって俺が集英社に呼ばれてインタビューなんて信じられないよ。
――最近はどんなふうに過ごされているんですか。
正直自分でも何をどうしたくてこうなっているのか、わからないんだけど、今は依存症の理解を深めてもらうための啓発活動を軸にして、講演をしたり、いろんな人と語り合ったり、もちろん勉強もしたりね。最近は小説も書いてる。
――文芸誌「小説宝石」に掲載されていた自伝的小説『土竜』ですね。
そうそう、よく知ってるね。うれしいなぁ。本になるからぜひ読んでよ。
去年はTwitterで見られる『嘘つきは○○のはじまり』という連続ドラマで役者の仕事もさせてもらいました。あとはYouTubeもやってます。俺を無理やり救ってくれた依存症問題の専門家である田中紀子さんと『たかりこチャンネル』というYouTube番組をね。
それと、清水節子さんという歌の師匠がいるんだけど、初心に戻って、運転手と付き人からはじめて、去年の11月に「今宵 アンタと…」っていう曲で作詞家デビューさせていただきました。
その曲を清水先生が歌ってくれただけじゃなく、同じCDに入っている「粋な関係」という曲では、清水先生とデュエットまでさせていただいて。この「粋な関係」は、もともと清水先生と千葉真一さんがデュエットしていた曲なんです。こんな光栄なことないですよ。
だから日々いろんな活動はしているんだけど、自分でも実感がないんです。
――「実感がない」というのは?
何かしら目指すものがあって動いているというより、とにかく生き直すことを目標にいろいろなことを積み重ねていたら、ありがたいことに声をかけてくれる人がたくさんいるんですよ。今日のこのインタビューだってそう。
かつての俺は、本業以外のオファーをいただいても「自分は俳優しかできません」とか「やったことないので無理です」って、ビビって断ってたんです。でも依存症の仲間たちがケツ叩いてくれたおかげで、今は何でもやるようになりました。せっかく声をかけてくれる人がいるんだから、不安に苦しむんじゃなくて、完璧にできなくてもいいから、とにかくやってみたほうがいいって。みんな言ってくれたんですよ。
大事なのは、どう生き直すか
――依存症の治療のためのカウンセリングには、もう通ってないんですか?
通院やカウンセリングは執行猶予4年の間に終わりました。今は自助グループの集まりに定期的に通って、話をしたり、悩みを共有したり。そういうことをやっています。
――同じ悩みや苦しみを持つ人たちと接することが、相手の助けにもなるし、自分自身の治癒や抑止にもなると言いますよね。
相手を助けるなんていう意識はないんですけどね。あくまで自分のため。自分の辛い過去とか、思っていることをすべてさらけ出すことで、俺一人じゃなかったんだって思えるんですよ。共有できる仲間がいるだけで、すっごい楽になる。
今振り返ってみても、俺のしたことは悪いことです。でも大事なのは、悪いことをしたと気づいてから、どう生き直すか。
当事者として感じたのは、世間もマスコミも「あの人は悪いことをした」と盛んに言うんだけれど、そのあと、その人がどう生きているか、どんなふうに反省しているか、どう立ち直ろうとしているのか、それについてはほとんど言ってくれないんですよ。一番大事なことが伝わらない。ゆえに、一度でも道を踏み外すと、今の社会ではまともに生きていけない。
執行猶予を終えた今でも、俺は家も駐車場も借りられません。自分なりに発信はしていますけど、いまだに俺のことを「薬物で捕まった人」で終わっている人がたくさんいる。真面目に生きていこうと思っても、社会に受け入れてもらえず、ますます自尊心を失って、苦しくて、どうしたらいいのかわからなくなっている人が本当に大勢います。自助グループはそのためにあるんです。
「俺の話を聞け!」「俺に文句あるのか!」って
叫びまくっていた過去
――高知さんはTwitterでもご自身の考えや学んだことを積極的に発信していますよね。
Twitterは一人で自助グループをやっているつもりで投稿しているんです。自分のための戒めでもあり、訓練でもある。だからTwitterでどんなに「いいね」が付いても実感がないんですよ。自分に向けて投稿しているだけだから。
今でこそ、世の中にはいろんな人がいて、いろんな考えがあって、自分の過ちも見つめられるようになりましたけど、昔は全然違いましたからね。「俺の話を聞け!」「俺に文句あるのか!」って叫びまくってました。肩の力、入りまくり。そういう歪んだ認知にずっと苦しんでいたんです。
もちろん今だって完治しているわけじゃありません。完治なんてないですから。残りの人生をかけて、少しずつ回復し続けるしかない。人の話を聞く訓練をして、それを習慣にして、自分の間違っていた考えを改めるしかないんです。
いまだに古い考えがふっと頭をよぎることはあるんですよ。でもすぐに「その考えは違うぞ」って、ようやく気づけるようにはなりました。
――「肩の力、入りまくり」だったのは、地元を出て東京に来たばかりの頃とかですか?
うーん……いや、もう幼い頃、ばあちゃんの家に住まわせてもらっていた時からですね。俺は物心ついたときから両親がいなくて、祖母と叔父夫婦の家で育ったんです。捨てられたら困る、いつ出て行けって言われるかわからない、だから常に気を張ってました。
その幼少期の体験があるので、小学生のときにいきなり母親が現れたり、途中から「これがあなたの父親よ」って人が現れたりしても、なかなか肩の力を抜くことなんてできないですよ。
――著書『生き直す』(青志社)にも書かれていますが、そのお母様もお父様も、一筋縄ではいかない大人でした。
そうなのよ。母親はヤクザの親分の愛人で、ってことは、父親はヤクザの親分でしょう。それでどうやって肩の力抜いて生きていけるのよって話ですよね。
ヤクザの親分の父と愛人の母の間に生まれて
――お母様が家に来るときは、常に組の若い衆を連れていたとか。
当時は組の若い衆だとかあんまりわかってなかったですけどね。とにかくいつも黒いスーツを着たいかつい若い男たちを引き連れていて。母親と一緒に歩いていると、どんな人混みでもパーっと道ができるんです。
小学校まで車で送ってくれるときには、若い衆が先に降りてドアを開けて「坊ちゃん、いってらっしゃいませ」って。校門の目の前で、ですよ。
それまで両親がいなくて肩身の狭い思いをしていたのに、母親が現れてから急にそんなことになって、もう何がなんだかわからない。
――そういった一連のことがどういう意味を持つのか、わかるようになったのはいつ頃ですか?
「この人が父親よ」って言われた人が、中井組の組長だった中井啓一という人だってことは、小学校6年生くらいでわかってきました。名前を漢字で認識はしてなくても、「なかい」という名字はずっと聞いていたし、その名前の付いた組織があって、どうやらカタギではないっていうのは、中学校に入る頃にはだいぶ理解してましたね。
でもそれを自慢に思ったり、まわりに言いふらしたりはできなかったですよ。当時は母親のことが嫌いだったし、ましてや甘えるなんてことはできなかった。一緒に暮らし始めてからも、しばらく母親とは敬語で話してましたから。
――中学と高校は、地元の高知県にある全寮制の明徳義塾中学校・高等学校に通っていたんですよね。
はい、親の勧めで明徳義塾に行きました。野球部に入ったので、中学・高校の6年間は野球ばっかりして。たまに寮から出て帰省することができても、若い衆が「姐さんと食事の準備ができてます」って迎えに来る感じですから、ほかの同級生たちの「故郷で一家団欒」とはえらい違いですよ。
(#2上京後、AVプロダクション設立…嶋大輔との伝説の喧嘩で失ったものは…)
取材・文/おぐらりゅうじ 撮影/高木陽春
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