JAXA、イプシロンロケット6号機打ち上げ失敗の原因を特定
sorae.jp / 2023年4月19日 17時2分
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2023年4月18日、オンラインで開催された宇宙開発利用に係る調査・安全有識者会合にて、「イプシロンロケット」6号機打ち上げ失敗の原因究明結果を報告しました。【2023年4月19日12時】
イプシロンロケット6号機は内之浦宇宙空間観測所から日本時間2022年10月12日9時50分に打ち上げられましたが、燃焼を終えた第2段と第3段の分離可否を判断する時点で機体の姿勢が目標からずれていて、衛星を地球周回軌道に投入できないと判断されたため飛行を中断。同日9時57分11秒に指令破壊信号が送信されて、打ち上げは失敗しました。指令破壊された6号機の機体は、フィリピン東方の海上にあらかじめ計画されていた第2段の落下予想区域内に落下したとみられています。
機体の姿勢がずれた理由は、第2段に2基搭載されている姿勢制御用のガスジェット装置(Reaction Control System:RCS)の片方(+Y軸側)が正常に機能しなかったためであることが判明していました。ガスジェット装置はスラスタノズルからガスを噴射する時に生じる推力を利用してロケットや宇宙機の姿勢を制御するための装置で、複数のスラスタノズルを備えており、ガスを噴射するスラスタの組み合わせを変えることができます。
イプシロンロケットの第2段に搭載されているガスジェット装置は合計8基のスラスタノズルを備えていて、機体のロール角(回転)・ピッチ角(上下の首振り)・ヨー角(左右の首振り)を制御するために用いられます。イプシロンロケット6号機は第2段のエンジンが燃焼を終えるまでは姿勢を正常に制御できていたものの、第2段エンジン燃焼終了後の機体姿勢は目標値との誤差が増大していき、最終的な姿勢角誤差は約21度に達していた模様です。
関連:イプシロンロケット6号機打ち上げ失敗の原因は第2段の姿勢制御装置の異常(2022年10月19日)
4月18日の有識者会合にあわせてJAXAが公開した資料によると、第2段ガスジェット装置の推進薬(ヒドラジン)を貯蔵するタンクで製造時に生じたダイアフラム(ダイヤフラム)の損傷が、イプシロンロケット6号機の打ち上げ失敗につながったと特定されました。
イプシロンロケットの第2段ガスジェット装置は第1段が分離してから配管のパイロ弁(バルブ)が開放される仕組みになっていて、タンクに貯蔵されている推進薬は窒素ガスの圧力を利用してスラスタにつながる配管へと押し出されます。ダイアフラムはタンク内部で推進薬と窒素ガスを仕切る役割を果たす半球状のゴム製の部品です。
JAXAによると、タンクの製造時にダイアフラムを取り付ける際、ダイアフラムを固定するための部品とタンクの間にダイアフラムのシール部(気体や液体が漏れないように密閉性を確保する部分)が挟み込まれた状態で溶接作業を行うと、シール部が部分的に損傷してしまうことがわかりました。シール部が損傷したダイアフラムは仕切りとしての役割を果たせず、充填された推進薬はタンク内部のガス側に漏洩してしまいます。
すると、ダイアフラムは配管につながっている推進薬側の開口部(液ポート)へ覆いかぶさるように近接します。ダイアフラムが配管につながる開口部へ近接した状態でパイロ弁が開放されたことで、ダイアフラムが開口部に引き込まれて配管の閉塞が発生した結果、ガスジェット装置の片方(+Y軸側)が正常に機能せず、姿勢角誤差の増大につながったとみられています。
以上のことから、JAXAはイプシロンロケット6号機打ち上げ失敗の原因を「ダイアフラムシール部からの漏洩」と特定しました。その背景には使用実績のある部品に対する確認不足があり、今後は使用条件が想定と異なる場合はもちろんのこと、開発当時の設計の考え方や使用条件の根拠、製造工程・品質保証方法に立ち返って確認を実施することで、信頼性を向上させるとしています。
なお、現在開発が進められている「イプシロンS」ロケットについては以下の2案を検討し、設計に反映させるとしています。
・現タンクの設計変更:ダイアフラムシール部の設計・製造・検査改善と、ダイアフラムの閉塞防止対策を反映。
・H-IIAロケットのタンク活用:製造時にシール部の挟み込みが発生しない設計で、ダイヤフラム閉塞防止機構を備えているが、タンクの置き換えにともなう設計変更が必要。
また、イプシロンロケット第2段のガスジェット装置と同様のダイヤフラム方式を採用しているX線分光撮像衛星「XRISM」と小型月着陸実証機「SLIM」(どちらもH-IIAロケット47号機で2023年8月以降に打ち上げ予定)については、技術評価を行った結果、問題ないことを確認済みだということです。
Source
Image Credit: JAXA JAXA - イプシロンロケット6号機打上げ失敗原因調査状況について文/sorae編集部
この記事に関連するニュース
-
スペースX、欧州の測位システム「ガリレオ」の衛星を打ち上げ ロケット1段目は使用20回目
sorae.jp / 2024年5月8日 9時10分
-
イプシロン元プロマネが固体推進の革新を目指すロケットリンク - 第1回SPEXA
マイナビニュース / 2024年5月1日 8時0分
-
15年前から地球を周回し続けるロケットの一部 アストロスケールの実証衛星が撮影成功
sorae.jp / 2024年4月30日 18時0分
-
JAXA、だいち4号搭載のH3ロケット3号機を早ければ2024年6月30日に打ち上げ
sorae.jp / 2024年4月27日 7時38分
-
JAXAがH3ロケット3号機の打ち上げを6月30日に決定、先進レーダ衛星「だいち4号」を搭載
マイナビニュース / 2024年4月26日 10時23分
ランキング
-
1キウイの皮を剥くのが面倒→皮ごと食べられます! 気になる毛の解決法も伝授、ゼスプリが明かすキウイの手軽な食べ方は?
まいどなニュース / 2024年5月18日 7時0分
-
2軽自動車、20年で6割値上がり 初の平均160万円台が視野
共同通信 / 2024年5月18日 16時51分
-
3煮物だけじゃない!スーパーフード並みの栄養価「切り干し大根」の意外な食べ方
週刊女性PRIME / 2024年5月18日 8時0分
-
4有毒植物の“誤食”に要注意 死亡例も 農水省が注意喚起
オトナンサー / 2024年5月18日 20時10分
-
5ワークマンの「機能的なサンダル」3選 2000円前後で買える、アウトドアでも活躍する優秀アイテム
Fav-Log by ITmedia / 2024年5月18日 9時55分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください