理研が運用する超小型X線衛星「NinjaSat」がスペースXのファルコン9ロケットで宇宙へ
sorae.jp / 2023年11月13日 17時0分
日本時間2023年11月12日3時49分、理化学研究所が主導する超小型X線観測衛星「NinjaSat(ニンジャサット)」がスペースX社のライドシェアミッション「Transporter-9」にて打ち上げられました。NinjaSatはX線検出器を搭載した6Uサイズのキューブサットです。主にブラックホールや中性子星などのX線で明るい天体の観測を2年間にわたって行う予定です。
![【▲ 地球を周回する超小型X線観測衛星「NinjaSat」の想像図(Credit: 理化学研究所)】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2023/11/2023-11-13-NinjaSat-artist-impression.jpeg)
【▲ 地球を周回する超小型X線観測衛星「NinjaSat」の想像図(Credit: 理化学研究所)】
NinjaSatは、理化学研究所の玉川高エネルギー宇宙物理研究室を中心に、榎戸極限自然現象理研白眉研究チームや他大学との小さなコラボーレションで開発された超小型衛星です。スペースXの「ファルコン9」ロケットで地球低軌道(LEO)に投入された後、今年度中の観測開始を想定しています。
NinjaSatには1Uサイズの「ガスX線検出器(GMC)」が2台搭載されており、ブラックホールや中性子星などのX線で明るい天体を観測する予定です。さらに、衛星の軌道上の荷電粒子を継続的に監視する「放射線帯モニター(RBM)」も2台搭載されています。X線観測に加えて、この装置の測定結果による科学的な成果も期待されています。
NinjaSatには2つのユニークなポイントがあります。1つ目のポイントは特定の天体のモニタリング観測ができる点で、研究室単位で開発された超小型衛星であるために観測の自由度が高く、超小型衛星の中ではX線をたくさん検出できることから、天文学でのサイエンス創出が期待できます。
X線天文学では大型観測衛星による観測が一般的です。2023年9月27日に打ち上げられた宇宙航空研究開発機構(JAXA)が主導するX線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」もその一例です。これらの大型衛星は設計寿命があり、その限られた時間の中で最大の科学成果を達成する必要があります。そのため、特定の天体を長時間見ることで解明できるような科学課題や、失敗の可能性も高い挑戦的なテーマに取り組むことは難しいのです。
しかし、NinjaSatの運用は理化学研究所の高エネルギー宇宙物理研究室によって行われるため、彼らが求める科学成果に合わせた観測が実施されます。計画では中性子星を含む「かに星雲」や「さそり座X-1」、ブラックホールである「はくちょう座X-1」などの観測が想定されています。
![【▲ 超小型X線観測衛星「NinjaSat」の外観(Credit: 理化学研究所)】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2023/11/2023-11-13-NinjaSat.jpeg)
【▲ 超小型X線観測衛星「NinjaSat」の外観(Credit: 理化学研究所)】
2つ目のポイントは民間企業を巻き込んだ協力開発体制が構築されている点です。2020年に本格始動した開発からわずか3年で打ち上げを迎えたNinjaSatですが、NinjaSatチームが行ったのは主にX線検出器と放射線帯モニターの開発です。それ以外の人工衛星全体のフレームや電源系などの部分は、宇宙での自社製品の運用実績が豊富な民間企業に委託しています。このような開発体制を構築したことで、NinjaSatチームは最終的に目指す科学成果を最大化させるために重要な検出器をより精緻に開発することができています。
さらに、この開発体制と内部構造をフレームワークとして展開することで、NinjaSatチームはX線衛星としての意外な活用方法を提案する予定です。宇宙実験を実現しようとすると、一般的に10年近い時間が必要になります。宇宙での実験に興味を持っている研究者は多いものの、研究サイクルの短い分野ではたとえ5年でも待てません。NinjaSatの今回の運用が滞りなく進めば、この開発体制フレームに則りスピーディーに宇宙実験を実現できるようになると見込まれています。多くの分野を巻き込み、全体の財源を増やすことで、科学技術の進歩と民間企業のベースアップを図ることもNinjaSatのビジョンには含まれています。
NinjaSatの開発責任者である理化学研究所の玉川徹主任研究員は「一般的に超小型衛星は教育目的と考えられ、科学観測には向いていないと認識されてきました。我々の開発したNinjaSatのX線検出の感度はこれまでの超小型衛星と一線を画すものなので、その認識を覆したいです」と語っています。
地球低軌道に投入されたNinjaSatは、衛星が安全に運用できることを確認するチェックフェーズを経て、2024年には観測運用をスタートさせる計画とのこと。その後は観測結果の分析、論文執筆など多くのハードルが待っています。これらをクリアしていき、多角的なユニークポイントを持つNinjaSatでしか達成し得ない科学成果が出てくることを祈ります。加えて、その成功から天文学全体の科学技術の進歩と財源の増加につながる流れができることに期待します。
![【▲ NinjaSatを含む90のペイロードを搭載して打ち上げられた「Transporter-9」ミッションのファルコン9ロケット(Credit: SpaceX)】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2023/11/2023-11-13-SpaceX-Transporter9-F-sIfGYbMAA7PHY.jpg)
【▲ NinjaSatを含む90のペイロードを搭載して打ち上げられた「Transporter-9」ミッションのファルコン9ロケット(Credit: SpaceX)】
本稿はポッドキャスターの佐々木亮さんによる寄稿記事です。玉川主任研究員をはじめとする開発メンバーによるNinjaSatの詳しい解説などは、Podcast「佐々木亮の宇宙ばなし」(Apple Podcast、Spotify)で配信されています。
Source
理化学研究所 - キューブサットX線衛星NinjaSatの打ち上げについて -機動的で自由度の高いX線天文観測の実現へ- SpaceX (X, fka Twitter)文/佐々木亮 編集/sorae編集部
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