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放出したのは超新星爆発か連星ブラックホールか? 市民科学プロジェクトで見つかった400光年先の高速度星

sorae.jp / 2024年8月23日 20時30分

こちらは「りょうけん座(猟犬座)」の方向約400光年先で見つかった天体「CWISE J124909.08+362116.0」、以下「J1249+3621」の起源についての想像図です。右の赤い天体がJ1249+3621で、左には超新星爆発を起こした白色矮星が描かれています。太陽は天の川銀河を秒速約220kmで公転していますが、J1249+3621はずっと速い秒速約456km=時速約164万kmで移動する高速度星の1つであり、天の川銀河から脱出していく可能性があると考えられています。

【▲ 約400光年先で見つかった高速度星「CWISE J124909.08+362116.0(J1249+3621)」の起源についての想像図。J1249+3621はかつて白色矮星の伴星であり、ガスを奪った白色矮星が超新星爆発(Ia型超新星)を起こした時に放り出されたとする説に基づいている(Credit: W. M. Keck Observatory/Adam Makarenko)】【▲ 約400光年先で見つかった高速度星「CWISE J124909.08+362116.0(J1249+3621)」の起源についての想像図。J1249+3621はかつて白色矮星の伴星であり、ガスを奪った白色矮星が超新星爆発(Ia型超新星)を起こした時に放り出されたとする説に基づいている(Credit: W. M. Keck Observatory/Adam Makarenko)】

J1249+3621は市民科学プロジェクト「Backyard Worlds: Planet 9」に携わる市民科学者たちによって発見されました。このプロジェクトはアメリカ航空宇宙局(NASA)が2009年から2011年にかけて実施した赤外線での全天観測ミッション「WISE(Wide-field Infrared Survey Explorer、ワイズ)」の観測データを利用して、太陽系の未発見の惑星や褐色矮星といった暗い天体をボランティアの協力の下で捜索するべく2017年2月にスタート。これまでに8万人以上の市民科学者が参加しています。

市民科学者による発見の後、地上の望遠鏡によるJ1249+3621の追加観測が行われました。ハワイのマウナケア山頂にあるW. M. ケック天文台によると、カリフォルニア大学サンディエゴ校のAdam Burgasserさんが同天文台の分光観測装置「NIRES(Near-Infrared Echellette Spectrograph)」を使って観測した結果、J1249+3621は太陽などの主系列星(矮星)よりも光度が低い準矮星の一種(L型)である可能性が示されています。ただし、J1249+3621の質量は中心部で水素の核融合反応が継続する下限(太陽質量の約8%)付近とみられており、小質量の恒星である可能性が高いものの、恒星と惑星の中間的な天体である褐色矮星の可能性もあるようです。

どうしてJ1249+3621が天の川銀河を脱出するほどの速度で移動するようになったのか、その理由はまだ判明しておらず、Burgasserさんを筆頭とする研究チームは2つの仮説を提唱しています。

1つは白色矮星を含む連星系を起源とする説です。白色矮星は、太陽のように比較的軽い恒星(質量は太陽の8倍以下)が赤色巨星へと進化し、周囲にガスや塵(ダスト)を放出した後に残った中心核(コア)から進化した天体です。この白色矮星が別の恒星と連星を成していた場合、恒星から引き寄せられたガスが白色矮星に降り積もることがあります。やがて白色矮星の質量が一定の質量(太陽の約1.4倍)を超えると暴走的な核融合反応が発生し、超新星爆発の一種である「Ia型超新星」を起こして吹き飛ぶと考えられています。

この説では、J1249+3621はかつて白色矮星の伴星だったと仮定しています。ガスを奪った白色矮星が超新星爆発を起こした時、重力による結びつきが断たれたJ1249+3621は爆発の衝撃も加わって高速で放り出されたのではないかというわけです。冒頭の画像はこの説をもとに描かれました。ただし、超新星爆発が起きたのは数百万年前だとみられており、その残骸はすでに散逸しているはずなので、決定的な証拠はないとBurgasserさんは語っています。

【▲ 白色矮星の伴星だったとする仮説をもとにJ1249+3621が放り出される様子を示した動画】
(Credit: W. M. Keck Observatory/ Adam Makarenko)

もう1つは球状星団を起源とする説です。球状星団とは数万~数百万個の恒星が球状に集まっている天体のことで、天の川銀河ではこれまでに約150個の球状星団が見つかっています。その中心部にはさまざまな質量のブラックホールが存在すると予想されていて、その一部は連星を成しているとも考えられています。こうした連星ブラックホールに恒星が接近すると、複雑な相互作用によってカタパルトのように連星ブラックホールが恒星を打ち出す可能性があるといいます。

研究に参加したカリフォルニア大学サンディエゴ校のKyle Kremerさんがシミュレーションを実行したところ、まれに小質量の準矮星が球状星団から放出されて、観測されたJ1249+3621に似た軌道をたどる可能性が示されました。ただし、具体的にどの球状星団が起源なのかはわからないとKremerさんは語っています。

J1249+3621の起源を探るために、研究チームは元素組成を詳しく調査したいと考えています。仮に白色矮星の伴星だった場合、超新星爆発の時に生成された重元素が放り出されていくJ1249+3621の大気を“汚染”した可能性があります。また、天の川銀河の球状星団や衛星銀河(伴銀河)の星々にみられる特徴的な元素組成から、J1249+3621の起源についての手がかりが得られるかもしれません。どちらの仮説が正しくても、あるいはどちらも正しくなかったとしても、J1249+3621の起源に関する研究は天の川銀河の歴史とダイナミクスをより深く学ぶ機会になると期待されています。

 

Source

NASA - NASA Citizen Scientists Spot Object Moving 1 Million Miles Per Hour W. M. Keck Observatory - Tracking a Lone Star Speeding Across the Milky Way UC San Diego - Lone Star State: Tracking a Low-Mass Star as it Speeds Across the Milky Way Burgasser et al. - Discovery of a Hypervelocity L Subdwarf at the Star/Brown Dwarf Mass Limit (The Astrophysical Journal Letters)

文・編集/sorae編集部

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