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今の宇宙で「ヒッグス場の崩壊」が起きていない以上、「原始ブラックホール」は無いかもしれない?

sorae.jp / 2024年8月27日 21時0分

現在の宇宙の環境の基本であり、全ての素粒子の質量の源である「ヒッグス場」(※1)は、宇宙の誕生直後のかなり早い段階で生成され、その後現在まで一切変化していないとされています。一方で、現在の宇宙のヒッグス場は完全に安定しているのではなく、実際には準安定状態で保たれているという予測もあります。もし現在のヒッグス場が準安定状態の場合、より完全な安定状態へと崩壊する可能性はゼロではありません。その場合、私たちが知る構造も全て崩壊してしまうでしょう。これは「ヒッグス場の崩壊」、または「偽の真空の崩壊」とも呼ばれます。

※1…厳密に言えば、素粒子が亜光速で運動して生じる質量など、ヒッグス場とは無関係に生じる質量もありますが、これも源流を辿ればヒッグス場で生じた質量に行きつくため、ここでは割愛します。

キングス・カレッジ・ロンドンのLouis Hamaide氏などの研究チームは、誕生直後の宇宙で生成したと考えられている「原始ブラックホール」について、その蒸発が準安定なヒッグス場を崩壊させるのに十分なエネルギーを生じることを理論的に示しました。しかし、いくつかの宇宙モデルで予言される原始ブラックホールの数はかなり多いため、約138億年の歴史の中でヒッグス場の崩壊が起きていないという現状と一致しません。つまりこの結果からすれば、大量の原始ブラックホールの生成を仮定するいくつかの宇宙モデルは排除されることになります。

逆に、原始ブラックホールが存在するならば、ヒッグス場の崩壊を防ぐための未知の物理過程が存在することになります。こちらの場合、全く未知の素粒子か相互作用があることを示唆する発見となるため、現在の物理学を書き換える必要があります。

【▲ 図1: 宇宙を満たす原始ブラックホールのコンセプトアート。原始ブラックホールの小ささから、実際には降着円盤を形成することは困難です。(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center)】【▲ 図1: 宇宙を満たす原始ブラックホールのコンセプトアート。原始ブラックホールの小ささから、実際には降着円盤を形成することは困難です。(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center)】 ■ヒッグス場を崩壊させる現象はあるのか?

1964年にピーター・ヒッグス氏やフランソワ・アングレール氏などが提唱した「ヒッグス機構」は、全ての素粒子の質量の起源を説明する基礎的な理論です。ヒッグス機構では、「ヒッグス場」と呼ばれる場が宇宙を満たしており、そこに存在する素粒子は質量を持ちます。2012年に大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で行われた実験でヒッグス粒子が発見されたことによりヒッグス場の実在が確認され(※2)、ヒッグス機構の提唱に貢献を果たしたヒッグス氏とアングレール氏には2013年にノーベル物理学賞が贈られました(※3)。

※2…より厳密に言えば、ヒッグス場を量子化したものがヒッグス粒子です。

※3…ただしヒッグス機構と同じ理論は、同時期に他の研究者も提唱しています。ヒッグス氏は同時期の提唱者に敬意を表して、この理論はヒッグス氏ら8氏の頭文字から「ABEGHHK'tH機構」と呼ぶべきであると提唱しています。

ヒッグス場が生成され、現在の状態になったのは、宇宙が誕生してから1兆分の1秒後の頃です。標準的な宇宙論では、ヒッグス場はこれ以上変化しない、最も安定した状態になっていると仮定しています。しかし理論的には、現在のヒッグス場は真に安定した状態ではなく、長い時間の中で崩壊しうる準安定状態であるという可能性は排除されていません。この場合、長い時間をかければ真に安定した状態へと崩壊する可能性があります。もし現在のヒッグス場が崩壊した場合、全ての素粒子の質量が変わってしまうため、私たち自身を含め、宇宙の全ての構造は崩壊してしまいます。この現象は「ヒッグス場の崩壊」、または「偽の真空の崩壊」とも呼ばれます。

ただし、今すぐヒッグス場の崩壊を心配する必要はありません。どんなに悲観的に評価しても、ヒッグス場の崩壊は100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000年後(10の65乗年後)にならないと起こらないと考えられているためです。これよりはるか以前の時代に、全ての恒星は輝くのを止め、全ての原子は崩壊しています(※4)。とはいえ、ヒッグス場の崩壊の引き金となる要因は何であるかは気になるところです。

※4…星形成が停止し、全ての恒星が寿命を終えるのは今から100兆年後、原子の主要な構成物である陽子が崩壊し尽くすのは今から10の43乗年後であると言われています。

例えば先述のLHCの場合、高エネルギーな粒子衝突実験が行われるため、ブラックホールの生成やヒッグス場の崩壊を招くのではないかと懸念する声もありました。ただし、宇宙にはオー・マイ・ゴッド粒子やアマテラス粒子と言った、LHCよりはるかに高エネルギーな粒子の衝突が頻繁に起きており、LHCや次世代の加速器実験でヒッグス場が崩壊することを心配する必要はありません。むしろこれは、宇宙ではるかに高エネルギーな現象が頻繁に起きているにもかかわらず、ヒッグス場は簡単には崩壊しないことを示しています。

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