日欧の水星探査機「ベピ・コロンボ」が最後の水星スイングバイを実施 水星到着は2026年11月
sorae.jp / 2025年1月10日 22時5分
日本時間2025年1月8日、欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の水星探査ミッション「BepiColombo(ベピ・コロンボ)」の探査機による第6回水星スイングバイが実施されました。BepiColomboのスイングバイは今回が最後で、次に水星を訪れた探査機はいよいよ周回軌道に入ることになります。
BepiColomboとは? 【▲ 水星(右下)を周回する欧州宇宙機関(ESA)の水星表面探査機「MPO」(中央)と、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の水星磁気圏探査機「MMO」(みお、左上)のイメージイラスト(Credit: Spacecraft: ESA/ATG medialab; Mercury: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington)】BepiColomboは水星の表面や内部を観測するヨーロッパの水星表面探査機「Mercury Planetary Orbiter(MPO)」と、水星の磁場、プラズマ、希薄な大気といった水星周辺の環境を観測する日本の水星磁気圏探査機「Mercury Magnetospheric Orbiter(MMO、みお)」の2機による日欧共同の水星探査ミッションです。
ここに、両探査機の水星周回軌道投入前までの飛行を担当するヨーロッパの電気推進モジュール「Mercury Transfer Module(MTM)」が加わり、現在の3機は縦に積み重なった状態で飛行を続けています。水星に到着したMPOとMMO(みお)は高度が異なる別々の軌道を周回しながら、1年間にわたって科学観測を行う予定です。
【▲ BepiColombo探査機の分解図。上から:日本の水星磁気圏探査機「MMO(みお)」、水星周回軌道に投入されるまでのあいだMMOを保護する筒状のサンシールド、欧州の水星表面探査機「MPO」、欧州の電気推進モジュール「MTM」(Credit: ESA/ATG medialab)】 合計9回のスイングバイを完了 最接近後に水星の北極周辺を撮影BepiColomboミッションでは探査機を水星周回軌道へ投入するために、地球・金星・水星で合計9回のスイングバイ(※太陽を公転する惑星などの重力を利用して軌道を変更する方法)実施が計画されました。今回行われたのは全体で9回目・水星では6回目となる最後のスイングバイです。
ESAによると、BepiColombo探査機は日本時間2025年1月8日14時59分に水星へ最接近しました。表面からの距離は295kmで、その7分ほど後には水星の北極上空を通過。その飛行中に撮影された画像が2025年1月9日付でESAから公開されています。
【▲ BepiColombo探査機の第6回水星スイングバイ時、日本時間2025年1月8日15時7分にMTMのモニタリングカメラ1(M-CAM1)で撮影された水星(Credit: ESA/BepiColombo/MTM)】1点目は最接近から8分後の日本時間2025年1月8日15時7分にMTMのモニタリングカメラ1(M-CAM1)で取得された画像です。この時の水星表面からの距離は約787kmでした。
今回のスイングバイで水星の北極上空を飛行したBepiColombo探査機は、永久影が生じる北極周辺のクレーターを撮影する機会を得ました。水星の自転軸は公転軌道が描き出す平面に対してほぼ垂直になっているため、極域のクレーターの底には太陽光が当たらない領域が生じ得ます。
画像の中央にはちょうど昼夜の境界線に沿うようにして、プロコフィエフ・クレーター(Prokofiev、直径約112km)、カンディンスキー・クレーター(Kandinsky、直径約60km)、トールキン・クレーター(Tolkien、直径約50km)、ゴーディマー・クレーター(Gordimer、直径約58km)といった、北極周辺のクレーターが写っています。
【▲ BepiColombo探査機の第6回水星スイングバイ時、日本時間2025年1月8日15時12分にMTMのモニタリングカメラ1(M-CAM1)で撮影された水星(Credit: ESA/BepiColombo/MTM)】2点目は最接近から13分後の日本時間2025年1月8日15時12分にMTMのM-CAM1で取得された画像です。この時の水星表面からの距離は約1427kmでした。
ESAによると、ここに写っているエリアはクレーターが多いものの、溶岩流によって表面がなめらかになっています。太陽電池パドルの上に見えているメンデルスゾーン・クレーター(Mendelssohn、直径約291km)は縁がまだ見えていますが、大部分は溶岩に覆われています。
メンデルスゾーン・クレーターの周囲に広がる平原はボレアリス平原(Borealis Planitia)と呼ばれており、約37億年前に粘性の低い溶岩が流れ出たことで形成されたと考えられています。また、左下には水星の地形のなかでも有名なカロリス盆地(Caloris Basin、直径約1500km)の一部が写っています。
【▲ BepiColombo探査機の第6回水星スイングバイ時、日本時間2025年1月8日15時17分にMTMのモニタリングカメラ2(M-CAM2)で撮影された水星(Credit: ESA/BepiColombo/MTM)】3点目は最接近から18分後の日本時間2025年1月8日15時17分にMTMのモニタリングカメラ2(M-CAM2)で取得された画像です。この時の水星表面からの距離は約2103kmまで離れていました。
画像に向かって上側の縁に一部が見えている火山(Nathair Facula)は噴出口の直径が約40kmで、ESAによれば大規模な噴火が少なくとも3回起きたとみられています。爆発的な噴火にともなう噴出物は直径約300kmの範囲に堆積しており、BepiColomboミッションの主な観測対象のひとつとして噴出した物質の組成が調べられる予定です。
また、左下に見えているフォンテイン・クレーター(Fonteyn、直径約29km)は約3億年前に形成された比較的新しいクレーターです。水星表面の物質は風化作用によって時間が経つほど暗くなっていくといいますが、このクレーター周辺の物質はまだ明るさを保っていることがわかります。
BepiColomboミッションの水星到着は2026年11月水星で6回目のスイングバイを終えたBepiColombo探査機は、2年近く後の2026年11月に水星へ到着する予定です(※)。役目を終えたMTMが切り離された後、MPOはMMO(みお)を載せたままの状態で水星を周回する長楕円の極軌道(約1万1800km×400km)に進入。MMOを分離した後のMPOはさらに低い軌道(約1500km×400km)に移り、2機の探査機は共同で水星とその周辺を観測することになります。
【▲ 水星スイングバイを行う日欧の水星探査ミッション「BepiColombo(ベピ・コロンボ)」探査機の想像図(Credit: ESA/ATG medialab)】※…打ち上げ時点では2025年12月に水星へ到着する予定でしたが、MTMのイオンエンジンが必要な推力を発揮できない状況になったため、得られる推力で水星に到着できる軌道をESAが再検討した結果、2026年11月に変更されています。
日欧の水星探査ミッション「ベピ・コロンボ」探査機が第5回水星スイングバイを実施(2024年12月3日) 水星探査ミッション「ベピ・コロンボ」スイングバイ時の観測データが描き出した水星磁気圏の様相(2024年10月5日) 日欧の水星探査ミッション「ベピ・コロンボ」第4回水星スイングバイ時の画像公開(2024年9月8日) 日欧の水星探査ミッション「ベピ・コロンボ」水星到着時期を2026年11月に変更(2024年9月3日)
Source
ESA - Top three images from BepiColombo's sixth Mercury flyby文・編集/sorae編集部
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