1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. 環境・自然・科学

小惑星「2024 YR4」が2032年に衝突する? ただし杞憂に終わる可能性が高い

sorae.jp / 2025年2月4日 21時23分

※著者注: 本記事の内容は、2025年2月3日時点での情報をもとにしています。本記事の公開前や公開直後に、情報が更新されている可能性があることをご了承下さい。

1990年代以降、地球の近くを通過する「地球近傍天体(NEO)」(※1)の衝突可能性について真剣に調査し、文明への影響をリスク評価することが真剣に行われています。そして観測や関連する技術の向上により、地球近傍天体の観測数と精度は向上し続けています。

※1…地球の近くを通過するため(より厳密な定義については割愛)、潜在的に地球への衝突可能性がある天体を「地球近傍天体(NEO)」と呼びます。NEOのうち、小惑星に限定した用語を「地球近傍小惑星(NEA)」と呼びます。ただし、NEOの99%以上が小惑星であるため、NEOとNEAは事実上同義語で使われることもあります。

2025年1月27日、その約1か月前に発見されたばかりの小惑星「2024 YR4」について、推定直径が比較的大きいことと、2032年の衝突確率が1%を超えたことから、天体衝突に関する尺度である「トリノスケール」でレベル3の評価を受けました。レベル2以上の評価を受けた小惑星は3例目であり、史上2番目に大きな値となります。

ただし今のところは、2024 YR4の衝突について一般社会が心配する必要はありません。これは小惑星の衝突リスクの評価の仕方の関係上、どうしても一時的に衝突リスクを過大に見積もる期間があることが関係しています。過去の観測実績も踏まえると、2024 YR4の衝突を心配するのは、杞憂(取り越し苦労)に終わる可能性が極めて高いと言えます。

「2024 YR4」は珍しい評価を受けた小惑星 ヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡(VLT)によって撮影された2024 YR4(中央の固定された光点)。【▲ 図1: ヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡(VLT)によって撮影された2024 YR4(中央の固定された光点)。(Credit: ESO & O. Hainaut et al.)】

今回の話題の主役である小惑星「2024 YR4」は、2024年12月27日に「小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS; Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System)」によって発見されました。2024年9月から2025年1月にかけて、明るくなると予測された彗星3つ(※2)にATLASの名がついていることから聞いたことのある名かもしれません。しかしATLASによる彗星の発見は副産物であり、本来の目的は衝突するリスクのある小惑星を事前に発見し、警告を発することです。

※2…「紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)」、「ATLAS彗星(C/2024 G3)」、「ATLAS彗星(C/2024 S1)」のこと。

推定直径約55m、質量約22万tと推定される2024 YR4は、2032年12月22日に地球へ衝突する確率がゼロではないかもしれないと発見直後に推定され、すぐに世界中の天文台が観測を開始し、過去の観測データの分析結果も含め、衝突確率が計算されました。結果として算出された、2032年における2024 YR4の衝突確率は、発見から1か月後の2025年1月27日算出時点で1%を超えました。

図2: 2024 YR4が2032年に衝突するとした場合、その範囲はこの地図の赤線のどこかとなります。(Credit: Robert Lea, Daniel Bamberger & Northolt Branch Observatories)【▲ 図2: 2024 YR4が2032年に衝突するとした場合、その範囲はこの地図の赤線のどこかとなります。(Credit: Robert Lea, Daniel Bamberger & Northolt Branch Observatories)】

2024 YR4のような小惑星が地球に衝突する確率は数千年に1回程度と考えられます。2024 YR4の場合、衝突する場所の候補は広いものの、東南アジア、インド亜大陸、アフリカ大陸、南アメリカ大陸を通過する範囲内のどこかに落下すると推定されます。万が一、都市上空に落下した場合、甚大な被害をもたらすでしょう。2013年にロシアのチェリャビンスク州で発生した隕石災害の場合、落下した小惑星の直径はわずか約17mでした。2024 YR4の直径からすると、想定される被害の規模は1908年のツングースカ大爆発に匹敵するでしょう。

このように衝突確率が1%を超えたことと、衝突した場合の被害が大きいことから、2024 YR4は「トリノスケール」においてレベル3の評価を受けました。トリノスケールがレベル2以上の評価を受けるのは、レベル4の評価を受けたことのある99942番小惑星「アポフィス」と、レベル2の評価を受けたことのある144898番小惑星「2004 VD17」に次いで観測史上3番目であり、観測史上2番目に大きな値です(※3)。

※3…さらに細かいことを言えば、アポフィスはどの時点でもレベル3の評価を受けたことがないため、2024 YR4はレベル3の評価を受けた史上初の天体でもあります。

これほどのサイズの小惑星の衝突確率が1%を超えるのは珍しいため、国連が定めた小惑星衝突に関する2つの国際機関である「国際小惑星警報ネットワーク(IWAN)」と「宇宙ミッション・プランニング諮問グループ(SMPAG)」がこの小惑星に注目しています。また小惑星の衝突確率は、アメリカ航空宇宙局(NASA)の「地球近傍天体研究センター(CNEOS)」、「欧州宇宙機関(ESA)」、そしてイタリアを中心とした天文グループ「NEODyS」がそれぞれ独立して算出し、算出確率の根拠となる観測データを世界中の天文台が提供しています。

現時点で衝突の心配をする必要はない

ただし、2024 YR4の衝突について心配するのは、現時点では杞憂に終わる可能性が高いと言えます。この小惑星についてのメディア報道は、2025年1月27日に算出された衝突確率1.2%という数値が頻繁に引用され、中にはタイトルに含めている記事もあることから、この確率が独り歩きしている状態です。また、2024 YR4の衝突確率は、1か月の間に0.096%から1.7%まで一貫して上昇し続けていることから、「このまま衝突確率が上がり続けるのではないか」と思うのも無理はありません。

図3: 小惑星の衝突確率の算出方法は、一時的な衝突確率の上昇をもたらします。①発見されたばかりの小惑星は軌道が定まっていないため、予測される通過位置は広い範囲に及びます。②観測が進むと通過する範囲が絞られますが、予測される通過位置の範囲内に地球がある場合、衝突しない確率が減る分だけ、衝突確率は上昇します。③ただし大半の小惑星は、いつかは予測される通過位置が地球に被らなくなり、衝突確率がゼロになります。(Credit: ESA / 著者(彩恵りり)によるキャプチャおよび日本語訳注を追加)【▲ 図3: 小惑星の衝突確率の算出方法は、一時的な衝突確率の上昇をもたらします。①発見されたばかりの小惑星は軌道が定まっていないため、予測される通過位置は広い範囲に及びます。②観測が進むと通過する範囲が絞られますが、予測される通過位置の範囲内に地球がある場合、衝突しない確率が減る分だけ、衝突確率は上昇します。③ただし大半の小惑星は、いつかは予測される通過位置が地球に被らなくなり、衝突確率がゼロになります。(Credit: ESA / 著者(彩恵りり)によるキャプチャおよび日本語訳注を追加)】

ただしこれは、小惑星の衝突確率の算出方法の関係上、衝突確率が一時的に過大評価されてしまう性質がある、という背景を踏まえないといけません。発見されたばかりの小惑星は、将来的にどの位置を通過するのか不確実であり、非常に広い範囲のどこかを通過することになります。この通過する位置の予測範囲内に地球が入ると「衝突確率はゼロではない」と表現されます。

小惑星の観測が続けられると、通過する位置の予測範囲は狭まります。しかし地球がその範囲内に入り続けている場合、より狭まった範囲の中に地球が含まれているため、相対的に衝突確率は上がることになってしまいます。これが衝突確率の一時的な上昇です。

もし実際に、小惑星が地球に衝突する場合、いつかは通過する位置の予測範囲が地球の内部に収まり、その時点で衝突確率は100%になるでしょう。しかしながら大半の場合、地球は予測範囲の中でも通過確率の高い部分を外れているため、いつかは範囲外となり、衝突確率はゼロとなります。この算出方法の関係上、多くの小惑星の衝突確率は少しずつ上昇した後、ゼロへと急落します。現にこの記事を執筆している時点で、衝突確率は1.7%でピークを迎えた後、衝突確率はやや減じて1.4%となっています。

つまり、一時的に上昇し続ける衝突確率を心配するのは杞憂であると言えます。ちょうど、杞憂と言う言葉が「古代中国の杞という国に、天が落ち、地が崩れるのではないかと心配し、食事も睡眠もままならない人がいた」という故事にちなんでいるように、実際に天=小惑星が落ちてくる可能性はかなり低いと言えます。

図4: 2032年の最接近時に2024 YR4の予測される軌道を黄色の点で表したもの。2025年1月31日までの観測データに基づき、衝突確率が1.6%と計算された時点での図。白の円は月の公転軌道を示しています。予測された軌道のうち、ごく一部だけが地球と重なっています。(Credit: NASA / CNEOS)【▲ 図4: 2032年の最接近時に2024 YR4の予測される軌道を黄色の点で表したもの。2025年1月31日までの観測データに基づき、衝突確率が1.6%と計算された時点での図。白の円は月の公転軌道を示しています。予測された軌道のうち、ごく一部だけが地球と重なっています。(Credit: NASA / CNEOS)】

これは、2024 YR4がトリノスケールレベル3という評価を受けたことを踏まえても分かります。確かにレベル3という評価はめったにあるものではないため、その意味で天文学者はこの小惑星に注目しています。一方でトリノスケールレベル3という評価は、衝突確率がゼロになる確率が高いという前提があります。

Torino Scale Level 3: A close encounter, meriting attention by astronomers. Current calculations give a 1% or greater chance of collision capable of localized destruction. Most likely, new telescopic observations will lead to reassignment to Level 0. Attention by public and by public officials is merited if the encounter is less than 10 years away.

「トリノスケールレベル3: 天文学者が注意を払うに値する接近遭遇である。現在の計算では、衝突による局所的な破壊が起こる可能性は1%以上と算出されている。望遠鏡による新たな観測を重ねれば、レベル0(筆者注: 衝突確率がゼロなこと)に再評価される可能性が極めて高い。接近遭遇が10年を切っているならば、公共や公共機関が注意するに値する」

実際、レベル4の評価を受けたアポフィスや、レベル2の評価を受けた2004 VD17は、その後の観測でいずれもレベル0へと格下げされています。トリノスケールでレベル4以下の評価は、衝突確率がゼロへと再評価される可能性が高いことを前提とした評価であるため、基本的に慌てる必要はないと言えます。

2046年に衝突しない! 小惑星「2023 DW」は衝突可能性なしと再評価(2023年3月23日) 情報の伝え方が重要になる時代

衝突する確率がゼロではない小惑星について、そのリスクが過度に高く捉えられ、誤った認識が拡散するというのは今に始まった話ではありません。しかしSNSがこれほど発達した時代において、万が一衝突すれば大きな被害が出る小惑星の衝突確率が1%以上と算出されたケースは初のことです。

特に、衝突確率1.2%という数値が、その算出の背景を踏まえずに独り歩きしているというのが、筆者の率直な印象です。すでに1.2%という数字は(うわべだけを見れば一時期悪い方向に)更新されているにも関わらず、です。

ESAなどでは、記事の冒頭で「(前略)この小惑星が2032年に衝突する可能性は非常に低い(which has a very small chance of impacting Earth in 2032)」と書いている通り、過度な心配が広まらないように意図した表現を心がけています。このように冒頭で衝突可能性が低いことを示す文言は、衝突可能性が当初からゼロである小惑星に関する記事でも多く書かれるようになっています。

これは、過去に小惑星の衝突可能性が独り歩きし、過剰反応が起きた経緯を踏まえてのことです。例えば、2003年に発見された143649番小惑星「2003 QQ47」は、当初算出された衝突確率がゼロではないという理由から報道が過熱し、トリノスケールの文言を全体的に改定するきっかけとなりました。それから20年あまり、世界に向けての情報発信が簡単である現在においては、どのような表現方法で情報を伝えていくのかが大切であると筆者は考えています。

衝突確率算出の良いニュースと悪いニュース

ただし、今後心配になる状況もあります。それは、2024 YR4の衝突確率が一時的に増減しなくなる状況が数年間続く可能性があるということです。2024 YR4が暗くなりすぎるため、2025年2月中旬ごろから2028年までは観測ができなくなります。観測情報が無ければ衝突確率を変更することもできないため、数年もの間、衝突確率が比較的高い数値で固定されたまま、情報が掲載され続ける可能性もあります。2025年2月中旬のリミットまでに観測情報が出揃い、トリノスケール0への格下げができるかどうかは現時点で不明です。仮に、2028年以降に衝突可能性がゼロになったとしても、数年間確率が変動しない状況を、一般社会がどのように捉えるのかを気にする必要があるかもしれません。

図5: 2025年2月6日に観測できると予測される、2024 YR4による恒星の掩蔽の観測範囲。(Credit: Franck Marchis)【▲ 図5: 2025年2月6日に観測できると予測される、2024 YR4による恒星の掩蔽の観測範囲。(Credit: Franck Marchis)】

一方で良いニュースもあります。2025年2月6日に11等級の恒星「UCAC4 514-045124」の手前を2024 YR4が通過して隠す掩蔽が、南北アメリカ大陸で観測できると予測されています。2024 YR4の見た目の位置の不確実性が高いため、観測可能な正確な地点は不明ですが、逆に言えば「各地での掩蔽が観測できるorできない」という情報を繋ぎ合わせることで、2024 YR4の正確な位置が分かるようになります。これは2024 YR4の公転軌道をより正確に算出する大きな手掛かりとなり、もしかするとトリノスケール0への格下げに大きく貢献することになるかもしれません。

 

Source

Minor Planet Electronic Circular. “MPEC 2024-Y140 : 2024 YR4”.(Minor Planet Center) “2024 YR4”.(Minor Planet Center) “(2024 YR4) -- Earth Impact Risk Summary”.(CNEOS) “2024YR4 IMPACTOR TABLE”.(NEODyS-2) “ESA actively monitoring near-Earth asteroid 2024 YR4”.(ESA) David L. Chandler. “Newly Discovered Asteroid Has Slight Chance of Earth Impact in 2032”.(Sky & Telescope) Robert Lea. “Astronomers discover 196-foot asteroid with 1-in-83 chance of hitting Earth in 2032”.(Space.com) Kelly Kizer Whitt. “Asteroid 2024 YR4 triggers a Potential Impact Warning Notification”.(EarthSky)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください