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地球に向かう小惑星を核爆発で破壊。惑星防衛の切り札になる可能性を示した研究成果

sorae.jp / 2021年10月9日 21時30分

核爆発のイメージ(Credit: Shutterstock)

【▲ 小惑星破壊のイメージ(Credit: Shutterstock)】

地球に衝突しそうな小惑星を核爆発で破壊する。映画「アルマゲドン」や「ディープ・インパクト」といったSF作品のような話ですが、今回、小惑星の衝突から人類を守る手段として核爆発による小惑星の破壊をシミュレーションで再現し、分析を行った研究成果がPatrick Kingさん(ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所)たち研究グループから発表されました。Kingさんは今回の主要な成果として、核爆発による小惑星の破壊が「最後の手段」として効果的であることが判明したと言及しています。

■衝突まで1年以内でも衝突する破片の総質量を大幅に減らせる可能性

直径100mの小惑星(そろばん玉形)の表面から数mの位置で1メガトンの核爆発が発生した場合を想定したシミュレーションの映像。断片化した小惑星のふるまいが再現されている(Credit: LLNL)

Kingさんはアメリカのローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)の大学院生奨学金プログラムのもとで研究を行っていた頃、同研究所の惑星防衛(※)グループの研究者とともに、表面付近で起きた核爆発によって無数の破片に断片化された小惑星のふるまいをシミュレーションで再現することを試みました。

※…深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、将来的には小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組みのこと

研究グループは小惑星「ベンヌ」((101955) Bennu)や「リュウグウ」((162173) Ryugu)のような「そろばん玉」に似た形の小惑星(直径100m)が地球への衝突軌道に乗っていると仮定し、小惑星の表面から数メートルの高さで1メガトンの核爆発が起きた場合の破片の動きを分析しました。Kingさんによると、爆発によって生じた小惑星の破片は太陽や惑星の重力だけでなく、破片どうしも重力を介して影響し合いながら拡散していくため、後述するように衝突体をぶつけるなどして小惑星の形を保ったまま軌道をそらせる場合を想定するのと比べて、非常に複雑なシミュレーションが求められるといいます。

ローレンス・リバモア国立研究所によると、シミュレーションでは小惑星の軌道が5種類想定されたものの、どの軌道でも地球衝突の2か月前に小惑星を破壊することができれば、地球へ衝突する破片の総質量を1000分の1に減らすことができたといいます。また、より大きなサイズの小惑星についてもシミュレーションを行った結果、地球衝突の6か月前に破壊することができれば衝突する破片の総質量を100分の1に減らすことができたとされています。

▲シミュレーション結果の動画バージョン(Credit: LLNL)▲

■核爆発による小惑星の破壊は惑星防衛の「切り札」になるか

地球に接近する軌道を描く小惑星は「地球接近天体」(NEO:Near Earth Object)と呼ばれていて、そのなかでも特に衝突の危険性が高いものは「潜在的に危険な小惑星」(PHA:Potentially Hazardous Asteroid)に分類されています。日米の小惑星探査機「はやぶさ2」や「OSIRIS-REx(オシリス・レックス)」がサンプルを採取したリュウグウやベンヌも、PHAに分類されている小惑星の一部です。

こうした小惑星が地球へ衝突するかどうかは、地球の近くにある「キーホール(keyhole、鍵穴)」と呼ばれる領域を通過するかどうかが文字通り鍵となります。

ベンヌの場合、西暦2135年に地球へ接近した際にキーホールを通過した場合、2182年9月24日に地球へ衝突する可能性があると分析されています(衝突確率は2700分の1)。小惑星や彗星といった小さな天体の軌道は惑星の重力や「ヤルコフスキー効果」(※)などの影響を受けて比較的短期間で変化することがあるため、小惑星が実際に衝突するかどうかを把握するには、長期間の観測を通して軌道をなるべく正確に追跡し続けるしかありません。

※…太陽に温められた天体の表面から放射される熱の強さが場所により異なることで、天体の軌道が変化する現象のこと。参考:ヤルコフスキー効果(Wikipedia)

関連:NASA探査機がサンプル採取した小惑星「ベンヌ」の地球への衝突確率を算出

もしも地球へ衝突する確率が高いと判断されれば、衝突の何年も前に小惑星めがけて衝突体をぶつけて軌道を変えることで、将来の地球への衝突を回避できるかもしれません。

今年11月にアメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げを予定している「DART」はまさにその可能性を探るための探査機で、二重小惑星「ディディモス」((65803) Didymos)の衛星(二重小惑星の小さいほう)「ディモルフォス」(Dimorphos)に衝突してその軌道を変化させることを目的としています。DARTの質量は550kgですが、衝突によって地上からの観測でも検出できるレベルの変化が生じると予想されています。

DARTのミッションを解説したイラスト。探査機本体(Spacecraft)が衝突することで、ディモルフォス(Dimorphos)の軌道が変化すると予想されている(Credit:NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)

ただ、DARTや将来のミッションによって小惑星の軌道変更方法が確立されたとしても、何らかの理由で小惑星の軌道が変更できなかったり、小惑星が発見された時点ですでに衝突が差し迫っていたりするかもしれません。今回シミュレートされた核爆発による小惑星の破壊は、そのような場合の「切り札」として期待できるのではないか、というわけです。Kingさんも「10年単位のタイムスケールで十分な時間があるのなら、衝突体を使って小惑星の軌道をそらせるほうが好ましいでしょう」と語っています。

フィクションの題材でもある天体衝突は、人類にとって現実の脅威です。2013年2月にはロシアのチェリャビンスク州上空で爆発した推定サイズ10m前後の天体によってエアバースト(強力な爆風)が発生し、およそ1600名が負傷しました。将来、地球への衝突が確実な小惑星を破壊する最後の手段として、核爆発を用いる日が訪れないとも言い切れません。

 

関連:古代中東の都市が「ツングースカ大爆発」のような天体衝突で破壊されていた可能性が高まる

Image Credit: LLNL
Source: ローレンス・リバモア国立研究所
文/松村武宏

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