やはり金星の大気中に生命は存在していないのか? 新たな研究が示唆
sorae.jp / 2022年6月15日 19時49分
ケンブリッジ大学天文学研究所のSean Jordanさんを筆頭とする研究チームは、金星の大気中に生命が存在する可能性を検討した新たな研究成果を発表しました。金星大気中の二酸化硫黄(SO2)に着目して分析を進めた研究チームは、今回の研究では生命の兆候につながる証拠を見つけることはできなかったと結論付けています。
■雲層で二酸化硫黄が減少するのは代謝が理由?地表の気温は摂氏約480度、気圧は約90気圧。大気の主成分は二酸化炭素で、厚い硫酸の雲が空を覆う。このような環境を有する金星に生命が存在できるとはとても思えませんが、ある一定の高度(約50~60km付近)では気圧が1気圧程度まで下がり、気温も水が液体の状態で存在できる範囲になることから、一部の研究者は「金星の大気中に生命が存在するのではないか」と考えています。
2020年9月、カーディフ大学のJane Greavesさんを筆頭とする国際研究グループは、金星の大気中でホスフィン(リン化水素、PH3)が検出されたとする研究成果を発表しました。地球におけるホスフィンは(人類の文明活動に関連するものを除けば)嫌気性微生物によって生成される生命活動に由来した物質です。地球や金星のような岩石惑星で生命が関与せずにホスフィンが生成されるプロセスは知られていなかった(※)ことから、この発見は金星に生命が存在する可能性を示すのではないかとして注目を集めました。
※…木星や土星では高温・高圧な内部において非生物的なプロセスで生成されたとみられるホスフィンが検出されています
ホスフィンの発見を巡っては賛否両論あり、過去の金星探査ミッションにおける観測データを再検証した結果ホスフィンの兆候が捉えられていたとするものや、金星で火山活動が起きていれば非生物的にホスフィンが生成される可能性があるとするもの、金星大気中の二酸化硫黄に由来する信号をホスフィンだと誤って解釈したとするものなどが相次いで発表されています。
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今回、Jordanさんたちは金星に生息しているかもしれない生命の兆候を探すために、大気に含まれている二酸化硫黄に着目しました。もしも金星の大気中に生命が生息しているとすれば、硫黄を代謝に利用している可能性があると過去の研究で指摘されていたからです。
硫黄化合物を食物に見立てたJordanさんは「あなたや私が食べたいものではありませんが、それが利用できる主なエネルギー源なのです」と語っています。「もしも生命が食べ物(硫黄化合物)を消費していれば、その証拠として、特定の化学物質が大気中で増減する様子が見られるはずです」(Jordanさん)
研究チームによると、金星では雲層の下に高濃度の二酸化硫黄が存在するものの、その上にある雲層では桁違いに減少するといいます。雲頂では硫酸を生成する光化学反応によって二酸化硫黄が消費されるとみられていますが、観測された二酸化硫黄の濃度は光化学反応から予想される値よりも少なく、未知の化学的経路が関わっている可能性も考えられるようです。研究に参加したケンブリッジ大学のOliver Shorttle博士は「生命が存在していれば、大気化学に影響を及ぼしているはずです。金星の二酸化硫黄レベルが大幅に低下するのは生命が理由なのでしょうか?」と語ります。
■予想される代謝産物の存在が観測結果とは一致しない結果に過去の研究で提案されていた3種類の硫黄代謝について、研究チームが大気モデルと生化学的モデルを組み合わせた分析を行ったところ、代謝が二酸化硫黄の減少をもたらす可能性は示されました。
ただしその場合、代謝産物として水素・酸素・水・硫化水素といった分子が大量に生成されることになるといいます。しかし、代謝産物として予想されているこれらの分子の存在に関しては、火山活動による非生物的な発生源と矛盾していません。
このことから研究チームは、提案された硫黄代謝では雲層での二酸化硫黄の減少を説明できないと結論付けました。研究チームは生命が関与している証拠を探していたものの、Jordanさんは「実行可能な解決策ではありませんでした」とコメントしています。「金星で観測された二酸化硫黄レベルに生命が関与しているとしたら、それはまた金星の大気化学に関する私たちの知識すべてを覆すでしょう」(Jordanさん)
研究チームは今年2022年から本格的な観測を開始する新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」による太陽系外惑星の観測によって、金星のような惑星における生命の居住可能性についての理解が深まることに期待を寄せています。
関連:金星のゆっくり自転が温室効果を暴走させた可能性。二つの現象の意外な関係
Source
Image Credit: PLANET-C Project Team ケンブリッジ大学 - No signs (yet) of life on Venus Jordan et al. - Proposed energy-metabolisms cannot explain the atmospheric chemistry of Venus文/松村武宏
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