大規模特殊詐欺「ルフィ」を壊滅させた2人の女⑤〜かけ子で2000万円を”売り上げた”女
日刊SPA! / 2024年4月1日 15時47分
数日後、マニラ行きの片道航空券が自宅に送られてきた。突然のことに驚くとともに、これでマニラ行きを断ったら、大変なことになるのでは、とも思った。見えない相手なのに、必要以上に顔色を窺う自分に嫌気が差した。
意を決して渡ったマニラ。しかし、山田が連れていかれたのはリゾートホテルではなく、一棟の廃ホテルだった。それは「かけ場」と呼ばれる特殊詐欺の拠点だった。
◆「やっぱりな……」
そのとき「やっぱりな……」と山田は暗澹たる気持ちになったという。はなから真っ当な仕事ではないのでは、と思っていた。「かけ場」にいた男から「仕事」の説明を受けたが、当然日本でも問題となっていたので、知識はあった。しかし、特殊詐欺に加担することには抵抗がある。だが、カネを出してもらいフィリピンに来た以上、その航空券代だけでも返して帰りたい、としぶしぶ受話器を手に取った。
最初は手が、声が、震えた。しかし2日目に大きな転機が訪れた。渡されたマニュアルをただ読んでいただけなのに、電話口の高齢者は警察官を名乗る山田の話を信じ込んだ。特殊詐欺は拍子抜けするほど簡単だった。
山田が配属されたのはルフィグループの幹部、藤田聖也が仕切る「かけ場」だったのだが、その藤田から、顔が赤くなるくらい大袈裟に褒められた。藤田の上司と説明されていた渡邉からも、称賛の言葉をもらった。藤田も胸を張っていた。
人から褒められるということはこんなにも気持ちのいいものなのか。
山田にとって初めてと言える経験だった。天にも昇る気分になった。その後も抵抗がなかったわけではないが、かけ子を続けた。そして成功するたびに藤田や渡邉からの「お褒めの言葉」に自信を得た。褒められるほどに山田の“才能”は花開いた。
◆売り上げ2000万円
2か月で2000万円の“売り上げ”を計上した。かけ場でも他を圧倒するほどの成績をあげ、「エース」と呼ばれるようになった。いつしか、ルフィグループの幹部から特別扱いを受ける。地元有力者への接待などにも連れ出されるようになり、「幹部」と目されるようになった。
フィリピンでの「出世」に山田は生きる意味を見いだした。
しかし、特殊詐欺を長く続ける考えはなかった。巨額の“売り上げ”に結びついたときはアクセサリーなどをもらうことはあっても、報酬がなかったのだ。ましてや成功するたびにインセンティブを受け取るようなこともない。風俗で働いていた時のほうがまだマシだ。足を洗って帰国したい――。率直な思いを藤田に伝えたこともあった。するといつも優しかった藤田が激昂した。
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