思春期特有の葛藤と格闘――それは「ふつう」を求める「ふつう」の私たちの物語だ/『ふつうの軽音部 ①』書評
日刊SPA! / 2024年4月30日 15時51分
私たちは「ふつう」というものを意識してしまう生きものだ。特に思春期はその傾向が強く、自意識過剰により挙動不審になったり、意図せず他者を傷つける言動をしてしまったりする。そうして悩み、不安になり、いっそうコミュニケーションに難が生じてしまう、負の循環に陥ることになる。それは換言すれば、自らを「ふつう」ではないと認識し、そのズレをおそれるがゆえに生じる事態なのだ。
本書の軽音部内には、同性愛者と思われる副部長・たまきと、恋愛をしない/必要としないアロマンティック(アセクシュアル)と思われる同級生・桃もいる。桃に関しては、その「ズレ」が原因もしくは遠因となって引き起こされる不和に直面する様子が描かれもする。1巻の時点ではわかりやすい描写はないが、鳩野自身もなんらかの生きづらさを生じさせる属性を持っているのかもしれない。
つまりこれはマイノリティの物語である。と、言ってしまいたくなるのだが、きっとそれだけでは不十分だ。「ふつう」を求めるのはマジョリティも同じだし、マイノリティは「ふつう」であることを求めているのではなく「求めさせられている」のだから(マジョリティが「ふつう」を求めるからこそ、マイノリティへの差別が生じるのだ)。
ゆえに私はこのように言い表したい。『ふつうの軽音部』で描かれるのは、「ふつう」を求める「ふつう」の私たちの物語である、と(さらに言うならば、私たちが気がつかないだけでマイノリティはどこにでも「ふつう」にいるのだ)。
誰もが皆、自分が居心地よく過ごせる環境を望んでいる。しかし他者の望むそれが自分と同じとは限らない。ゆえにそこに衝突が生じる。そのうえ、自分が何者であるかがわからない状態であるならば、なおさら不和は生じやすいだろう。
しかし音楽がそうであるのと同様に、私たち自身についてもまた、「いまならその理由がわかる」ことがあったりする。あの頃感じていた居心地の悪さ、まったくもって理解できなかった友人の言動。大人になる途上、つまり自分探し的な模索と試行錯誤のなかで、自分にとって「ふつう」ではない存在。他者のみならず、自分自身をそう感じてしまうこともある。しかもその理由がわからないのだ。
しかし、いや、だからこそ、そんなときにこそ音楽が支えになったのだろう。うまく言葉にできない不安や怒りを、うまく言葉にできないが私のためにあると感じる音楽が、そういった感情を持つことを否定することなくただただ包み込んでくれたのだ。
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