NHK『虎に翼』が「“F1層(20~34歳女性)”から支持される」納得の理由。朝ドラでは異例
日刊SPA! / 2024年5月2日 8時50分
これらを15分間で見せたのだから、脚本を書いている吉田恵里香氏(36)の筆力には目を見張る。2022年、脚本界の最高峰である向田邦子賞を史上最年少で獲得したのはダテじゃない。
◆若い世代を惹きつけるエンパワメントの構図
なにより若い世代を惹き付けるのは、エンパワメントの構図が丁寧に描かれているからだろう。エンパワメントとは、集団内や組織内において自信を失っていたり、本来の持ち味を出せていなかったりする仲間がいたとき、周囲がその人らしさや能力が発揮できる環境づくりをすることを指す。1950年以降、米国の公民権運動から生まれた考え方だ。
エンパワメントの考え方には命令も競争もない。また、個人にハンディキャップやマイナス面があっても周囲はそれを補わず、その個人が持つ長所や力をより引き出そうとする。
寅子たちも学業で同級生と競わない。だから成績面での嫉妬も生まれていない。また、それぞれが仲間の多様性を認めており、立場が違うことが分かっているから、安っぽい同情もしない。一方で仲間の一人ひとりが自然体になれて、本来の能力が出せるように努めている。
たとえば第13回で山田よね(土居志央梨)が過酷な生い立ちを告白したとき、誰一人として慰めの言葉を掛けなかった。その後も特別扱いしない。代わりに寅子は第15回でこう伝えた。
「よねさんは、そのまま嫌な感じでいいから。怒り続けることも、弱音を吐くのと同じように大切なことだから。私たちの前では、好きなだけ嫌な感じでいて」
立場と個性の尊重だ。よねは「あんっ?」と怪訝な顔をしたが自分らしさを認めてくれたのだから、これ以上にうれしい言葉はなかったのではないか。心を固く閉ざしていたよねにとって、寅子たちは初めての友人になった。
◆男女平等史でも優劣を描く物語でもない
華族の令嬢・桜川涼子(桜井ユキ)も自分と平等に接する寅子たちと付き合ったことにより、本来の自分を出せるようになる。お付きの玉(羽瀬川なぎ)に「ありがとう」と本音を素直に言えた。
梅子は夫と長男にないがしろにされたため、「自分は嫌な女」と思い込み、心が折れかかっていたが、寅子たちが好きになってくれたお陰で自信を回復する。自然体の自分を取り戻す。
朝鮮からの留学生・崔香淑(ハ・ヨンス)は拙い日本語を笑われて嫌な思いをしていたが、梅子が声を掛けてくれたために疎外感を味わわずに済んだ。梅子が自分の家庭内での不遇と自己嫌悪を打ち明けた第18回、崔は「梅子さんは嫌な女なんかじゃない! 大好きよ」と叫んだ。梅子は力を得た。
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