大事なことは「自分にとっての最適な緊張感」を知ること。調教師・福永祐一の教え
日刊SPA! / 2024年5月5日 8時20分
ただ、間接的とはいえ、ファンとやり取りできたことで、いろいろと勉強になったのも確かだ。やらなければよかったと思ったことは一度もなく、今ではむしろ、一つの経験としてチャレンジしてよかったと思っている。
◆自分にとっての「最適な緊張感」を知る
欲と共に、コントロールが必要なことといえば緊張だが、緊張したほうがパフォーマンスは上がるという人もいれば、まったく緊張しないほうがいいという人もいる。
だからこそ大事なのは、最も集中力が増して、精神的にも肉体的にも一番良いパフォーマンスが発揮できる、「自分にとっての最適な緊張感」を知ることだ。
とはいえ、さまざまなシチュエーションで多くの経験を積まないとベストは見えてこない。そのときどきの緊張感とパフォーマンスを記憶に刻みながら、自分のベストを探し続けることが大事だと思う。
自分はデビューして早々に頭が真っ白になるという過度の緊張状態を経験したおかげで、以降は引退まで一度も緊張に飲まれてしまうことはなかったし、比較的早い段階で、あまり緊張しないほうがパフォーマンスを発揮できるという自分の最適解を見つけることができた。
準備不足による不安が緊張につながることをキングヘイローで学んだので、海外で初めての競馬場で乗る際などには、コースレイアウトや馬場の特徴を頭に叩き込み、同じレースに出走する馬の情報も全部仕入れるなど、徹底した事前準備でできるだけ不安要素を取り除いた。あとは、深呼吸することで横隔膜を下げ、身体をリラックスした状態に持っていくことで緊張を逃がすこともあった。
◆ジョッキーという立場で味わう緊張感
そうこうしているうちに、ほとんど緊張しなくなり、「緊張したな……」という最後の記憶は、ジャスタウェイで挑んだ凱旋門賞(2014年)までさかのぼる。
緊張を自覚したのは返し馬で、全身に力が入らないようなフワフワした感覚になり、「この感覚、久しぶりだな」と思いながら乗っていた覚えがある。ただ、不思議なもので、緊張したのは返し馬の間だけ。馬を止めてからは、自然といつもの自分に戻った。
以来、引退するまでの約10年間、2020年のコントレイルでの無敗クラシック三冠のときも含めて、記憶に残るほどの緊張の波は最後まで訪れることはなかった。
むしろ逆に、「どうしたら自分で緊張を生み出せるか」を追求したときもあった。緊張を和らげる方法は本などでも紹介されているけれど、どうすれば緊張を生み出せるかという本は見たことがない。もし、そのオンオフが意図的にできれば、本当の意味で緊張のコントロールができるのでは、と思うことがあったのだ。
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