「女の子だから」父に褒めてもらえず…“困難な環境”で育った女性画家が強い劣等感を克服するまで
日刊SPA! / 2024年5月12日 15時54分
芸術への向き合い方がみえてくると同時に、大河原氏はより深い自らの内面とも向きあうようになる。
「私が人間の絵を描くとき、顔でも体でも、どこかのパーツが必ず欠損しています。いったん全部顔や体を描いても、すべて描くと気持ちが落ち着かなくて消してしまうんです。きっとどこか、無意識に、何かが欠けた自分を絵に反映させているんだと思います。
どんなに努力しても、親からの無条件の承認を手に入れられなかったけれど、実はあの父がいたから、がんばり続けられた。あの父がいたから画家になれたんだと、思えるようになったんです。
自分も困難な環境で育ち、たくさん傷ついてきたからこそ、得られた力や学びもあったと今は思える。自分が傷ついた分だけその感情を周囲への優しさや共感へと変えようというのが私自身のテーマです。そこからつけた絵のタイトルを、『鼓膜に残る静寂を優しさに変えるすべについて』としています」
◆誰かの痛みに寄り添えるような絵が描きたい
闇の中にも光はきっとある、心の傷は力に変えられる。そう大河原氏は語る。
「だから、もしも孤独や心の傷を抱えている人がいるとしたら、『絵や創作は、あなたに寄り添ってくれるよ』と私は伝えたい。そして、誰かの痛みに寄り添えるような絵が描けたらーーそんな思いで今は絵を描いてます」
より大きな悲しみやわかりやすい不幸の前では、日常の些細な傷など、ないも同然で時間は過ぎる。心に微小な切り傷を抱えた人たちは、社会の鈍感さよりもまず自らの繊細さを嘆くだろう。弱者は、強者の理論で自転するこの世界から振り落とされずにいるだけで、精一杯だ。
どんな作品にも、芸術家たちが紡ぎ出す細く淡い神経の一本一本が通う。強くもなく、大きな声を発するわけでもない、不器用にしか生きられない仲間たちのために、今日も大河原氏の芸術は佇む。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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