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揉めた相手と「距離を取って縁を切る」その前にすべきは「“人格”で遮断せず“行動”の裏側を見る」だった/田房永子『喫茶 行動と人格』書評

日刊SPA! / 2024年5月21日 8時50分

 二人の発言をひも解いていくと「揉めごとの裏側にある深層心理、発言から見える関係性、そのうえで本当は何を言ってほしかったのか、どう聞くべきだったのか」といったことが少しずつ見えてくる。店内の一角でその様子をずっと傍観していた尾形は「そうか、ここは客の話(=主に揉めごと)をあれやこれやと考察する店なんだ」と気がつく。
 この漫画は「喫茶 行動と人格」で交わされる、いろんな「揉めている話」を取り上げ、当事者がどう処理すべきなのか検証する作品である。

 著者の田房永子は、異常な過干渉を強いる母親との生育体験、そして別離までを描いた漫画『母がしんどい』でデビューした。その後も親との関係に悩む人たちの話を書いた『なぜ親はうるさいのか』、子供を授かって育てる中で感じた自分の考えの変化などを書いた『「男の子の育て方」を真剣に考えてたら夫とのセックスが週3回になりました』、怒りやすい自分の性格を直したいと奮闘、模索する『キレる私をやめたい』など数々の著作を出しているが、どの作品にも共通するのは「他人とのコミュニケーションの模索」である。そうやって取り組んできた「他者と適切なコミュニケーションを取るためには」というテーマがこの作品に帰結しているように思える。

 読んでいるうちに、「確かに自分も他人の行いによって感情を害したとき、“人格”で処理していたな」と思い当たった。働いているとどうしても時々、「なんでこの人こういう言い方するんだろう……」とゲンナリする人とも仕事していかないといけないことが出てくる。
 そういうとき、やっかいなのは「嫌悪」というスパイスが一度降りかかってしまうと、その人に対して“行動”ではなく“人格”を見てしまうことだ。
「もうあの人はそういう人だから」と“人格”で遮断する。しかし、今から考えればその人にもそういう“行動”をした理由はあったはずで、そこを汲み取ることを自分はしてこなかった。あのとき、私はその人の“人格”を差し置いて、“行動”と、その裏側にある真意を見ないといけなかった。

 この本には「婚約しているのに元恋人と会ってキスをした男性と、彼を許せない女性」で修羅場になっている男女が、二人の共通の友人の介入によって、「どうしてそういうことをしてしまったのか、その真意を知ったうえで自分はどうしたいのか」が整理されていく話が出てくる。

 実際にこんなことが起きれば当事者は感情的になって建設的な話し合いをするのは難しいが、ワンクッション置いた人間が間に入って整理していくとこんなふうに解決されていくんだ……!と驚いた。もちろんフィクションではあるが、誰にでも転用できる方法である。
 その後出てくる「『挨拶もできない常識のないママ友』にイライラしている女性」の整理の仕方も見事だった。

 昨今は「揉めた人間とは距離を取って、そのまま縁を切る」というコミュニケーションが一般的である。時代や価値観によってその考え方の是非は別れるし、自分もそうしたことはあるが、こういう方法で「揉めた相手とのもつれた感情のほぐし方」があることを知ったのは大きな発見だった。他人との関係に疲弊したとき、折に触れて読み返したい本である。

評者/伊野尾宏之
1974年、東京都生まれ。伊野尾書店店長。よく読むジャンルはノンフィクション。人の心を揺さぶるものをいつも探しています。趣味はプロレス観戦、プロ野球観戦、銭湯めぐり

―[書店員の書評]―

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