福永祐一調教師が振り返る「巨大なプレッシャーが襲いかかった‟あのダービー”」
日刊SPA! / 2024年5月26日 8時25分
それもあって、自分は緊張しないタイプの人間なのだと思っており、実際、3番人気に支持された皐月賞も平常心で挑めた。レース後に思ったのは、「これならダービーも緊張せずにいけそうだな」ということ。ダービーまでの1カ月半がどんな時間かも知らずに……。
皐月賞は、勝ったセイウンスカイから半馬身差の2着。皐月賞で1番人気3着だったスペシャルウィークを加えて、ファンやマスコミは「3強対決」だと盛り上がった。当然、自分にも取材が殺到。ほぼすべてのメディアの取材を受けていたような記憶がある。
なかでもダービーまでの1週間は、毎日のように取材に追われた。さすがにそんな経験は初めてで、取材に応えれば応えるほど“ダービー”というレースの重さがのしかかってくるようで、自分のなかでどんどんと緊張が高まっていった。うまく表現できないが、緊張が高まれば高まるほど、自分の中から“何か”が抜けていくような感覚だった。
前々日の金曜日に関西から都内へ移動し、東京競馬場まではタクシーに乗ったのだが、流れゆく外の景色を見ながらあまりにもいろいろなことを考えすぎて、逆にフワフワしていたのを覚えている。
◆レース当日に巨大なプレッシャーが襲いかかる
レース当日は、体調が悪いわけではないのに熱っぽかった。いわゆる知恵熱というやつだと思う。とにかく朝からずっと緊張に飲まれていて、最終的にはボーッとした感じに。今思うと、緊張して固くなっているほうがまだマシだったが、そんな状態はとうに通り越し、集中力のゲージが限りなくゼロになっているような状態だった。
今ならわかるが、あの状況を生んだのは、東京2400mの勝ち方を知らないという不安、ダービーに向けた心構えもよくわからないという不安など、経験のなさによる準備不足が不安を生み、それが緊張となり、最後は巨大なプレッシャーとなって襲いかかってきたのだと思う。
そうなれば、正常な判断なんてできるわけがない。返し馬では、自ら申し出てみんなとは逆の方向に行ったのだが、そこに一体どんな意図があったのか、自分でも思い出せないくらいだ。
◆我に返った4コーナー「このまま落馬してしまおうか……」
そして、いよいよゲートイン。
キングヘイローは、スペシャルウィークに次ぐ2番人気に支持されていた。1枠2番からポンとスタートを切り、皐月賞と同様、セイウンスカイがハナに行くのだろうと思いながら外を確認すると、どうやら今回は行かない様子。そして、気づいたときには自分が先頭にいた。
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