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かつての“天才子役”が“宇宙的な俳優”に。同級生の記者が明かす「グッときちゃった」瞬間

日刊SPA! / 2024年6月21日 15時51分

カメラワークが予定調和ではなく、思わず寄ってしまったというこの感じ。朔はとにかく喋りまくる。独り相撲のような人だ。井之脇は2022年に『エレファント・ソング』で舞台初主演を果たしていたが、朔役の持続力はどうも演劇的だなと思ったらば、そうだ、坂東玉三郎が言っていた言葉にピッタリなのが。

「ひとつの空間をパッと区切られたときに、その区切られた中にパッと宇宙観を表現出来る人たち。それが演劇的な人たちだと思っています」

これはスイスの映画監督ダニエル・シュミットが東京を舞台に玉三郎の姿を追った幽玄的なドキュメンタリー映画『書かれた顔』(1995年)のインタビュー場面での言葉。「演劇的な人」を敷衍すれば俳優の条件とも理解出来るが、カメラが思わず寄ってしまった井之脇のあの演技は、まさにフレーム内の「宇宙観」だった。

◆「いいんですか!」にグッとくる

面接では六月が朔の留学先だったナポリで食べたピニャータ・パスタがどこの店だったか聞くのだが、これが素晴らしい伏線になる。六月が別居中の夫・成澤邦夫(山中聡)から離婚届をつきつけられ、ひとり、泣き濡らす屋上。そこへ朔が。店名がわかったと言ってやってくる、その伝え方まで変わっている。特技のマジックで名刺を目の前に出し、それを一枚の写真に。このイリュージョン。井之脇の宇宙観をはっきり見た気がした。

思わずグッときた六月は面接の合格を伝える。意外な採用通知に朔は、横断歩道を挟んで、「いいんですか!」とクリアな声で叫ぶ。この「いいんですか!」が朔の口癖というか、朔を朔たらしめるシグネチャーとなる。六月に好意を寄せた朔が焼肉に誘われたとき。大庭湯で借りた着替えをもらったとき。などなどすべて「いいんですか!」と涼しい顔をする。見逃せないのが、第5話でアミューズメントパークに行く場面。バスケットボールのシュートを決めたら告白の返事をほしいと言うが、惜しくも外し、くずおれて膝を叩く。床に手をついた朔に六月が「ちょっと考えさせて」と言うと、「えっ」とゲンキンな表情で顔を上げる。「えっ、そこはいいんですか!じゃないの!」と突っ込みたくなる。

採用通知の第一声以来、毎話で彼の「いいんですか!」を聞くのが楽しみになる。ところが、第7話ラスト、朔は自転車とぶつかって入院する。メガネを外し、頭にぐるぐる包帯を巻いた姿を見て自然と思い出す。階段からスライドしたあの少年もまた包帯をぐるぐる巻きにして診察室から出てきたことを……。第8話で六月からリニューアルする大庭湯の試食会に誘われた朔が、まだ包帯を巻いた格好で囁き声の「いいんですか!」を響かせる。15年以上の時を経て、包帯というアトリビュート(持ち物)を取り戻したかつての天才子役に感じた憧れが、誇りに思う気持ちに高まる。何だかグッときちゃったよ、海君(!)。

<TEXT/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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