死刑囚たちや拘置所内の描写がリアル。「犯罪者が犯罪者の髪を切る」異様な仕事本/『死刑囚の理髪係』書評
日刊SPA! / 2024年6月25日 8時50分
ガリ・著『死刑囚の理髪係』(彩図社)
世の中には読んだほうがいい本がたくさんある。もちろん読まなくていい本だってたくさんある。でもその数の多さに選びきれず、もしくは目に留めず、心の糧を取りこぼしてしまうのはあまりにもったいない。そこで当欄では、書店で働く現場の人々が今おすすめの新刊を毎週紹介する。本を読まなくても死にはしない。でも本を読んで生きるのは悪くない。ここが人と本との出会いの場になりますように。
書籍というのは不思議な媒体である。限定された人間だけが見られるわけではなく、手に入れれば誰でも読むことができる。しかし世の中の大半の人はどんな本が出ているかを知らない。なので普通に生きていたら絶対に出会うことのない人が体験した稀有な話も、多くは知られないまま埋もれていくことになる。
そんな「公開されているのに、ひっそりと過ぎ去っていく」新刊の中に、また一冊すごい内容の本が出てきた。それが今回紹介する『死刑囚の理髪係』である。
著者のガリ氏はかつて東京で美容室に勤めていたが窃盗事件を起こして逮捕され、東京拘置所内に服役した。所内で彼に与えられたのは収容者たちの髪を切る「理髪係」という仕事だった。
東京拘置所には刑が確定するのを待つ未決勾留者の他に、死刑執行を待つ死刑囚も服役しており、ガリ氏は彼らの理髪も担当することになった。この本はガリ氏が拘置所内で数々の有名犯罪者たちの理髪を担当したときのエピソードや、そこで見えてきた死刑制度のことを書いた手記である。
死刑囚はあるとき突然告げられる死刑執行を待つ身のため、拘置所内でこれ以上刑期が延びても何も怖くない、と考えられている。雑談中に「実はまだこんな犯罪をしていた」というような告白をすることで、意図的に刑執行を延ばそうとする受刑者もいるという。そんな状況を鑑みて、拘置所内の理髪室ではバリカンとすきバサミは使えても、通常のハサミは用意されない。
ガリ氏が最初に担当した死刑囚は秋葉原連続通り魔事件の加藤智大だった。拘置所内で清掃係を務める受刑者仲間に加藤のことを聞くと、「加藤は神経質でちょっとした物音で不機嫌になり、大声出して暴れるから気をつけてください」と告げられ、ガリ氏は大きな不安を抱えたまま理髪をすることになる。
加藤は理髪中、練習用のマネキンのように、身じろぎせずに切られていたが、あるときから鏡越しにずっと髪を切るこちらを見ていた。言葉はない。 後ろからは刑務官が監視しているが、何かを注意したりすることはない。ここでは何が起こるかわからない。
結果的には何事もなく作業は終了したが、ガリ氏はずっと極度の緊張状態の中で手を動かすことになった。
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