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死刑囚たちや拘置所内の描写がリアル。「犯罪者が犯罪者の髪を切る」異様な仕事本/『死刑囚の理髪係』書評

日刊SPA! / 2024年6月25日 8時50分

 ガリ氏はその後、何回か加藤を担当したが、あるときバリカン操作を間違えて耳の後ろを切ってしまう。理髪師としては致命的なミスだ。その先どうなったか、ぜひ本書を読んでほしい。

 拘置所内には大勢の人間が収容されており、その中には秋葉原事件の加藤の他、あさま山荘事件で連合赤軍の主犯格だった坂口弘、SNSで自殺願望者に連絡し座間市の自宅アパートで9人を殺害した白石隆浩、相模原の知的障害者施設で26人を殺傷した植松聖など、数々の有名事件の犯人である死刑囚も含まれている。

「飲尿療法を信じている」と噂され、強烈なアンモニア臭をただよわせている死刑囚。髪にも尿を塗っているらしく、櫛で髪を上げただけで臭いがさらに強くなる。
 昔のヤクザ映画に出てくるような、ピンピンに尖った角刈りにするよう要求し、少しでも納得いかないと「下手くそ」「お前なんかに触られたくねえ」などと暴言を吐く死刑囚。
「ケツの毛が気になるんで、ついでにカットしてくれませんか?」と言う死刑囚。
 拘置所で死刑執行を待つ身でありながら「私はここにいられて幸せ」と語った死刑囚。
 明るく雑談を求めてくる死刑囚。死刑囚と理髪係の会話は禁じられているが、死刑囚と刑務官は普通に会話ができる。その二人の会話が、まれに理髪係に回ってくるらしい。そうすると刑務官次第で会話に参加できるという。

 長く理髪係として数多くの受刑者たちと接するうちに、同じく服役する受刑者でありながらガリ氏は計り知れない人間の心の闇に戸惑い、実際には数々の優遇を受けられる死刑囚が存在する現行の不完全な死刑制度に疑問を持つようになる。死刑判決を受け、拘置所内で執行を待つ日々を送るうちに生気を失っていく者がいれば、支援者や家族から多数の差し入れをもらって悠々自適に過ごす者もいる。その疑問が出所後にこういった本を書くきっかけになった、とガリ氏は語る。

「塀の向こう」という言葉に象徴されるように、私たちは罪を犯して逮捕・服役した場合の生活については普段知る機会がない。ぼんやりとしたイメージを抱いたまま過ごしている。なのでつい数年前まで実際に拘置所にいたガリ氏の語る死刑囚たちや拘置所内の様子の描写はリアルで、普段見えないだけでこういう世界があるのだなと強く教えてくれる。

 美容師や理容師をしている人と話をすると「お客さんが喜んでくれることがうれしい」と言うことが多い。最初、それは外向きの美辞麗句として言ってるのではないかと疑っていたが、「自分が髪を切って見た目をよくすることでお客さんの表情や態度が明るくなると、本当にこの仕事をやってよかったと思う」と知人が言っているのを聞いて、本当にそうなのかもしれないと思うようになった。
「犯罪者が犯罪者の髪を切る」異様な仕事本であるが、語られるのはわかるようでわからない、「人間」そのものである。

評者/伊野尾宏之
1974年、東京都生まれ。伊野尾書店店長。よく読むジャンルはノンフィクション。人の心を揺さぶるものをいつも探しています。趣味はプロレス観戦、プロ野球観戦、銭湯めぐり

―[書店員の書評]―

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