「収納は生活であり生き様だ」社会に影響を受けて変遷する“収納”の歴史/『収納され続ける収納 生活者のデザイン史』書評
日刊SPA! / 2024年8月27日 8時50分
あるいは、ズボラだからこそ収納のテクニックを、というパターンもある。収納という「家事」の手数を可能な限り減らすための収納テクニック、というわけだ。以前、常連さんが「本棚が壊れたら本が買えなくなって積読が減った。だからこれ以上積読を増やしたくないときは本棚を壊せばいい」という自らの発明を教えてくれたことがあるのだが、これもまた収納のテクニックなのかもしれない。
とにかく我々は皆、例外なくなんらかの「収納」をしている。そしてそれは「収納をとおして生活を主体的にかたちづくろうとしてきた」(11p)ことの証であり、その実践が「個々の文脈をもった数多の発信者によって無限に生成される「暮らしの断片」」(30p)として、ブログや書籍の形になって我々のもとへ立ち現れてくるのだ。
しかし、自らの生活を「主体的に」「デザイン」しているつもりでいても、社会という存在の影響がそこにあることもまた事実である。それは第2章(戦後から1990年代)、第3章(明治後期から戦中)と過去へ遡って収納の歴史を見ていくことで、より一層感じられるものとなっている。
たとえば、主に研究者の収納法だったファイリングシステムが家庭に普及したのは高度経済成長でモノが増え、それに伴って収納という家事も増えたことが関わっている。和室や押し入れをオシャレな子供部屋にしようとするのは、日本社会とその生活様式の変化によって時代遅れとなった居住空間を、どうにか活用し続けようとする生活上の努力でもあった。
当然、戦中には収納も国策の一部となる。生活の合理化と簡素化が求められ、その役割と責任を求められたのは「銃後」(直接の戦場ではない後方)の民衆、主に女性である。しかしここで、現代から遡って歴史を辿ってきた我々は気づくことになる。現代のミニマリストが求めているのも生活の合理化と簡素化なのではないか、となるとそれは「主体的なデザイン」ではない側面もあるのではないか、と。
我々は常に、社会=外部環境から影響を受けている。ゆえに常に主体的であろうと意識し、暮らしの主導権を手放すまいと試行錯誤を繰り返す。収納という極々身近な営みから、その一進一退の様子を垣間見ることができるということ、そしてその一進一退こそ我々が収納に感じるワクワクの源泉なのかもしれないということを示唆する本書を、本屋である私はお店のどこに収納すべきだろうか。実用書? それとも人文社会? それもまたデザインであり、私の生き様を表す行為なのかもしれない。少なくとも、「本棚を壊す」にはならないはずである……たぶん……。
評者/関口竜平
1993年2月26日生まれ。法政大学文学部英文学科、同大学院人文科学研究科英文学専攻(修士課程)修了ののち、本屋lighthouseを立ち上げる。著書『ユートピアとしての本屋 暗闇のなかの確かな場所』(大月書店)。将来の夢は首位打者(草野球)。特技は二度寝
―[書店員の書評]―
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