三笘薫の突破力を支える、類まれなるキャンセル力。秘訣は“後出しじゃんけん”にあり。
日刊SPA! / 2024年9月10日 21時47分
三笘が得意とする技も、ブラジル人たちがよく使うエラシコと同様アウト→インの順にボールを動かす。しかし、三笘のそれはロナウジーニョらが行うエラシコとは性質が少々異なる。ロナウジーニョらが行うエラシコはボールを利き足の斜め前方に置き、ある程度決め打ちで行われることが多い(※とはいえ、キレとスピードがあるので止めるのは困難だ)。一方三笘の技は、右足で縦に運ぼうとして相手DFがそのコースに足を出してきた瞬間、自らの右足がボールに触れる直前にタッチを急遽アウトに変更し、真横かもしくは斜め後方にスライド。体から遠ざかるボールを同じ右足のインサイドで引っ掛け、相手と入れ替わるように突破していくのだ。
この技はJ1・川崎フロンターレ所属時にも何度か発動されていたが、イングランドプレミアリーグでも見事相手DFを抜き去ることに成功している。昨年8月12日に行われた昨季のプレミアリーグ開幕戦(三笘のデビュー戦)、対ルートン・タウン。1-0のリードで迎えた後半24分、PK獲得につながったラストパスの直前のシーンだ。
左サイドのライン際で味方からのパスを受けた三笘は、左足インサイドで縦方向にトラップ。ルートン・タウンの45番アルフィー・ダウティーがやや遅れて縦へのコースを遮断しにきたのを見て急遽進行方向を変え、見事完璧に入れ替わってみせた。
「サイドでボールを持ったら常に、まず対面のDFの裏のスペースを狙うことを意識しています。相手を見て、右足で縦に運べるならそのまま突破しますが、それに相手が反応してきているのがわかったら、瞬間的にキャンセルして中にボールを運びます。相手との距離感や相手の寄せ方などを最後まで見るのが大事です」(三笘薫)
最初からアウト→インでタッチしようと決めているのではなく、相手の動きに応じてプレーを変更。“結果的にエラシコっぽくなる”ということのようだ。後出しで突破するコースを変えられてしまうので、対応するDFとしては非常に厄介だ。一か八かで飛び込んではダウティーのように逆を取られてしまうので、極力先に動かないようギリギリの我慢比べをしなければならない。かと言って、ジリジリと睨み合って足が止まったところから突如加速されても、そのスピードに付いていくのは容易ではない。いずれにしても、相手DFから見れば一筋縄ではいかない相手だ。
このように、イメージしていたプレーを直前で変更する、あるいは守備側がそう仕向けるといった駆け引きは、プロのレベルでは至る所で行われている。だが、三笘のようにボールに触れる直前まで相手の動きを見極められ、そして実際に頭に浮かんだ瞬間的なアイディアの通りにプレーを変更できてしまうほど高い技術を持った選手は、決して多くはない。世界最高峰のリーグに行ってもなおそれが体現できているという事実が、三笘薫という選手の次元の高さを物語っているだろう。
今夜のバーレーン戦では、一体どんなプレーを披露してくれるだろうか。その1タッチごとの駆け引き、そして後出しで逆を取るドリブルにぜひご注目いただきたい。
取材・文/福田 悠 撮影/藤田真郷
【福田悠】
フリーライターとして雑誌、Webメディアに寄稿。サッカー、フットサル、芸能を中心に執筆する傍ら、MC業もこなす。2020年からABEMA Fリーグ中継(フットサル)の実況も務め、毎シーズン50試合以上を担当。2022年からはJ3·SC相模原のスタジアムMCも務めている。自身もフットサルの現役競技者で、東京都フットサルリーグ1部DREAM futsal parkでゴレイロとしてプレー(@yu_fukuda1129)
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