「16年ぶりに筆を執った」現役女医の作品が、満場一致で新人文学賞受賞。どんな人物か、本人を直撃
日刊SPA! / 2024年11月8日 15時51分
本作は、一介の医師が突然巻き込まれていく、自分のルーツの話でもあります。そうした「ままならなさ」と抱えて誰もが生きているのではないかと私は思っています。
◆意識的に執筆した「亡くなっている人物のストーリー」
――日々、生命の現場に立つ山口さんだからこそミステリー作品に落とし込める“生命”があると思います。山口さんは、生命をどのように捉えていますか?
山口:非常に難しい質問ですね。一言でいえば不思議、でしょうか。脆弱さがあるかと思えば、たくましさがあったりもする。思わぬ場面で生命の力強さに触れることがしばしばあります。ただ、最後はどんな方も必ずお亡くなりになる。死が不可避であることは万人に共通しています。誕生から死までのほんの一瞬のなかに、いろいろなドラマを秘めているのが人生だなと感じますね。
――人生のドラマという観点でいうと、『禁忌の子』はそれぞれの登場人物が奥行きのあるドラマを抱えていますよね。特に注目したのが、女性です。本作は主人公・武田医師と探偵役・城崎医師が男性で、男性目線で物語が進んでいくものの、複雑な事情を抱えた女性が多く登場するのも印象的でした。
山口:そうですね、その点を読み解いてもらえたのは嬉しいです(笑)。この点は意識的に執筆したつもりです。生きている人物だけではなく、亡くなっている人物のストーリーが根幹の部分に絡まるように書きました。『ファミリーヒストリー』(NHK総合)が好きなんです。故人であっても、必ず目を見張るようなドラマがある。誰もが不十分ななかで、自分の人生を生きています。そしてドラマがある人物ほど、ものを多く語ることなく隠している。その陰影が滲むような作品になっているとすれば、嬉しいですね。
◆今後もミステリー作品を書いていきたい
――本作は山口さんの医師としての専門分野ではない知識が必要になるところも多く、そうした意味でも執筆に苦労する場面もあったのではないかと推察します。執筆中、どんなことに苦労しましたか?
山口:そうですね、さまざまな文献を検索して読みました。登場人物のモデルは特定の誰かではなく、主人公の武田も「いい人なんだけど、ちょっと抜けているところがある育ちのいい子」という設定で書いています。これまで割合に努力した結果を順当に享受してきた武田の、思いも寄らないことばかりが起きる。そのなかで、彼も成長していく。思い通りにはいかないけれど、それでも生きていくのが人生ですよね。執筆においては解決編はのめり込むように書いて、主観的には駆け抜けた思いです。反対に執筆が苦しかったのは第4章で、半分くらい涙を浮かべながら書いていましたね。
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