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「年をとっても人生はより生きやすいほうへシフトできる」ルーティンを愛する45歳女性が得た“希望と解放”/『ナチュラルボーンチキン』書評

日刊SPA! / 2024年11月12日 8時48分

「年をとっても人生はより生きやすいほうへシフトできる」ルーティンを愛する45歳女性が得た“希望と解放”/『ナチュラルボーンチキン』書評

金原ひとみ・著『ナチュラルボーンチキン』(河出書房新社)

 世の中には読んだほうがいい本がたくさんある。もちろん読まなくていい本だってたくさんある。でもその数の多さに選びきれず、もしくは目に留めず、心の糧を取りこぼしてしまうのはあまりにもったいない。そこで当欄では、書店で働く現場の人々が今おすすめの新刊を毎週紹介する。本を読まなくても死にはしない。でも本を読んで生きるのは悪くない。ここが人と本との出会いの場になりますように。
 旅行に行く時、私はあまり予定を立てるタイプではない。宿泊する旅館のサイトもあえて読み込まないし、夕食のメニューなんて絶対目に入らないようにスクロールしまくる。物事の偶然性を大事にしたい性格なのだ。
 そんな私を、妹は信じられないと言う。彼女は全てを完璧に調べあげ、その土地を知り尽くすので、憧れの旅館へ泊まるときにはもう熱が冷めているらしい。もはや下調べの答え合わせである。ハプニングを極力回避して生きていきたいという妹は、今日もインスタグラムを駆使して、韓国旅行先で目当ての食堂を調べながら幸せそうだ。

『ナチュラルボーンチキン』は、そんな私たちのように、全く異なる性格の女性2人の出会いをきっかけに進んでいく物語である。
 出版社に勤務する45歳の浜野文乃は、ルーティン化した生活をなぞりながら生きている。毎晩同じ肉野菜炒めを作り続け、大して面白くもない動画を流し見しながら寝て起きて職場に行く毎日はつまらないけれど、それを崩す必要性は感じない。過剰が何より苦手で、目立たない人生を求めているのだ。

 文乃の職場である出版社には、なんとも異様な人物がいる。20代ながら優秀な編集者として働く彼女は、スケボーで通勤したり、捻挫を理由に3週間の在宅勤務を要求したりと我が道を行く自由人だ。労務課の文乃は、その平木直理(ひらきなおり)という編集者の自宅まで、怪我の様子を見に行ってほしいと上司に頼まれる。そこにはバルコニーで寝そべりながら、全裸で仕事をする彼女がいた。破天荒な直理と話しながら、次第にその竹を割ったような性格にほだされていく。初めは直理を訝しんでいた文乃だったが、部屋を出る頃には爽快な気持ちにすらなっていた。
 そんな直理になぜか懐かれ、昼休みのランチなどを共にしながら、年齢も性格も異なる2人はどんどん仲良くなっていく。何の感情もなく毎日淡々とパックごはんを食べていた文乃が、直理に振り回されながらも北京ダックやビュッフェを楽しむ描写は、読んでいて嬉しくなってくる。

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