「本を読むたびに光を、希望を、生への欲求を感じる」“わからなかった本”を10年後に再読して思うこと/『灯台へ』書評
日刊SPA! / 2024年11月19日 8時48分
ヴァージニア・ウルフ 著、鴻巣 友季子 訳『灯台へ』(新潮文庫)
世の中には読んだほうがいい本がたくさんある。もちろん読まなくていい本だってたくさんある。でもその数の多さに選びきれず、もしくは目に留めず、心の糧を取りこぼしてしまうのはあまりにもったいない。そこで当欄では、書店で働く現場の人々が今おすすめの新刊を毎週紹介する。本を読まなくても死にはしない。でも本を読んで生きるのは悪くない。ここが人と本との出会いの場になりますように。
何年か経ったあとに再読してやっとわかる本がある。自分のヴィジョン(見方)を摑んだ、と感じる瞬間とでも言うべきか。
ヴァージニア・ウルフの『灯台へ』(新潮文庫)はその1冊だ。初読は確か大学3年生のときだったはず。所属していたゼミの教授がウルフの研究をしていて、授業で扱ったのだ。当時は岩波文庫版を読んだ。よくわからなかった。知識も経験もまったく足りていなかった。本当に何もわかっていなかったのだ。ただ、この本を、あるいは作者を、わかりたいという思いもまた生じたのだった。
この物語にわかりやすくドラマチックな展開はない。別荘地で過ごすとある家族が明日近場の灯台に行けるかどうかについての会話を交わしているところから始まり、その後、夜のパーティーのための準備をして、パーティーを終える。ただそれだけの、ストーリーとも言えないような時間が過ぎる。しかし第一部で描かれるこのたった1日の中には、書き尽くせないほどの意識=感情が存在している。それを作家は書き尽くそうとしているかのごとく、ページは埋め尽くされる。
と、ここまで書いてみたはいいものの、私はこの小説の面白さをうまく説明することができないし、その役割はすでに多くの先人が果たしてくれているとも思う。だから少し違う角度から書いてみたい。
私が運営しているお店「本屋lighthouse」の店名は、この物語からとっている。半分本当で半分噓だ。先ほども書いたが、よくわからないままだったからだ。しかし、何か縁のあるものだとはずっと感じていた。ゆえに店名に採用した。
『灯台へ』のラムジー一家は結局、灯台へは行かなかった。あの日に居合わせた知人たち含め、みな行かなかったがゆえに灯台行きのことが記憶の片隅に残っている。それは行けなかったからなのか、実際に行ってみてそんなに面白くもないことを証明したかったからなのか、あるいは……というように理由はさまざまあるだろう。ただ、とにかく、「行かなかった」ということが彼らの中に何かを残したのであれば、それはある種の縁と言ってもよいだろう。
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