【内田雅也の追球】「時間」は生き続ける。 阪神大震災から30年、語り継ぐ「1・17」
スポニチアネックス / 2025年1月17日 8時1分
30年前から針が止まったままの時計があります。西宮中央商店街アーケードに掛けられていた大時計で、阪神大震災からの復興モニュメントとして保存、阪神西宮駅前に設置されました。
よく見ますと発災時刻の5時46分ではなく、長針は48分ごろを指しています。「ああ……2分間がんばったんだなあ……」と教えてくれたのが長年、甲子園大会で審判を務めた永野元玄さん(88)です。あの箕島―星稜戦での球審など高校球児の不屈の姿勢を目の当たりにしてきた永野さんらしい見方に感じ入りました。生きようとする姿勢は、犠牲になった方々の思いでもあったんだと悲しみがあふれます。
「ネバサレ」を思い出します。3歳のころ、震災で「阪神命」の父を亡くした小島汀さん(33)を中学生のころに取材し、聞きました。2002年、阪神監督だった星野仙一さんに会い「僕も生まれる前に父を亡くした。負けるな。勇気を持って前に進もう」と励まされました。スローガンの「ネバーネバーネバー、サレンダー!」(絶対絶対絶対、あきらめるな!)の下、優勝した03年は「父に会えるなら」と甲子園に足を運び「ネバサレやねん」と自らに言い聞かせていました。
震災当日、鳴尾浜の独身寮「虎風荘」から安達智次郎さんは自転車で故郷に向かいました。被害の激しかった神戸市長田区出身。道中で数度、がれきに下敷きになった人びとを救出しました。6時間かけてたどりつくと叔母や友人6人が亡くなっていました。その安達さんも16年、41歳の若さでこの世を去りました。
30年という月日が流れました。忘れたいことも語り継いでいかねばなりません。弟、前妻、仕事仲間、愛犬を亡くした作家・伊集院静さんが<別離の哀しみは、時間が解決してくれる>と他界から1年して出た『またどこかで 大人の流儀12』(講談社)の最後に書いていました。<人間は弱々しくて、くじけてばかりいる生きものでもない。踏ん張り切れないように思えても、そんなに簡単にはこわれない>。
昨年11月に亡くなった詩人、谷川俊太郎さんの『あなたはそこに』は友人の女性を亡くした悲しみから書いた詩です。<ほんとうに出会った者に別れはこない/あなたはまだそこにいる>
止まった時計が示すように、ともに過ごした濃密な時間は生き続けるのでしょう。 (編集委員)
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