経営者の働き方改革、伝統小規模店舗を近代化したインドネシアのスタートアップ「Warung Pintar」の現在
Techable / 2024年4月4日 18時30分
Techableがインドネシアのスマート売店ネットワーク「Warung Pintar」について取り上げたのは、2018年2月20日である。
このWarung Pintarは、記事配信後も順調な成長を遂げた。現在は別企業に買収されつつも、インドネシア都市部を彩る一光景としてすっかり馴染んでいる。今やインドネシア全国50万以上の店舗を有するWarung Pintarは、単なる「Wi-Fi付きミニ店舗」を超えて「サプライチェーン改革の旗手」となっているようだ。
コンビニよりも個人経営の店舗「Warung(ワルン)」とはインドネシアの伝統的店舗のことだ。これはキヨスクと食堂、喫茶店などの機能を備えた零細店舗というべきか。事業者によって大きさはまちまちだが、要は「軽食や必要最低限の生活用品を販売している店」である。
インドネシアの実体経済は、このワルンとそこに商品を卸すグロシール(問屋)が支えていると言っても過言ではない。日本の殺虫剤メーカーが新開発の蚊取り線香をセールスする際、真っ先に足を運ぶのはワルンとグロシールだ。
さらにインドネシアの中央政府は、基本的に経済保守主義である。外資よりも内資の保護、そして大企業よりもUMKM(中小零細事業者)の成長を優先させる傾向だ。これはプラボウォ・スビアント次期大統領が現職のジョコ・ウィドド氏の後継となる今後、なおさら顕著になっていくだろう。
以上の理由から、インドネシア市民は今でもコンビニやドラッグストアよりも漫画「あしたのジョー」に出てくる林屋のような個人経営の小規模店舗を頻繁に利用している。が、そんなワルンにも時代の波が訪れた。配車サービス「Gojek」の登場である。
バイクタクシーの待機所としてインドネシア発のバイクタクシー配車サービス「Gojek」は、市民の生活を大きく変えた。
今やGojekのライダーになるために地方から都市部へ出稼ぎに行く人もいるほどだが、それは「ライダーの待機所」という需要も生み出した。Gojekのライダーが、スマホを充電させながらオーダーを待つことができる場所だ。
こうした需要をワルンが満たすことになる。Warung Pintarは、オンライン配車サービスと共に成長したと言っても過言ではない。
ライダーがベンチに腰を掛けつつ、コーヒーや紅茶を飲む。上述した通り、スマホを充電するための電源もある。そして、Wi-Fiも完備。店舗自体は工場で量産されたユニット式のブースだが、その中身は時代のニーズにしっかり応えている。
さらに2021年、Warung Pintarが軽輸送を得意とするサプライチェーンサービス「Bizzy Digital」を買収したことを契機に「ワルン経営者の負担を軽減する」という意義も帯びるようになった。
ワルン経営者の負担を軽減する効果もワルン経営者の朝は早い。問屋が早朝にシャッターを開ける点は世界共通で、経営者は紙に記録した取扱商品の在庫数からグロシールに追加分の発注をかける。これをワルンの開店前に実行しなければならない。
そこでWarung Pintarは、独自のグロシールである「Grosir Pintar」も用意している。発注・連絡は徹頭徹尾オンラインで行い、商品の輸送は上述のBizzyが担う仕組みだ。専用アプリを使えば、在庫数は一目で判別できる。そこから発生した効率化は、結果としてワルン経営者の「働き方改革」につながっているのだ。
そんなWarung Pintarは、2022年初頭にeコマース企業「SIRCLO」に買収された。これはWarung Pintarのより一層の浸透を念頭に置いた、前向きな企業買収である。同時に、インドネシアのUMKMの近代化・オンライン化がもはや一刻の猶予も許されない解決事項であることを象徴している。
インドネシアの人口は2023年時点で約2億7753万人。国是は「多様性の中の統一」で、インドネシア国籍を持っている限りは少数民族であっても1人1票の権利が保障されている。そうした国では、地域や経済階層に偏らない「均等な経済発展」が強く求められる。実体経済の土台となっている中小零細店舗の近代化は、避けて通れない道だ。
引用元:Warung Pintar
(文・澤田 真一)
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