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【CEOインタビュー】インドのゴミ問題解決に挑むスタートアップRecykal、アプリでステークホルダー間の取引を最適化する

Techable / 2024年5月26日 10時0分

インドの成長が止まらない。2025年には名目GDPで日本を追い抜く見込みだ。その代償なのか、大量のゴミの廃棄がインドで深刻化している。

Invest Indiaのデータによると、インド都市部の住人1人が1日に出すゴミの量は2025年には0.7キロになる見込み。これは1999年と比較すると6倍以上の量だという。また、インド環境・森林・気候変動省の発表ではリサイクル可能な物も不可な物も含め、インドでは毎年6,200万トンの廃棄物が発生しているとのこと。


ゴミ問題は日本を含めすべての国が抱える課題だが、抜本的な解決策は見つかっていない。この難問をテクノロジーで打開しようと取り組むのが、本稿で紹介するRecykalだ。創業者でCEOのAbhay Deshpande氏に取材を行った。

テクノロジーでゴミ問題に取り組むRecykal

Recykalは、インド中南部の大都市ハイデラバードに本拠を置くスタートアップである。

Forbes Indiaの記事によると、同社の売り上げは2019年の1.8クロールルピー(約3,350万円)から2020年には21.2クロールルピー(約3.95億円)まで増加。Fortune誌の2023年版「Change the World」リストでは、MicrosoftやWalmart、Appleなどの世界的大企業とならんで27番目に選出された。2024年4月10日には、プレシリーズBで1300万ドルの資金調達を完了したことが複数の媒体で報じられている。

2016年の設立から10年たらずで世界的に注目される企業へと著しい成長を遂げた同社。前述の通り、Recykalはテクノロジーを用いてインドのゴミ問題に取り組むスタートアップだ。

リサイクル可能な廃棄物の売買取引を効率化するアプリ「Recykal Marketplace」では、ゴミの発生源である事業者、収集業者、リサイクル業者を管理し、仲介者の数を減らすことで、関係者全員の効率性と利益率を向上させている。

一般事業主向けには、インドの中央公害防止委員会が定める「拡大生産者責任」(EPR) 認証取得のためのプラットフォーム「EPR Loop」を提供。 これにより、企業は自社の廃棄物リサイクル状況を管理でき、EPRの要件対応と認証までのプロセスが支援される。

リサイクル業界の抱える問題をアプリで解決

Recykalの創業者Abhay Deshpande氏は連続起業家だ。1998年にMalamall.comという民族衣装のオンラインマーケットを設立。2007年に設立したSaaS企業Martjackは、2015年にシンガポール拠点のCapillary Technologiesに売却している。

Recykalビジネスモデル構築のために、ゴミ山で生活する“ラグピッカー”(ゴミ拾い)の仕事を2年間調査したという。輝かしいキャリアを誇る成功者が、なぜゴミ問題というタフなビジネスに取り組んでいるのだろうか。

――Recykalを設立した動機はなんでしょうか?
Abhay: 
社会にも環境にも大きな影響を与えたいと考えました。インドの廃棄物管理は非効率的です。この分野で、テクノロジーを活用してより持続可能な仕組みを作り上げることが重要だと思いました。

インドに循環型経済を作り上げるため、若くて活動的な共同創業者のEkta Narain、Abhishek Deshpande、Vikram Prabakar、Anirudha Jalan、25人の従業員とともにRecykalを設立しました。

――2年にわたり回収業者やラグピッカーなどの現状を研究したそうですが、どのような知見が得られましたか?
Abhay: リサイクルにおける課題と非効率性について認識できました。この業界には複数のステークホルダーが存在しますが、それぞれ直接自身と関わる情報しか持っていません。リサイクル工程の全体像を把握していなかったんです。

さらには、回収業者が資源を提供するリサイクル業者が1社または2社しかない場合、リサイクル業者の事業縮小によって回収業者にもすぐに影響が出ることがわかりました。コンプライアンス遵守もきちんと行われておらず、これはリサイクルのシステム化への大きな課題でした。

――そうした問題は解決されたのですか?
Abhay: 
回収業者により良い市場へのアクセスと最良な市場価格をアプリで提供しました。数社のリサイクル業者にしかアクセスできなかった回収業者が、インド全土のリサイクル業者を検索できるようになったのです。

また、Recykal Marketplaceに新たな廃棄物や中古品のカテゴリーを追加することで、扱える品目が増えました。これにより、回収業者はこれまで以上の収入を得ながら、コンプライアンスを遵守できるようになっています。今では、政府機関やリサイクル業者、回収業者、製造業者を含むすべてのステークホルダーが、Recykal Marketplaceを使用することでメリットを受けているのです。

――回収業者は以前より多くの収益を得られるようになったのですか?
Abhay: 
はい、たとえばハイデラバード出身の35歳の回収業者Rajvardhanは、収益を大幅に向上させています。以前は知識が不足していたため、限られたカテゴリーのゴミしか扱っていませんでした。しかし、取り扱えるゴミのカテゴリーが増え、インド全国のリサイクル業者の検索ができるようになったことで、より多くのビジネスチャンスを得ています。

現在は、5000以上の回収業者がRecykal Marketplaceを活用しているんですよ。

返金システムで消費者のリサイクル意欲を向上

リサイクル促進のためには消費者の意識向上も重要だ。しかし、環境保護の重要性をいくら並べても、自身にメリットがなければリサイクルへの積極的な意欲もわきにくい。Recykalはテクノロジーによってリサイクルの動機付けに成功した。

それがデジタルDRS (Deposit Refund System)、デジタル預り金返金システムだ。「Digital India Award 2022」を受賞するなど、インド国内でも高く評価されている。

――デジタルDRSについて教えてください。
Abhay: 
消費者は製品購入に預り金を価格に上乗せして支払います。使い終わった製品のパッケージを返却すると、この預り金が返金されます。返却時に金銭的な見返りがあるため、パッケージ回収率が高まるのです。このシステムはペットボトルやお菓子の容器、アルミやガラス製のケースなど、さまざまな製品に対応可能です。

各パッケージに固有のシリアルコード(USIコード)を印刷して、識別可能にします。からになったパッケージを消費者が回収センターに返却する際、USIコードをスキャンすれば預り金が返金されるシステムです。

Recykalが開発したクラウドベースの印刷サービスがあるので、クラウドにアクセスすれば簡単に独自コードを印刷できます。このコードを用いれば、製品の偽造対策やリサイクル状態の追跡なども可能です。セキュリティ機能も備えており、ユーザーデータも保護しています。

――デジタルDRSが導入されることで、どのような効果が期待できますか?
Abhay: 消費者にデポジットが返金されるため、リサイクルに取り組むインセンティブが与えられます。これは、パッケージ返却率の向上とポイ捨て削減に貢献します。回収されたパッケージが適切にリサイクルされているかどうか、USIコードで確認すれば、リサイクルプロセス全体の透明性と効率性を高めることもできます。

dDRSはインドのさまざまな州で急速に普及しています。ヒマラヤ地域の巡礼地4ヵ所で行われる聖地巡礼では、巡礼者によるゴミ問題の改善に貢献しました。州規模でのデジタルDRS実施が複数件計画されており、インド全体でのリサイクル推進が期待されています。デジタルDRSの仕組み

最新テクノロジーとRecykalの今後の取り組み

インドの特筆すべき強みとして、IT分野での高い技術力があげられる。Deshpande氏もテクノロジーに深い知識と経験を持つ人物であり、Recykal社は公式サイトにあるとおり「technology-driven solution provider(テクノロジー駆動の解決策の提供者)」を名乗っている。

――AI、IoTなどの最新のテクノロジーはRecykalの事業にどのように影響を与えていますか?
Abhay: 
これらのテクノロジーは分別プロセスの改善、物流の効率化、リサイクル業務の透明性の向上などで、ゴミの管理を革新する可能性があります。

Recykalは、将来の素材価格と需要・供給についてAIで予測を行い、回収業者に情報提供しています。回収センターではAIを用いて90%以上の精度でリサイクル可能な物が自動で分別されます。リサイクル過程での識別業務の効率が改善されるのです。


――他に、可能性を感じるテクノロジーはどんなものがありますか。
Abhay: 個人向けのトレーニングプログラムを開発すれば、消費者はシミュレーションでリサイクルを学習できます。楽しく学べるだけでなく、情報の定着率も高い学習方法です。バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)技術を活用すれば、さらなる没入型のトレーニング体験が実現するでしょう。仮想環境で環境への影響を可視化することで、適切なゴミ処理の重要性への理解を深められます。

国際的なゴミ問題解消に向けて

ゴミ問題への対処と循環型経済の確立は、企業や政府だけでなく、私たち消費者も自分ごととして考えなくてはならない。海洋に放出されるプラスチックが魚の生態系を一変させれば、私たちの生活も大きな影響を受けるだろう。

――廃棄物管理は世界的な課題ですが、国ごとに状況や文脈は異なります。この複雑な問題に取り組み解決するために、消費者、政府、企業はどのような役割を果たすべきでしょうか?
Abhay: 
ゴミの管理の課題に取り組むには、消費者、政府、企業が協調して努力し、それぞれが持続可能で重要な役割を果たす必要があります。


消費者はゴミ削減の最前線に立つ存在です。リデュース、リユース、リサイクルの原則を守ることで、自分が出したゴミによる環境への影響を大幅に減らすことができます。

政府は強固な廃棄物管理規制とインフラを整備するとともに、国民の意識向上と教育を促進することで貢献します。これは、効果的な廃棄物管理と環境保全のために不可欠です。

企業は、事業活動にサステナビリティーを組み込むことで大きな変革を推進できます。環境に配慮した慣行を採用し、ゴミの管理企業と協力すれば、自社の環境への影響を最小限に抑えることが可能です。

――廃棄物管理の問題に取り組むにあたって、Recykalはこれらのステークホルダーとどのような協力関係を築いていますか?
Abhay: Recykalは、特定品目の管理ニーズに対応するために、オーダーメイドのソリューションを提供し、さまざまなステークホルダー間の協力関係を強化しています。

リサイクル業者に対しては、リサイクル可能な品物の効率的な処理と追跡を支援します。一方、製造業者にとっては、追跡可能なリサイクル促進によって、環境コミットメント履行と高い透明性が保証されるというメリットがあります。

回収業者にとってのメリットは、安定需要と明確な価格設定ですね。これにより、競争の激しいリサイクル市場での成長が可能です。一般消費者に対してはポイ捨て防止や分別改善といった行動変化を促進し、リサイクルの全体的な効果向上と公衆衛生に貢献しています。

――将来的に、Recykalはインドで得た知識と経験を活かした海外展開を考えていますか?
Abhay: インドで実証した戦略と技術を活用して、世界的なゴミ管理の課題に取り組むための国際的な機会を模索しているところです。国境を越えた効果的な戦略の実施、世界中で持続可能な慣行の促進を目指しています。

ゴミ問題はインドだけの問題ではない。いつの日かRecykalのビジネスが国境を超えて広がり、環境にやさしい循環型経済が世界中で出来上がることを期待したい。

また、複雑な社会課題への打開に向けて、高い技術力と実地調査でアプローチする姿勢に素直に感銘を受けた。快く取材に応じていただいたDeshpande氏とRecykalのメンバーに感謝の意を表したい。

参照:Recykal

(文・松本 直樹)

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