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バレーボール新リーグ成功の鍵は「箱推し」 独特のアイドル風潮、求められる単推しからの変革【記者コラム】

THE ANSWER / 2024年4月19日 10時33分

SVリーグのタイトルパートナー発表会見に出席した柳田将洋、青柳京古、大同生命の北原睦朗社長、大河正明JVLバイスチェアマン、大林素子JVL理事(左から)【写真:荻島弘一】

■今秋開幕「大同生命SVリーグ」についてスポーツライター・荻島弘一氏の考察

 これからは「箱推し」に――。17日、都内で行われた「大同生命SVリーグ」のリーグ構成チーム発表会見。大河正明バイスチェアマンの発言は、もやもやとした気持ちにストレートに響いた。「箱推し」は、将来のプロ化を見据えて今年10月にスタートするバレーボールの新リーグにとって重要なキーワードに思えた。

 ジャパンバレーボールリーグ(JVL)理事会後に行われた会見。新リーグのタイトルパートナーに大同生命が発表された後、初年度参加の男子10チーム、女子14チームが発表された。男子は現在のV1リーグの10チーム、女子はV1の12チームにV2の2チームを加えた編成。分かっていたとはいえ、代わり映えのしない顔ぶれだった。

 比べても仕方ないとは思うが、JリーグやBリーグの発表を思い出す。Jリーグの10チームは衝撃だった。ある程度事前に分かっていたとはいえ、日本リーグ1部で強豪だったヤマハ発動機や本田技研、日本鋼管などの名はなく、2部の住友金属や実体のない清水クラブが入った。Bリーグも、日本バスケットボールリーグ(JBL)と日本プロバスケットボールリーグ(bjリーグ)という異なる2つのリーグの統合に目新しさがあった。SVリーグはリーグ編成にも、チームの名称にも「変わる」という期待感は薄かった。

 会見中に繰り返された「地域密着」という言葉にも、新鮮味はなかった。30年前ならば定着していなかったかもしれないが、Jリーグの発足後は「地域密着」が普通になった。プロ野球をはじめ、どのスポーツでも積極的に地域と関り、活動している。そこには、バレーボール「らしさ」も感じなかった。

 ただ「箱推し」という言葉は、バレーボール独特だった。「箱推し」はアイドル用語。特定のグループの特定のメンバーだけを応援する「単推し」に対して、グループ全体を応援するのが「箱推し」というわけだ。

 バレーボールには「推し」の文化が色濃い。日本代表戦でもVリーグでも、選手の名前を書き入れた「うちわ」を振り、選手名を連呼する。特に男子では顕著で、まるでアイドルのライブ会場。バレーボール人気を支えているのが、主に女性ファンによる「単推し」であるのは間違いない。

 もちろん、女性ファンが多いことは素晴らしいこと。ただ、今の人気は選手個人のもので、リーグや競技そのものの人気ではない。もちろん、Vリーグのチームのファンやバレーボールのファンもいるはずだが「単推し」ファンが圧倒している。

 80年代後半、バレーボール人気はサッカーなどを凌駕していた。現日本協会会長の川合俊一や熊田康則が所属する富士フイルムは練習場にもファンが詰めかける人気ぶり。Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎氏も「もしバレーボールが先にプロ化していたら、Jリーグはなかった」と話すほどだった。

 当時日本協会会長だった松平康隆氏はJサッカーより早くプロ化構想を持っていたとされるが、Jリーグに先を越されて実現せず。「単推し」ファンは川合や熊田の引退とともに去り、富士フイルムも2002年に廃部。バレーボール人気も低迷した。

■「カズの人気に頼っていては、リーグの成功はない」 Jリーグも当初から求めてきた箱推しファン

 だからこそ、大河氏は「単推しのファンが箱推ししてくれるようにすることが大切」と完全プロ化を見据えて話した。そのために「各チームが地域から愛されること」。選手がプロになれば、移籍も活発化するはず。石川祐希や高橋藍のように海外に出る選手も増えるだろう。現状のような選手人気主導ではリーグはもたない。チームの人気でリーグを支えていかなければ、成功はない。

 Jリーグ発足当時、川淵チェアマンは「カズの人気に頼っていては、リーグの成功はない」と言った。特定の選手だけが「単推し」されても意味はない。各チームに「箱推し」するサポーターがつかなければ、リーグは長く続かないということだった。各チームに「箱推し」ファンをつけるための地域密着。それを徹底したからこそ、Jクラブは30年で発足時の6倍の60まで増えた。

 スポーツ界は保守的で、変革を嫌う傾向は今も根強い。サッカーのプロ化には日本協会や各企業チームが「時期尚早」と反対したし、バスケットボールも2つのリーグが長く混在したままだった。それでも、サッカーにはアジアで勝てずに世界から離されていく危機感があった。バスケットボールにも世界舞台に出られなくなるという外圧があった。どちらにも、プロ化の必然性があった。

 バレーボールは過去にもプロ化が模索されてきたが、変革を嫌う「保守層」に阻まれてきた過去がある。サッカーやバスケに比べれば世界的な実力はあるし、リーグの人気もそれなりにはある。「現状維持」を求める力が小さくないのも分かる。だからこそ、SVリーグは急激な変化を避けて段階的にプロ化を目指すのだろう。

 Jリーグの常務理事やBリーグのチェアマンを歴任してきた大河氏だけに、秘策はあるはず。会見では「JリーグやBリーグにないものを考えている」とファンの期待を高めるような発言もあった。いずれにしても、バレーボール独特の「推し」文化を使わない手はない。選手への「単推し」がチームやリーグへの「箱推し」になった時こそが、バレーボールのプロ化が成功する時だ。(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)

荻島 弘一
1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。

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