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なぜ、高校生が平日の金曜夜に試合をするのか アメフト部の運営から透ける米国特有の部活事情

THE ANSWER / 2024年5月10日 17時3分

今回は「高校アメフトが金曜日の夜に試合をする理由」について【写真:Getty Images】

■連載「Sports From USA」―今回は「高校アメフトが金曜日の夜に試合をする理由」

「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「高校アメフトが金曜日の夜に試合をする理由」について。

 ◇ ◇ ◇

 アメリカの高校アメリカンフットボールを描いた「フライデー・ナイト・ライツ」という名作ノンフィクションがある。これは、高校のアメリカンフットボールの試合が金曜日の夜に試合が行われていることに由来している。

 なぜ、高校のアメリカンフットボールの試合は金曜日の夜に行われるのか。米国のアメリカンフットボール部の試合は、金曜日が高校、土曜日が大学、日曜日がNFLと分かれていて、それぞれ重ならないようにしている。日曜日には、米国の高校運動部の公式戦は組まれることがほとんどない。これは、教会に行くことを考慮したものだろう。私は、高校生たちが金曜日の授業を終えてから試合を行うので、夜になるのだと思っていたのだが、どうやら、それだけではないらしい。

 アメリカで、アメリカンフットボールの試合で初めてナイトゲームが行われたのは1892年のことだ。マンズフィールド大学対ワイオミング神学校との試合だったとされている。高校のアメリカンフットボールの試合で、初めてナイトゲームが行われたのは、1925年11月19日で、ワイオミング州のミッドタウン高校対キャスパー高校戦だったという。その後、全米で、夜に高校のアメリカンフットボールの試合をするということが急激に広がっていった。

 高校生が夜に試合を行うことはすぐに受け入れられたのだろうか。高校のアメリカンフットボールの初のナイトゲームが開催されて7年後の1932年10月号の「The Journal of HEALTH AND PHYSICAL EDUCATION(健康と体育教育ジャーナル)」では、アメリカンフットボールのナイターに賛成する教育者と、反対の教育者が、誌上討論を繰り広げている。

 ナイトゲームを推すカンザス州トピカの体育教育局のバーネット氏は、カンザス州では5年前に大学のナイトゲームが行われて以来、ほとんどの大学が照明を設置し、多くの高校がこれを利用しているとしている。ナイトゲームの利点について「より多くの観客を集めることができ、財政的な利益を増やすことができる」ことを挙げている。アメリカの高校の運動部の試合は、プロや大学ほど高額ではないが、わずかながらでも入場料を徴収するので、観戦者が多いと入場料収入を増やすことができる。これらの収入は活動資金に充てられる。

 また、バーネット氏はこのほかにも、カンザス州ではアメリカンフットボールのシーズンである晩夏から秋は、日中の気温が高いため、夜のほうが試合に適した気候であるとし、さらに、金曜日の日中に試合を行っていたときには、アメリカンフットボールの試合に間に合うように、早目に下校することが慣例であるため、ナイトゲームのほうが学業にとってもよいとしている。

■金曜夜の試合に出場するために学校を早退することも

 これに対し、反対意見のウィスコンシン州ウエストアリス公立校、体育教育ディレクター、ハーゲン氏の主張は次のようなものだ。

「アメリカンフットボールはチーム競技であり、アメリカの青少年にとって理想的なスポーツである。エネルギーを発散する機会を与え、チームに入るという目標を作る。放課後から夕食までの余暇の時間に、成長期の彼らにとって不可欠な新鮮な空気と太陽の光を浴びながら、開放的な場所で運動をさせるものだ」としている。

 反対派もナイトゲームと入場料収入について言及している。

「ナイトゲームを奨励している人たちは異口同音に、星空の下でプレーする理由は入場料収入の増加だと述べている。運動部の運営には費用がかかり、その費用は自分たちで負担するべきものであることは認めるが、それにかかわらず、地域社会は教育委員会を通じて、アメリカンフットボールやその他の活動のために適切な競技施設を提供する義務がある。少年たちのためにアメリカンフットボールがあるのであり、試合のために少年がいるのではない」

 反対しているハーゲン氏も、ナイトゲームによって入場料が増えて、それが運営の助けになることは認めている。しかし、入場料収入に頼らず、「地域社会が教育委員会を通じて」競技施設などを提供しなければいけないとしている。「地域社会が教育委員会を通じて」という言葉は、地域の税金からなる教育委員会のお金で運営されるべきだ、ということだ。また、入場券収入のために、高校生選手が使われてはいけないとも反論している。

 この誌上討論から90年以上が経った今も高校のアメリカンフットボールの試合は夜に行われている。学校の運動部の活動費用は、学区の教育予算を主な財源としているが、現在も、入場料収入が運動部の活動資金の一部にあり続けていることがその理由のひとつだろう。

 私が調べた限り、アメリカでは1920年代から1960年代まで、入場料収入に頼らずに学区教育委員会からの予算によって学校運動部は運営されるべきだと意見がずっと出されているが、あまり実現していない。運動部は全生徒が参加するものではないので、そこに分厚く予算を充てることは避けたいという考えも絡んでいる。ただし、高校の試合の観客は、選手の家族や友人であることがほとんどで、大学やプロと比べると、近しい人からお金を得ているのが実態だといえる。

 さきに述べたように学校の運動部の公式戦は日曜日には組まれないことが一般的で、アメリカンフットボール以外の種目も平日の夜に試合を行うことが多い。公式戦に出場するために、ときには学校を早退することもある。課外活動による早退や欠席をどこまで認めるかは規則で決められており、コーチが学校に早退者・欠席者を知らせることなどの条件のもとに、大目にみられているふしがある。(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

谷口 輝世子
 デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。著書『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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