なんで選手は金メダルを噛むの? 第1号は無名スイマー、東京五輪は自重も…今大会は存分にガブリ
THE ANSWER / 2024年8月4日 14時33分
■「シン・オリンピックのミカタ」#57 連載「オリンピック・トリビア」第15回
スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、4年に一度のスポーツの祭典だから五輪を観る人も、もっと楽しみ、もっと学べる“新たな見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値の理解が世の中に広がり、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。
今回は連載「オリンピック・トリビア」。いろんなスポーツが行われる五輪を見ていると、それぞれの競技のルールやしきたりなど「よくよく考えると、これってなんで?」と不思議に思うことがないだろうか。スポーツ新聞社の記者として昭和・平成・令和とスポーツを40年追い続けたスペシャリスト・荻島弘一氏が、そんな今さら聞けない素朴なギモンに回答。オリンピック観戦を楽しむトリビアを提供する。第15回は「どうして、選手は金メダルを噛むの?」。
◇ ◇ ◇
Q.どうして、選手は金メダルを噛むの?
A.金メダル獲得を信じない選手がいたから。
【解説】
表彰式でおなじみのメダルを噛むシーン。新型コロナ禍での東京大会はマスクが必須でもあり、感染リスクもあって自重されたこともあって(物議を醸した市長もいましたが)、今大会は思う存分噛んでいます。
では、メダルを噛んだ最初の選手は誰か。第1号と言われるのが、88年ソウル大会競泳男子200メートル自由形で優勝したオーストラリアのアームストロング選手です。世界ランク24位の無名スイマーが、スーパースターのビオンディ(米国)とグロス(西ドイツ)を破って、まさかの優勝。記者席がパニックになるほどの大番狂わせでした。
スタンドでは「赤鬼」と呼ばれたローレンスコーチが大暴れ(オーストラリアのコーチは激情家が多いのです)。本人も「まさか、勝てるなんて」と興奮状態でした。当時はメダル有力な日本選手も少なく(鈴木大地の金は5日後)、翌日の新聞1面を飾る「事件」だったのです。
表彰台で金メダルを手にしたアームストロングは思わずガブリ。金は軟らかいので噛めば分かる(実際はメッキなので関係ないですが)から「本当に金か確かめたかった」と言われるのは本当でしょう。それほど興奮していたのは、間違いありません。
日本人選手で初めて噛んだのは96年アトランタ大会柔道の中村兼三選手。カメラマンのリクエストでした。メダルと表情を同時に大写しにするのに都合がいいからです。以降、カメラマンの要望に応えて野村忠宏や高橋尚子が噛み、それが選手の間に定着したようです。
ちなみに、かつてはメダルは神聖なもので、噛むことなど許されない雰囲気でした。84年ロサンゼルス大会レスリングで優勝した富山英明氏(現日本協会会長)は、自著「夢を喰う」の表紙でカメラマンの提案に応じ金メダルをがぶり。「きっとJOCには怒られるだろうけど、引退したから関係ないと思った」と述懐しています。(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)
荻島 弘一
1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。
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