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最強帝京大の喋れなかった主将の言葉力 4連覇の裏で悩んだ、部員150人へ「どうしたら伝わるか」【ラグビー大学選手権】

THE ANSWER / 2025年1月14日 6時43分

胴上げで4度宙を舞った帝京大主将の青木恵斗【写真:中戸川知世】

■全国大学選手権決勝

 ラグビーの全国大学選手権決勝が13日、東京・秩父宮ラグビー場で行われ、王者・帝京大が早大に33-15で勝利した。史上初となる2度目の4連覇を達成し、通算13度目の優勝は明大と並ぶ歴代2位。最多16度を誇る早大の5大会ぶりの優勝を阻んだ。主将のFL青木恵斗(4年)は号泣。シーズン当初は感情を言語化できずに悩んだが、最後は言葉の力で日本一に上り詰めた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ◇ ◇ ◇

 もう言葉はいらない。泣き顔で抱き合い、想いをぶつけた。仲間一人ひとりのもとに歩み寄った青木。「悩む時期も多かったけど、帝京のみんなが支えてくれてここに立てた」。約150人の部員を言葉で、プレーでまとめた大黒柱。身長187センチ、体重110キロの巨体が連覇の数と同じだけ宙を舞った。

 人生初の主将に就任。4連覇の重圧を背負いながら迎えた昨夏、早大に敗れた。だが、部内の空気は変わらず、打開策が見つからない。「どうしたらチームで変われるんだろうか」。悩みを抱えた9月の初戦。試合後の会見は相馬朋和監督の隣りで「何から話していいかわからない」と言葉に詰まった。

 桐蔭学園2、3年時に花園2連覇、大学選手権も3連覇。「パフォーマンスでチームを引っ張ることだけを考えていた」。主将になればそうはいかない。「どう伝えたらいいか、考えて、考えて。その結果、しっかり伝えようと考えるきっかけになった」


試合後に涙した青木【写真:中戸川知世】

 主将として成長が始まったが、またも早大が立ちはだかる。11月3日の対抗戦で17-48の大敗。自慢のスクラムが敵わなかった。「現実を受け止めて、一人ひとり何が足りないのか考えた」。見えたのは常勝軍団だから抱える課題だった。

「チームとして『これで勝てるだろう』という空気でラグビーをしていた。11月3日まで勝つ前提のラグビー。帝京の勝ちパターンのラグビーだったけど、それが劣勢の状況ではハマらない」

 言葉を丁寧に使い、プレー内の取り決めを浸透させた。ボールを持つ時間を増やし、キックの精度をアップ。「僕一人の考えではなくて150人全員で考えて、急ピッチで成長できた」。重厚なスクラムが蘇り、大学選手権を駆け上がった。


試合前に整列した帝京大、青木(一番手前)は清々しい表情だった【写真:中戸川知世】

■青木が2点差ピンチで伝えた言葉

 2日の準決勝から中10日。スクラムを封印された対抗戦の悪夢が蘇るメンバーがいた。PR森山飛翔(2年)は「凄い恐怖感。早稲田さんに植えつけられたものがあった」と当時の試合映像を見返すのも躊躇。連日スクラムを組み、チームで弱気を吹き飛ばした。

 リベンジマッチには最高の舞台。大一番の朝、青木は唱えた。「今日が最後か」。心は不思議と晴れやかだった。

「ラグビーをしてきた中で一番気持ちのいい起き方。すっきりしている。プレッシャーもあるけど、純粋に大学ラグビーの最後を楽しみたいという気持ちだけ。このチームで日本一になれる」

 試合直前のロッカー。みんなに告げた言葉はシンプルだった。

「勝っても負けても最後。思い切ってラグビーをしよう」


体を張った帝京大の森山飛翔【写真:中戸川知世】

 ホイッスル直後、自ら暴れ回った。前半5分、青木が右サイドで相手タックルをふっ飛ばす激走。左に回し、最後は森山の先制トライに繋げた。7-0の同12分には、残り5メートルから中央突破。相手3人を引きずりながら強引にトライへ持ち込み、パフォーマンスで引っ張った。

 しかし、速いパスを展開する早大に2トライを許し、前半24分に14-12の2点差。円陣を組み、青木は伝えた。「引きずっても何も生まれない。自分たちが思っているラグビーをしよう」。スタンドの控え部員を煽り、声援を膨らませた。

 前半終了後のロッカーでも、淀みなく言葉が出てくる。「真っ向勝負では互角になる。もっと賢くラグビーをしよう」。パスオプションを増やし、防御をずらす戦術を指示。メンバー23人の意思が固まった。


優勝後に喜びを露わにした帝京大・相馬朋和監督【写真:中戸川知世】

■相馬監督が無言の労い「言葉はいらないですよ」

 実はこれまでスクラムに苦戦したのは、審判も影響していた。イメージ通りに組めても注意を受け、反則をとられることも。綻びを突かれ、そのまま敗れるのがパターン。決勝で発揮されたのが、またも主将の言葉力。審判とチームの間に入り「何がいけないのか」「判断基準は何なのか」を明確にした。

 相手に合わせず、帝京流のスクラムにフォーカス。意図した組み方ならどこにも負けない。後半20分を過ぎ、FW8人の心と体がガチっとハマる音がした。最前列の森山は「8枚のまとまりが対抗戦と違う。1人が負けたとしても8枚がまとまったら勝てる。それがスクラム」と背後からの圧力を実感。FW戦で優位に立ち、後半3トライで突き放した。

 前回大会で史上初となる2度目の3連覇を果たし、記録を更新する4連覇。相馬監督も涙が止まらない。

「今シーズンは本当にいろんなことがあって、そのたびに強くなって立ち上がるキャプテンをチームが一丸となって追いかけていく。そんなシーズンだった。青木が会見で『何から話していいかわからない』という状態だったのが今季のスタート。想いを言語化するのも難しかったのだと思う。

 ただ、段々と言葉を使えるようになって、より深く考えるようになって、自分の考えをチームに伝える。そういう言葉の力を持ち始めた。もともとフィールドでは圧倒的な力があったけど、青木が何を考えているのか仲間が理解し始めて、そこに向かってチームが進むようになった。今は立派に自分の考えを自分の言葉で話せるようになりました」


青木(最前列左から3人目)は満面の笑みで仲間と記念写真に納まった【写真:中戸川知世】

 グラウンドで嬉し涙を拭う選手たちが、指揮官の目に焼き付いた。「言葉はいらないですよ。一人ひとり抱きしめたいです」。青木は高校から続く“個人6連覇”を達成。「一番体を張ろうと思って80分間プレーした。同じ相手に何度も負けたくない。帝京らしさを出せたと思う」。言葉から王者のプライドが溢れていた。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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