日本の”割安感”が外国人旅行者を引き寄せる!? 銀座の賃料は香港の半分以下に
LIMO / 2019年12月3日 20時25分
日本の”割安感”が外国人旅行者を引き寄せる!? 銀座の賃料は香港の半分以下に
日本へのインバウンドが増えてきています。日本政府観光局のデータ(https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_trends/index.html)(2019年10月末時点)によれば、2019年の年初からの訪日外客数は2691万人となり、前年同月末の2611万人と比べ約80万人・3%増となっています。
10年前の2009年10月末時点での年初来の外客数はわずか560万人でしたから、この10年でインバウンドは約5倍に増えていることになります。すさまじい増え方ですね。
訪日客大幅増加に関する疑問
筆者が感じるだけでも大都市圏への外国人観光客は増えていますし、冬にはゲレンデの半分くらいがオーストラリアや中国からの外国人スキーヤーでいっぱいのスキー場もあります。また、日本人でも知らないようなところにもインバウンド観光客が増えているのを実感します。
たくさんの訪日客に来ていただけるのはありがたいことですし、地元にそれなりのカネを落としてくれるので大歓迎なのですが、根本的な疑問が残ります。
それは、「日本がなぜそんなに人気の観光地なのか?」です。
まず観光という観点からは、たしかに訪れるべき場所やモノ・コトには事欠きません。西洋とは全く異なる歴史や文化。東洋でも島国として長く鎖国をしていたくらいの異端の国。欧米列強国にも屈さなかったアジアの稀有な国。
そして、伝統とテクノロジーが渾然一体となっている社会。冬は北海道でスキーを楽しみながら、同じ時期に沖縄で海水浴を楽しめる南北3000キロにわたる列島ならではの四季と食。
確かに訪れる価値はある国だと思います。それでも、なぜ今さら?と思うのは筆者だけではないでしょう。
筆者はその理由をこのように推量します。それは、観光地としての日本がかなり割安になっているからではないかということです。
インバウンド客は海外から飛行機なり、近場であればフェリーなどで来日するわけです。時間をかけ交通費を出してまでわざわざ来日するということは、そのコストをカバーして余りある価値がないと、わざわざ来ません。加えて、それが他国と比べて安ければなお良しといったところでしょう。
世界の主要商業地の賃料を見てみる
実は日本が割安になっているのではないかと推察できるデータがあります。
米国の不動産会社であるクッシュマン・ウェイクフィールド社は、例年発表している“Main Streets Across The World”(世界の大通り)というレポートの中で主要商業地の賃料を毎年発表しています。図表1は、そのデータからアジア地域を抽出し、主要都市の賃料を1平方メートルあたりの高い順で並べてみたものです。
このデータによると、アジア地域で最も賃料が高い都市は香港です。香港の銅鑼湾(コーズウェイベイ)はアジアだけではなく世界で最も賃料が高い商業地です。ちなみに世界の賃料トップ5は次のようになります。
1. 香港 銅鑼湾(コーズウェイベイ) 296 (賃料:平米・万円/年、以下同)
2. 香港 尖沙咀(チムサーチョイ) 277
3. ニューヨーク 五番街 250
4. ニューヨーク タイムズスクエア 194
5. ロンドン ニューボンドストリート 193
これらのデータを見ると、香港がずば抜けて高いことが分かりますが、ニューヨークやロンドンよりも高いのは驚きです。
また、東京(銀座)もアジアでは3番目ですが、驚くのは賃料のレベルが香港の半分以下(新宿は約3分の1)であることです(余談ですが、最近の香港で騒乱があっても中国が香港を決して手放そうとしていないのは、こうした不動産価値にもあると思います)。
さらに、かつて東京にアジア本部を設置していた多くの外資系金融機関が、香港やシンガポールに本部を移していることも見逃せません(筆者のかつての勤務先での実体験です)。ヒト・モノ・カネの動きが完全にアジアシフトしていることが分かります。
結局、商業地の賃料が高いということは、そこで販売している商品やサービスも高いわけで、観光を通じて同じ効用を得るのであれば割安な日本に足を伸ばしたほうがおトクということになります。
インバウンドの経済的効果は…?
でも問題が一つあります。これだけインバウンドが増えると日本の経済成長に大きく貢献してほしいところですが、今までは大きな効果があったという声は聞かれません。
端的に言うと、みなさんの給料やボーナスがドンと上がって懐具合が暖かくなっているかどうかですが、インバウンド観光客が増えたからといって給料が増えたということはないですね。
筆者はその点悲観的です。経済成長率が年間1%程度の低成長の日本では、物価ましてや賃料を大幅に上げることは叶いません。良くて現状維持。もちろんインバウンド観光サービス業では多少宿泊料などは上げることはできるでしょうが、日本人のお客さんもいるので極端なことはできません。
全産業を見渡しても、国内では低成長・低インフレ・低金利がしばらく続くでしょうから、日本の相対的な割安感は続くと思います。
かつての円高時に訪日を敬遠していた外国人は、低成長が続き為替が安定している現状を見るや、こぞって訪日しています。バリューのある日本で実利を得ようとする彼らの嗅覚は、まことに素晴らしいと言わざるを得ません。今後、日本企業がその標的にならないことを祈るばかりです。
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