中国全人代、GDP成長率目標の発表は見送りも、景気対策に重点 <HSBC投信レポート>
LIMO / 2020年6月9日 21時0分
中国全人代、GDP成長率目標の発表は見送りも、景気対策に重点 <HSBC投信レポート>
開催が延期されていた中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)において、およそ20年間で初めてGDP成長率目標の設定が見送られた一方、新型コロナウイルスのパンデミックによって打撃を受けた経済の再建に向けて積極的な財政出動が公約された。
雇用と経済社会の安定に重点
2020年の経済成長率の目標設定の見送りは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって受けたマクロ経済の打撃の大きさ、世界経済の見通しや米中関係の将来を巡る外部環境の強い不透明感を物語っている。経済社会の安定性を確保するための政策支援が一段と重要になっている。経済成長率目標を設定しなかったことで、むしろ対象を絞った政策アプローチが可能となったと評価することもできるだろう。
今年は、雇用の確保が最優先課題となっており、政府は都市部で新規に900万人の雇用を創出し、失業率を約6%に保つことを公約した(2019年の新規雇用者数は1,100万人、失業率は5.5%)。
年初からの4ヶ月で、都市部の新規雇用者数は前年比22.9%減少したが、(他省からの)出稼ぎ労働者数は2019年4月の水準の90%まで回復した。上半期の失業の大部分はサービス部門が占めているが、製造業も輸出の低迷、工場の自動化の加速、サプライチェーンのシフトなどによる雇用減のリスクに直面している。今年下半期には、景気の持続的回復が、職を失った労働力の大部分を吸収すると思われるが、それでも労働市場の下押し圧力は残るだろう。
財政赤字の拡大を伴う拡張的、積極的な財政政策
経済社会の安定を実現するため、中国政府は、一般財政赤字目標をGDPの3.6%以上に設定した。これは、2019年の2.8%を上回り、歳入と歳出の格差が約1兆人民元拡大することを意味する。それでも政府は、必要に応じて財政支出の水準をさらに引き上げる柔軟性と意欲を示している。なお、実際の財政赤字は、予算調整基金からの計画的移転と公的預金からの引き出しを考慮すると、GDPの約6.5%にのぼると推計される。
一方、政府管理基金の支出は前年比38%増と大幅に増加すると予想され、基金の赤字は主にパンデミック対応のための地方および中央政府の特別債(LGSBおよびCGSB)の発行によって賄われることが見込まれる。
中央政府特別債(CGSB)による調達額と、中央政府の一般会計の赤字で計画された追加の1兆人民元は、特別移転スキームの下で地方政府に移転され、税および手数料の削減、賃貸料および利子の補助金、ならびに雇用、消費および投資の下支えの財源となる。全体として中央政府の一般会計の財政赤字に地方政府特別債(LGSB)および中央政府特別債(CGSB)の発行額を加えると、広義の赤字額は2019年のGDPの5.0%から今年は8.1%になると予想される。
さらに、融資平台(LGFV:地方政府の資金調達などを行う機関)債、LGFVへの銀行融資、政策銀行特別債、中国鉄路総公司(鉄道会社)の借入などの準財政融資が加速する可能性がある。LGFVは、年初からの4ヶ月間でオンショア債券市場において約1兆人民元を調達している(2019年は通年で1.2兆人民元)。
「柔軟で適切な」金融政策
当局は銀行の預金準備率(RRR)や金利の引き下げ、公開市場操作を通じて、マネーサプライ(M2)を増やし、2019年の水準を「大幅に上回る」資金供給を行うと見込まれる。当局は、実体経済を支える信用の波及に焦点を定め、企業部門(特に中小企業)の財政負担を軽減するとともに、債券の発行による財政赤字の穴埋めに注力するだろう。
中小企業を支援するために、債務支払いの一時停止期間は2020年6月から2021年3月まで延長されており、また大手銀行は今年、中小企業への融資を前年比40%以上増やすことが求められる。当局は政府の保証メカニズムを改善し、社債発行を支援、サプライチェーン・ファイナンスを強化すると見込まれる。
内需回復に注力
中国経済は1-3月期の急激な縮小から回復すると見込まれるが、なお課題は残されており、回復の道筋にも不透明感が残る。
財政支出の優先順位は、内需回復に焦点が当てられており、とりわけ、医療支出および企業/中小企業支援、「新しい」インフラストラクチャー(例えば、グローバル・テクノロジー推進計画を実行するための5Gネットワーク、産業用インターネット、データセンター、新エネルギー車(NEV)充電ステーションなど)や新しい都市化(例えば、2019年の目標19,000に対し39,000の古い都市コミュニティのリノベーション)などの「効果的な」投資に重点が置かれるだろう。
しかし、都市化関連の「伝統的な」インフラストラクチャーへの投資も、引き続き政策支援の対象となる。大規模な不動産規制の緩和は期待できないが、より緩和的な金融政策と信用供与、ならびに土地および戸籍登録制度の改革による不動産セクターへの下支え効果が見込まれる。
政府は、土地、戸籍登録制度の改革に加えて、国内市場開放と国有企業(SOE)改革(例えば資本市場と証券化を利用して、競争力のあるセクターにおいて国有企業の資本利益率を高めることや、平等な私有財産権の保護)を公約している。
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