お金持ちにも貧乏家庭にもいる毒親。親になってわかった「子どもの心を傷つける行為」
LIMO / 2020年8月14日 7時0分
お金持ちにも貧乏家庭にもいる毒親。親になってわかった「子どもの心を傷つける行為」
「毒親」の特徴には、過干渉、無視(ネグレクト)、暴言や暴力などがあると言われます。中でも、経済的に不安定な環境ゆえに育児放棄したり、成人してからお金を無心するというイメージを持たれることが少なくありません。
「親と一緒に遊んだ記憶がない」「お金がないと言われ、入りたい部活を諦めた」「働き出したら今まで世話した分返せと言われた」…。こうしたコメントはネット上に溢れています。しかし、他人から見て何不自由なく暮らしている家庭の子でも、実は毒親に悩まされていることもあるのです。
母親から趣味を全否定される裕福な家の子
今から15年以上前になりますが、筆者は塾講師の仕事をしていました。
そこで接していたのは皆、個性豊かな子どもたちでした。塾に通っていることからも、生徒たちの家庭環境はそれなりに整っている印象がありましたが、学力レベルは様々です。勉強は苦手だけれど塾で先生たちと話をするのが好き、と笑顔を見せる中学生もいるなど、心の問題を抱えている子はあまりいませんでした。
そんな時、塾に通い始めたばかりのAさんが他の子ども達と雰囲気が違うことに気がつきました。無表情で笑顔をほとんど見せないのです。緊張や勉強嫌いからくるものかと思い、積極的に話しかけてみると徐々に打ち解けて自分から数人の先生に色々な話をするようになりました。
ある日のこと。塾に来ていたAさんから突然「漫画好きですか?」と声をかけられ筆者は、好きだと答えると嬉しそうに自分のお気に入りの漫画の話をし始めました。マシンガントークで話し、いつもとは違うAさんに驚き、戸惑ったたものの、頷いたりしながら耳を傾けました。
すると、話の終わりに「お小遣いで買い集めた漫画、全部母に捨てられたばかりなんです」という思いもよらないことを告白してきました。Aさんの許可なく「勉強の邪魔」とお母さんが勝手に処分したというのです。家には1冊も漫画がなくなり、家での楽しみがなくなったと呟いたAさんの顔を今でも覚えています。
子どもは嫌いと平気で口にする母親
どういうことなのか気になり、「どうしてお母さんは何も言わずに捨てたんだろう」と聞いてみると、予想を遥かに超えた言葉が返ってきました。
「母は子どもが嫌いで全てを否定するんです」
Aさんのお母さんは常日頃から「本当は生みたくなかった」「子どもは嫌い」と言い放ち、我が子であるAさんたちを苦しめていたのです。裕福な父に近づき、好きでもない子どもを生んだのではないか…。Aさんは自分の母親を恨むようになっているようでした。
そんな話を聞き、豊かな生活を送るものの子ども嫌いを明言し、我が子を傷つけ教育は塾や習い事教室に丸投げのAさんのお母さんに恐ろしさすら感じました。
貧しい幼少期を過ごした筆者は、恥ずかしながら経済的に恵まれていれば幸せな人生を送れると信じていましたが、Aさんとの出会いで考えを改めました。何不自由なく過ごせる環境にいながら、親の愛情に飢える子の悲しさをAさんが教えてくれたのです。
「結婚するんじゃなかった」という呪いのような言葉
Aさんと対照的に筆者の実家は裕福とは程遠く、幼い頃から「家は貧しい」というのを肌で感じながら育ちました。母は子どもに対してそれなりに愛情を持って育ててくれたとは思いますが、毎日のように壮絶な夫婦ゲンカを繰り広げ、時には短気な父が包丁を持ち出し生と死を行き来するような騒動が起きていたのです。
そんな環境で、「今日はケンカをしませんように」と、筆者は物心ついた頃からピエロのように空気を読んで家庭内で立ち振る舞っていました。母は料理もし、育児放棄する人ではありませんでしたが、毎日父や父方の親戚の悪口を言い、「あんな人と結婚するんじゃなかった」という言葉で締めていました。
成長するにつれ、母の「結婚するんじゃなかった」「こんな貧乏だとは思わなかった」という小言の数々が筆者を苦しめていきます。
「結婚しなければ私はこの世に存在していない」「子どもがいるから貧乏なのでは」と10歳ごろから自分の存在の意味を考え始めました。父との結婚を後悔しているのならば離婚すればいいのにと真面目にアドバイスしたこともありました。結局、世間の目を気にしたり、経済的に自立できないことなどから、筆者の両親は年老いてケンカをする気力をなくした今でも一緒にいます。
当時の母は、自分の不幸を子どもに訴えて同情してほしかったのでしょう。しかし、「こんな人と結婚するんじゃなかった」という間接的な言い方であっても、子どもは自分の存在を否定されたように感じるものです。そうした言葉を平気で口にするのは毒親体質と言えるでしょう。
「ママ好き」という言葉で思い出した幼い頃の記憶
両親の仲が悪く、不安定な家庭だけれど自分は道に外れず成長したと自負していましたが、いかに家庭環境が悪かったのか思い知ったのは結婚し子どもを出産してからです。
夫とお互いに子ども時代の思い出話をするとき、家族旅行や成長の節目の行事などをごく普通に経験している夫の話には違和感を感じていました。「これも経済的な理由」と思っていましたが、子育てを通じて筆者の幼少期の環境が問題を抱えていたことを次第に自覚していったのです。
子どもたちが言葉を話せるようになると、3人とも「ママ好き」と言って必ず甘えてきました。もちろん、「パパ好き」と何度も言うことにも衝撃を受け、自分の幼少期を改めて振り返りましたが、どうしても「お母さんお父さん好き」と言った記憶に辿りつけないのです。
1、2回は口にしたかもしれませんが、両親に対して非常に冷めた感情を持っていることに初めて気がつきました。我が子の裏表のないストレートな感情表現に最初は戸惑う自分が嫌になる時もありました。徐々に無邪気に親を信頼するのは当たり前のことだということを理解し、それと同時に子どもたちが健やかに育っていると分かり安堵したのです。
毒親は自覚なく子どもを追い詰めている
毒親は自分本位で、言動によって周囲の人、特に子どもを追い詰め傷つけていることに気がついていません。子どもを身近にあるサウンドバックのように扱い、後先考えずに不平不満を言ったりします。子どもを全否定する言動の罪深さも自覚できないのです。
筆者もそうですが、当事者は「他の家とは違う」と気づくには時間がかかります。小さい頃は家庭が世界の全てです。逃げ場のない中、言動によって子どもの心に癒えることのない大きな傷口を作ることもある。親はそう肝に銘じて子育てをしていきたいですね。
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