「成功報酬付き公募投信」には要注意~問題点は何か?
LIMO / 2020年9月12日 20時0分
「成功報酬付き公募投信」には要注意~問題点は何か?
投資信託の信託報酬と成功報酬とは?
資産運用会社が投資信託を運用する際、通常彼らの運用費用は信託報酬から支払われます。この信託報酬は、「純資産総額に対して何%」といった形で設定され、信託財産から差し引かれて運用会社に支払われる手数料です。
たとえば、年間1%の信託報酬率で純資産総額が100億円の投資信託を運用する運用会社には、年間1億円の信託報酬が支払われます。信託報酬率は固定料率ですから、分かりやすい手数料体系です。ちなみに、販売会社(銀行・証券会社など)にはこの半額が手数料として支払われます。
最近、この信託報酬に加え、“成功報酬”を導入する公募投信が散見されるようになりました。成功報酬は、その投資信託の運用成績がある水準を上回ったら、上回った分のたとえば20%を成功報酬として運用会社が徴求する手数料。海外ファンド、特にヘッジファンドで採用されている報酬制度です。
この場合、運用会社は通常の信託報酬に加え、運用がうまくいけば成功報酬も手にすることができるというものです。
成功報酬の計算方法
ある投資信託の成功報酬(20%)を計算する際の基準価額が1万円だったとします。決算日にこのファンドの基準価額が1万2,000円に値上がりしていれば、その差の2,000円の20%である400円が成功報酬となります(図表参照)。
そして、次の成功報酬の計算基準(ハイウォーターマーク [High Water Mark] という)は1万2,000円となり、次回の成功報酬は、基準価額がこの1万2,000円を超えた際に発生します(理解を容易にするため、信託報酬は計算しません)。
この事例だと、ある成功報酬付きの投資信託を1万円の基準価額で購入して、1万2,000円の解約価額で解約できたなら、当初の約束通り2割の成功報酬を支払ってもしょうがないと思います。
ところが、運用成果に応じた報酬を徴求するのはリーズナブルに思えるのですが、日本の公募投資信託の場合、多くの問題をはらんでいます。
まず、成功報酬を引き落とす報酬額やタイミングが目論見書等の資料では開示されていません。
たとえば、当初1万円の基準価額だった投資信託が、値上がりして1万4,000円になったとします。基準価額が1万4,000円の時に買って、1万2,000円に下がった場合、損失が2,000円発生していますから、本来成功報酬は払わなくて済むはずです(当初1万円→購入時1万4,000円→1万2,000円に値下り)。
にもかかわらず、その計算期間の決算日時点で基準価額が1万2,000円であれば、2,000円の利益(1万2,000円 – 1万円)に対し400円の成功報酬(2,000円 × 20%)が発生して、成功報酬控除後の基準価額は1万1,600円(1万2,000円 – 400円)になります。
つまり、1万4,000円の基準価額で買った人は余分な成功報酬を払うことになり、基準価額が1万1,600円になってしまうのです。
基準価額から成功報酬を引き落とすタイミングも、決算期ごとなのか毎日なのか投資信託によってまちまちで、プロでさえわからないことがあります。
本来、この成功報酬400円分を受益者に平等に負担させることができればいいのですが、ほぼ不可能です。なぜなら、将来の結果である成功報酬を毎日の基準価額に反映させることが理論的に不可能だからです。
海外ヘッジファンドでは“equalization”(イコライゼーション)という計算方法を用いて、購入者の購入時点における成功報酬控除後基準価額を平準化する方法がありますが、これとて過去の成功報酬(率)の反映にしか過ぎません。
過去に大きな成功報酬を得たファンドは、口数によって成功報酬を平準化します。したがって、過去の基準価額から大幅に下がったファンドの基準価額に対する成功報酬負担率は過大になります。
現在の基準価額と過去のハイウォーターマークを比べて、毎日成果報酬を計算して基準価額から引き落とすこともできないことはないですが、やはりハイウォーターマーク以上で購入した受益者の基準価額から過去の成功報酬が引き落とされるため、公平なプライシングとは言えないでしょう。
もっとも、ファンド・オブ・ファンズのように、成功報酬付きの投資対象ファンドを組み入れた場合、このファンドが成功報酬を反映した時価を算出できるのであれば、その投資信託の基準価額は間接的に成功報酬を反映した基準価額にすることができます。
ただし、その投資対象ファンドがどのように成功報酬控除後の基準価額を計算しているのか開示されていません。ここはかなりグレーなところです。
運用期間中の解約を不可にしないと、成功報酬は計算できない
仮に日本の公募投信に明解な成功報酬を導入するのであれば、スポット型かシリーズ型で新規設定後追加設定がなく、かつ運用期間中は信託期限まで解約できないようにする必要があります。加えて、あらかじめそのような方法で成功報酬を徴求することを受益者に理解してもらう必要があります。
このように日本の公募投資信託において成功報酬を導入するのはかなり困難が伴います。受益者の公平性が保たれないこともありますし、そもそも毎期決算ごとにハイウォーターマークを超えられる投資信託はほとんどないということもあります。
もちろん、成功報酬によって受益者が不公平に取り扱われるということを公平に理解しているのであれば、何も文句は言いません。残念ながら、そこまで理解しているプロも少ないのが実情です。
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