「子どもの学力・学歴は教育費次第」は正しい? 経済格差と学力格差の現実
LIMO / 2020年10月30日 11時0分
「子どもの学力・学歴は教育費次第」は正しい? 経済格差と学力格差の現実
「昔のような学歴至上主義ではなくなった」という話を耳にしても、やはり親なら子どもにはある程度の学歴を持ってほしいと願ってしまうもの。今年は特に新型コロナウイルス拡大による臨時休校が3カ月にも及び、学びの遅れへの懸念が広まるなど、子どもの教育およびそこにかける費用に対する考え方も揺れています。
ちょうど臨時休校措置で学校も親も対応に追われていた2月28日から3月2日の4日間、ソニー生命が大学生以下の子どもがいる男女1000人を対象に「子どもの教育資金に関する調査2020」をインターネット上で実施。その結果が3月下旬に発表されています。
学力と学歴はお金次第という考え
同調査では、「子どもの学力や学歴は教育費にいくらかけるかによって決まる」という問いに対し、「非常にあてはまる」および「あてはまる」と答えた親は65.7%となっています。
では、この肌感覚は妥当なのでしょうか。2017年度に日本財団が大阪府箕面市の就学児童2万5000人のビックデータを活用して調査した「家庭の経済格差と子どもの認知・非認知能力格差の関係分析」によると、貧困層と非貧困層の学力偏差値は10歳を境目に差が拡大していくことが分かっています。
ソニー生命の調査結果でも、「子どもの学力と学歴には投資が必要」と考えている層がかなりいることは明らかです。実際、経済的余裕のある家庭では惜しみなく教育費を出せるでしょう。しかし、必ずしも全ての子に効果が出るとは限らないのです。
筆者は塾講師として裕福な家庭の子を何人か教える機会がありましたが、全員が同じように成績優秀というわけではありませんでした。ここ数年、学力格差と経済格差の関係が取り沙汰されていますが、各家庭の経済状況よりも親子関係の方が成績への影響が大きいと感じたものです。
このように、学力と学歴はお金をかければ何とかなるとは言えません。そしてなにより、子どもの教育費は長期にわたってかかってくるという事実から目を背けることはできないのです。
早期教育への投資は慎重に
ソニー生命の調査では「早期の知育や英才教育は子どもの将来のために重要だ」に「非常にあてはまる」および「あてはまる」と考えている親は73%にも上りました。ひと昔前までは考えられなかったことですが、大手の音楽教室や学習教室の中には0歳児からのコースを設けているところもあります。裏を返せば親からのニーズがあるということです。
このような早期教育を受けさせるということは、乳幼児期から教育費がかかることを意味しています。そして中学受験をする場合は小学3、4年生から塾通いを始め、それが高校3年生までずっと続くケースも珍しくありません。
そして、たいていの習い事は学年が上がるにつれて月謝が上昇していきます。当初「意外と安い」と思って複数の習い事を掛け持ちしていると、徐々に教育費が家計を圧迫することもあります。
特に子どもが小さい頃はママ友の話に左右され、「早く入れないと他の子より遅れる」と焦ってしまうこともあります。インターネット上にも早期教育の情報がごまんとあるので、混乱してしまうこともあるでしょう。
また、習い事のやめどきが分からなくなったり、「もう少し頑張らせたい」と家の台所事情を直視せずに継続していると、気がついたら高校卒業後の進学に必要な教育費が不足しているという事態にもなりかねません。
小さい頃から複数のプランを立てる
ソニー生命の調査では、「老後の備えよりも子どもの教育費にお金を回したい」という問いに対し「非常にあてはまる」および「あてはまる」と考えている親は63.8%です。
子どもの教育への関心の高さを表す数字ですが、早期教育を受けさせたい場合は早い段階から教育費を考慮した人生設計を考える必要があります。人生100年と言われるように、日本の平均寿命は世界的にもトップクラス。子どもへの投資も確かに大切ですが、それと同時に自分たちの老後資金も見据えたマネープランを立てなければなりません。
まずは、幼稚園から大学まで私立学校のケース、国公立のケースなど複数の進学パターンと学費がどの程度かかるのかを把握しておきましょう。そうすれば、やみくもに習い事に手を出すと家計に響くということが認識できるようになります。
会社勤めでも、定年まで安泰という時代は過ぎ去りました。「これから収入が増えるはず」と甘く見積もらず、条件を厳しくしても実現できそうな進学コースをあらかじめ決めておくことが望ましいでしょう。子どもを思う心から教育費を惜しみたくないのはやまやまですが、老後破産を避けつつ現実的な教育費の投資をしていきたいものですね。
親の愛情と堅実さが大切
経済格差と子どもの学力差の関係は無視できないものですが、教育費だけかけても親が子どもに無関心ではあまり効果は期待できません。親子関係が安定しているからこそ、子どもは勉強や習い事に打ち込むことができるのです。
子どもの未来を明るいものにしたいと願うのであれば、お金で全てが解決すると勘違いせず、子どもと一緒に過ごしながら、適性や興味関心を見極めて習い事を探してみることが肝要です。そして、大学卒業までにかかる教育費を考えて堅実なライフプランを作っていきましょう。
【参考資料】
「子どもの教育資金に関する調査2020(https://www.sonylife.co.jp/company/news/2019/nr_200327.html#sec16)」(ソニー生命保険株式会社)
「家庭の経済格差と子どもの認知・非認知能力格差の関係分析(https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/01/wha_pro_end_07.pdf)」(日本財団)
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