「サロンパス」の久光製薬にコロナの試練。シップ薬の海外拡販にも影
LIMO / 2021年2月10日 19時35分
「サロンパス」の久光製薬にコロナの試練。シップ薬の海外拡販にも影
昨年来、新型コロナのワクチン開発に携わる企業に注目が集まっていますが、多くの製薬会社はコロナの悪影響を受け、業績が芳しくありません。コロナの感染拡大が「受診控え」を引き起こし、医薬品の需要が減少しているためです。
貼り薬の「サロンパス」でお馴染みの久光製薬(4530)も、2021年2月期の通期予想を売上高▲10%としています。今後挽回するためのチャンスは、どこにあるのでしょうか。
コロナ禍で医療用・一般用ともに需要が縮小
コロナ感染への恐れから発生した「受診控え」で、医薬品を処方されている患者数は、緊急事態宣言下の昨年5月には前年比81%に減少。その後、10月には96%の水準まで回復しましたが「第3波」の影響で11月には89%へと再び減少に転じました。
この需要減少は、多くの製薬会社や医薬品卸会社の減収・減益となって現れました。
久光製薬では、実は市販の一般用医薬品の売上構成比が拡大してきたことを考慮し、5年ほど前から営業のウエイトを医療用から一般用へ徐々にシフトしてきました。しかし、そこへ襲来したのが新型コロナです。医療用の不振に加え、一般用の需要までが人々の外出自粛やスポーツ活動の減少などで落ち込んでしまいました。
さらに、海外展開強化の布石とするべく、オフィシャルパートナーとなっていた「2020年東京オリンピック・パラリンピック」が延期となり、経営計画は足踏みを余儀なくされています。
まずはコロナ禍以前の久光製薬が、どのような事業環境にあったのかを確認してみましょう。
医療費抑制の政策のもとで低成長モードに
久光製薬は、病院で処方される「医療用医薬品」と市販の「一般用医薬品」を製造しており、2020年2月期末の時点では売上高の58%を医療用がを占めています。
医療用・一般用ともに貼り薬(経皮吸収型製剤含む)が主で、一般用の鎮痛消炎剤としては「サロンパス」「サロンシップ」「フェイタス」などが知られています。
続いて近年の業績を、2018年2月期以降の3年間を追って見ていきましょう。
2018年2月期から2020年2月期までの業績は、売上高1485億円⇒1434億円⇒1410億円の減収続きで、利益面では営業利益が269億円⇒223億円⇒227億円、当期純利益は191億円⇒192億円⇒187億円と減益傾向にあります。
2019年2月期は、一般用が好調だったものの、医療用が国内・米国ともに不調だったため減収となりました。特に国内では薬価引き下げ・後発薬の導入推進など、医療費抑制を目的とした国の政策が影響した形です。減収の影響で営業利益は減益ですが、有価証券の売却や前期の減損損失の関係で純利益は横ばいにとどまりました。
翌2020年2月期も引き続き医療費抑制策の影響を受け続けて減収となり、純利益は減損損失や消費税増税と同時に行われた更なる薬価引き下げが影響し減益となりました。
コロナの影響を受け利益が半分以下に
今年1月に公表された2021年2月期 第3四半期の業績は、売上高808.2億円(前年同期比▲18.4%)、営業利益81.2億円(同▲55.9%)、四半期純利益57.2億円(同▲62.9%)と大幅な減収減益となりました。
医療用はたび重なる薬価改定に加え、コロナによる受診控えが響いたほか、前期にあったマイルストン(新薬開発の段階ごとに支払われる成功報酬)がなくなった反動で減収となりました。一般用も人々の外出自粛などによって国内需要が大きく減ったほか、花粉症薬の「アレグラ」も売上げが減り、減収となっています。
利益面では、広告・販促費が減少したことで販管費が抑えられましたが、減収幅を補うまでには至らず減益となりました。
こうしたマイナス要因が重なる中、株価はどのような動きを示しているでしょうか。
2018年2月期末の時点で7000円台だった株価は、6月に過去最高値の9900円を突破しました。しかし2019年2月期 第2四半期の業績悪化を受けて下落に転じ、期末時点では5000円台となりました。
2020年1月には一時6000円まで戻しましたが、3月にはコロナの影響で3900円台まで急落、その後は経済活動の回復とともに上昇傾向に転じ、2021年1月末時点で6200円台を推移しています。
期待の道は海外での展開強化
2月に決算を迎える今期は減収減益の予想ですが、長期で見ても先行きは険しいと言わざるを得ないでしょう。コロナ収束の見通しがつくまで従来の需要水準への回復は難しく、さらに2021年4月からは2年に1度だった薬価改定が毎年行われるようになります。
こうした状況下で、久光製薬は「貼付剤による治療文化を世界へ」というスローガンのもと、海外市場の拡大を狙っています。具体的には、すでに売上の67%(2020年度末)が海外で占められている「サロンパス」などの大衆薬を、米・アジアの消費者を中心に拡販していこうと、自社販売の体制づくりを進めています。
日本では昔からお馴染みの「貼り薬」ですが、海外では治療手段として利用する習慣がないため、その効果を啓発していくことが重要となりそうです。いまだ東京オリ・パラは開催の可否が不透明ですが、開催となれば世界に向けて認知度を高めるチャンスになるかもしれません。
まとめ
久光製薬は、医療費を抑制したい国の政策などが影響して減収減益が続いていましたが、コロナ感染拡大による受診控えと外出自粛で更なる打撃を受けました。
需要がコロナ以前の水準に戻る時期は見通せず、国内市場はあまり期待が持てないかもしれません。今後は海外で活路を開き、貼り薬の普及に努めながら市場を開拓していく必要があるでしょう。
【参考資料】
久光製薬 2021年2月期第3四半期 決算短信〔日本基準〕(連結)(https://www.hisamitsu.co.jp/ir/pdf/kessan/119/3Qall.pdf)
久光製薬 2021年2月期第3四半期 決算説明会資料(https://www.hisamitsu.co.jp/ir/pdf/kessan/119/3Qslide.pdf)
久光製薬 2020年2月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(https://www.hisamitsu.co.jp/ir/pdf/kessan/118/4Qall.pdf)
久光製薬 2020年2月期 決算説明会資料(https://www.hisamitsu.co.jp/ir/pdf/kessan/118/4Qslide.pdf)
久光製薬 2019年2月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(https://www.hisamitsu.co.jp/ir/pdf/kessan/117/4Qall.pdf)
久光製薬 2019年2月期 決算説明会資料(https://www.hisamitsu.co.jp/ir/pdf/kessan/117/4Qslide.pdf)
久光製薬 第6期中期経営方針(2017〜2021年度)(https://www.hisamitsu.co.jp/company/pdf/news_release_170407-4.pdf)
「20年11月 処方患者数が再び大幅減 コロナ第3波による受診控えか JMIRI調べ(https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=70316)」ミクスOnline(2020.12.16)
「新型コロナウイルスは国内製薬企業の業績にどんな影響を与えているのか(https://answers.ten-navi.com/pharmanews/19032/)」AnswersNews(2020.08.17)
「主要医薬品卸の21年3月期中間決算概況 コロナの影響大きく各社減収減益に(https://www.yakuji.co.jp/entry83157.html)」藥事日報(2020.11. 30.)
「《日系進出》久光が現法設立へ、自社販売に(https://www.nna.jp/news/show/1994689)」NNA ASIA(2020.1.13)
外部リンク
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