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次世代エネルギー「水素」利用の技術開発はここまで進んでいる

LIMO / 2021年3月27日 12時35分

次世代エネルギー「水素」利用の技術開発はここまで進んでいる

次世代エネルギー「水素」利用の技術開発はここまで進んでいる

3月初旬、「トヨタ自動車をはじめとする自動車業界が、福島県で水素事業に参画する方針を固めた」と報じられました(日本経済新聞 2021年3月5日)。100年に一度と言われる大変革期にある自動車産業ですが、その中心となり得るのが「水素」という新エネルギーです※。

自動車産業のみならず他の分野でも広く注目を浴びている水素ですが、特に最近は「脱炭素化」に向けた動きの中で期待が高まっています。今回は、水素がなぜ「新しい」エネルギーなのか、その特徴や製造における革新的技術の現状を解説します。

※自動車産業の大変革については、以下の記事もご参照ください。
『ガソリン車よ、さようなら! EV急拡大にも懸念と課題(https://limo.media/articles/-/22288)』
『電気自動車もさようなら。未来のモビリティ・水素燃料電池車が走る(https://limo.media/articles/-/22388)』

次世代のエネルギー、水素

水素が次世代のエネルギーとして脚光を浴びているのはなぜか、最初に少しばかり科学(化学)的な面を紐解きましょう。

まず、水素の一般的な話から始めます。「水兵リーベ僕の舟…」(懐かしい暗記の仕方)で始まる元素周期表を覚えているでしょうか。その中で水素は原子番号1、元素記号はHであり、通常、原子が2つ結びついた水素分子(H2)の形をとり、無色、無臭で、地球上、最も軽い気体です。

自然界では水素分子の状態として存在することはほとんどなく、水(H2O)などのように他の元素と結合した化合物(化石燃料、有機化合物など)として地球上に大量に存在します。

水素は主に産業分野で用いられていますが、一般的には必ずしも馴染みが深いものではありません。記憶に残っているとしたら、福島第一原発事故の水素爆発(原子炉内の金属と水が反応して生成)ではないでしょうか。また、水素はロケット燃料にも使われています。

石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料は炭素を含む有機化合物で、燃焼させればCO2を排出します。一方、水素を燃焼させても炭素源がないのでCO2は排出されず、出てくるのは水だけです。これが、利用段階ではCO2を排出しない新エネルギーと言われるゆえんです。

したがって、CO2排出量の多い「電力部門」「産業部門」「運輸部門」で水素を利活用することによって、低炭素化へ貢献すると期待されています。

​また、水素製造時にCO2を排出しない方法で作ったCO2フリー水素を利用すれば、CO2を全く排出しないゼロエミッションのエネルギーシステムができ上ります。これは、まさにCO2排出「完全ゼロ」を指しています。

CO2など温室効果ガスの排出「実質ゼロ」の動きが世界的に加速していますが、この「実質ゼロ」は、人為的に排出されるCO2の量と植物が光合成で吸収するCO2の量が均衡するという意味です。

地球上に人類や生物が生存する限り、呼吸をしてCO2を吐き、大量のごみを焼却します。そのためCO2排出を「完全ゼロ」にすることは不可能ですが、少なくとも今、問題になっている化石燃料の燃焼に伴うCO2排出を、「実質ゼロ」ではなく「完全ゼロ」にする方策は、難しいとはいえ追求していくべきでしょう。

水素の製造・運搬・貯蔵

水素から電気エネルギーを得る原理は今から180年前に見つけられていました。にもかかわらず開発が遅れたのはなぜかというと、水素を容易かつ安価に得る方法や、気体である水素の運搬と貯蔵が困難だったからです。

水素の製造方法はいくつかあり、水の電気分解による方法、苛性ソーダ製造の副生水素(NaClの電気分解)は中学校や高等学校化学の教科書にも登場します。また、製鉄所コークス炉からの副生水素、化石燃料(石油のナフサ)の水蒸気改質による方法、光触媒による方法(人工光合成、これについては別稿で取り上げます)などもあります。

これらのうち、現時点で大量かつ安価に水素を製造することができるのは化石燃料のナフサを使う方法です。しかし、この方法はCO2を排出してしまいますから、上述の人工光合成のようなCO2フリー水素製造の開発が必要です。

水素の運搬・貯蔵についても開発が進んでいます。高圧ガス、液化水素、パイプライン、有機ハイドライド(有機水素化物)による輸送・貯蔵がありますが、ここでは有機ハイドライドを使う方法について簡単に紹介しましょう。

有機ハイドライド技術とは、製造された水素ガスを触媒を使って液体の化合物に変換(トルエンからメチルシクロヘキサンに還元)することで輸送・貯蔵を容易にします。必要な時に水素を取り出すには、その液体から触媒を使って逆の化学反応(メチルシクロヘキサンからトルエンに酸化)を行います。

この有機ハイドライド技術は千代田化工建設のプラントで稼働しており、千代田化工建設と三菱商事に三井物産と日本郵船を加えた4社でつくる「次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD)」が事業化にめどをつけています。

将来的には、メチルシクロヘキサンを水素ステーションに運び、オンサイトで脱水素して燃料電池自動車に供給することも検討されています。そのためには、脱水素装置の小型化に向けた技術開発が必要です。

また、水素社会の構築には水素インフラが不可欠です。しかし、これだけ高度に構築された化石燃料のインフラを止めて、予算的制約もある水素インフラをどこまで迅速にスタートできるかという問題もあります。

水素ステーションの建設費が高いのは事実ですが、それでも日本では水素ステーションが2020年12月現在、全国137カ所で運用されています(首都圏53、中京圏39、関西圏16、九州圏13、その他地域16)。

また、アンモニアは窒素と水素から製造されていますので、水素のキャリアとしてアンモニアを活用することも検討されています。合金に水素を吸蔵させることで水素を輸送・貯蔵する「水素吸蔵合金」についても開発が行われています。

褐炭から水素を製造、液化水素として運搬

現在は褐炭にも注目が集まっています。褐炭とは、水分や不純物などを多く含む品質の低い石炭のことです。輸送効率や発電効率が低く、さらに乾燥すると自然発火するおそれもあるため、採掘してもすぐ近くにある火力発電所でしか利用できないなど、利用先が限定されています。

そのため国際的にも取引されておらず、したがって安価なエネルギー資源です。この褐炭はオーストラリアに豊富にあり、これをガス化し、水蒸気改質反応により水素を製造、液化(-252.6℃で液化)して日本に輸送するプロジェクトが日豪の間で進行しています。

これが新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「褐炭水素プロジェクト」で、事業主体は川崎重工業、卸電気事業を行う電源開発、水素供給技術を持つ岩谷産業、エネルギー・石油化学のシェルジャパンによる「技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」です。

世界初となる川崎重工業の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」も完成し、今年、オーストラリアからの液化水素輸送の実証実験が開始される予定です。

製鉄でも水素を利用

水素は意外なところにも利用されています。鉄鋼業界のCO2排出量は日本全体の14%と突出して多いのですが、理由は鉄の作り方にあります。

鉄鉱石中の鉄は酸化された酸化鉄で、コークス(炭素)を使って鉄鉱石から酸素を奪えば(還元)鉄ができ、CO2が発生します。したがってCO2削減のためには、製鉄技術の抜本的な変更が欠かせません。

そこで、コークスの代わりに還元剤として水素を用いれば排出されるのはCO2ではなく水となります。これは、ガソリン車がCO2を排出するのに対して、燃料電池車は水を排出するのと同じことです。この実証実験がすでに日本製鉄君津製鉄所で進んでいます。

また、つい最近、三菱重工も同じ試みとなる世界最大級の実証プラントをオーストリアの鉄鋼大手と開発し、2021年中にも欧州で稼働を始めると報道されています。

さらに、水素を二酸化炭素と反応させることでメタンに変換、そのまま都市ガス導管に流し、燃料として用いる取組も検討されています。

おわりに

水素は次世代のエネルギーとして注目され、その普及のための技術革新が進んでいます。菅政権が掲げる「温室効果ガス2050年実質ゼロ」、そしてその先の「完全ゼロ」に向けて、国や産業界で水素社会実現への取り組みが加速しているのは頼もしい限りです。次回は脱炭素化の切り札とも言える「人工光合成」について取り上げます。

参考資料

水素ステーション整備状況(http://www.cev-pc.or.jp/suiso_station/)(一般社団法人 次世代自動車振興センター)

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