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「老後2000万円問題」を振り返る~若者へ資産形成の流れをもたらしたか~

LIMO / 2021年6月26日 6時45分

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「老後2000万円問題」を振り返る~若者へ資産形成の流れをもたらしたか~

2019年6月、金融審議会市場ワーキング・グループの報告書が大きな話題となりました。

報告書の正式なタイトルは「高齢社会における資産形成・管理」ですが、その前段で「収入と支出の不足額約5万円が毎月発生する場合には、(中略)30年で約2000万円の取り崩しが必要になる」と記載したことで、「金融庁の正式な報告書が老後に2000万円も金額が不足すると指摘した」と国会やメディアを中心に批判が持ち上がることになりました。

いつのまにかこの報告書は「老後2000万円問題の報告書」と呼ばれるようになりました。

市場ワーキング・グループの委員の一人としてこの報告書の作成に関与してきた筆者としては、本旨とは違うところでの批判続出に驚くばかりでした。

報告書の趣旨は、「超高齢社会において金融サービスはどうあるべきか、国民はそれをどう考えるべきか」を議論しており、収入と支出の差の問題は、超高齢社会の現状を大づかみにする状況把握のデータにすぎませんでした。

「老後2000万円問題」の本当の問題

しかし、この批判の論調のなかで、「退職後のお金との向き合い方」に関して間違った見方が横行していることが明らかになった気がします。

例えば、この2000万円を「赤字」と強調したコメントが多かったことです。退職後の生活資金は、主に年金収入、勤労収入そして資産収入で賄われます。この2000万円は支出、すなわち退職後の生活費と年金収入を差し引いた際の不足分を「赤字」と称しているだけです。

資産収入はそもそも退職後の生活のために、現役時代に作り上げてきた資金です。

資産収入は「赤字」補填用ではありませんし、「赤字」を出しているというイメージも「悪い」感じを植え付けてしまいます。退職後の生活を充実させるための資金ですから、赤字でもなんでもなく必要資金をどこから調達するかという資金源の議論に過ぎないのです。

言い換えると、この「赤字」議論は「高齢者はすべて年金で生活を賄うべきだ」というかなり強引な考え方を前提にしているように思われてなりません。

さらに、だれもが「老後に2000万円不足する」といった一律化された議論になった点も、違和感が募りました。

退職後の生活はひとそれぞれ違っていて、一律ではありません。筆者は、退職後の生活は、現役時代の延長線上にあるものとして、現役世代の生活費水準が大きく影響すると考えています。

現役時代の生活水準が高い人は、資産収入から賄う分は「2000万円では足りない」でしょうし、現役時代の生活水準を抑制してきた人にとっては、「2000万円も必要ない」という可能性も十分にあります。

若年層「資産形成の必要性に気づく」という効用も

一方で、この問題が多くの若い人たちに「資産形成を真剣に考える必要がある」と思わせた点は、評価できるでしょう。

この報告書は金融庁のホームページで最も検索されたレポートだったようで、マスコミでの騒動が若年層の資産形成にプラスの効果をもたらしたのかもしれません。

ところで、図ったわけではありませんが、その前年2018年1月から金融庁は若年層の活用を想定した資産形成のための非課税制度「つみたてNISA(少額投資非課税制度)」をスタートさせています。

制度があって、危機感が醸成されるという、いいタイミングが重なったことで、急速に資産形成の機運が盛り上がっているように感じます。

2018年から若年層の投資額が増加

総務省が発表している家計調査から有価証券の購入額、売却額、純購入額を分析してみると、その動きがよくわかります。家計調査のデータは、家計簿を記入するような調査ですから月次のブレが大きくなります。

そこで12か月の移動平均をとったグラフを作ってみると、全体の平均購入額が最近、上昇傾向にあることがわかります。

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さらに2015年以降のデータから34歳以下の層の有価証券購入額(赤色の線)だけを抽出して重ねてみると、全世代の平均購入額(緑色の線)がじりじり上昇傾向になる一方で、34歳以下の層は2018年から急速に購入金額を増やしていることがわかります。

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これは2000万円問題による意識の喚起もあったが、つみたてNISAなど制度面での後押しもあったからではないかと思われます。

若年層の投資の課題は何か

ところでちょっと気になることも見つかりました。購入額が増加するにつれて売却額も増えていることです。

34歳以下の売却額は、過去20年間ほとんど金額として表面に出てくるほどではありませんでした。それが2018年から増え始めています。

もちろん、購入額から売却額を差し引いた純購入額も拡大していますので、若年層に投資が広がっていることに変わりはありません。ただ、売却の増加が、もしつみたてNISAの影響だとしたら、少々頭の痛いところです。

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なぜつみたてNISAで売却額が増加するのでしょうか。

例えば、2018年につみたてNISAで投資をした人が上昇相場で利益が出たとします。NISA導入以前の“10%優遇税率”のような売買優先の優遇制度の場合には、少額での儲けはそれほどうまみが出ません。

しかし、つみたてNISAのような非課税制度だと、「非課税なら(それがどれだけ小さな利益でも)まずは利益確定しておこう。また来年新しく非課税投資をすればいいから」といったマインドセットになっていないでしょうか。

筆者は断然、優遇税率方式よりも非課税口座方式の方が有用だと思っていますが、まだまだNISAには改善する点が残っているようにも思われます。

 

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