インボイス制度の問題点とは?フリーランスの手取りは一体いくら変わるのか
LIMO / 2022年8月29日 17時50分
インボイス制度の問題点とは?フリーランスの手取りは一体いくら変わるのか
8月も終わりに差し掛かり、夜中の暑さはいくらか和らいできました。
9月を迎えると、インボイス制度が開始される来年10月1日まで約1年。2022年7月の選挙で実施がほぼ確実となりましたが、インターネット上では未だに賛否の声が多数上がっています。
今回の記事では、インボイス制度にまつわる4つの問題点、および制度の豆知識を解説していきます。
「インボイス」とは
インボイスとは「適格請求書」のことで、以下の記載義務が設けられています。
適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
取引年月日
取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
税率ごとに区分して合計した対価の額 (税抜き又は税込み)及び適用税率
税率ごとに区分した消費税額等※
適用税率ごとに区分した合計額
※ 5の「税率ごとに区分した消費税額」の端数処理は、一の適格請求書につき、税率ごとに1回ずつとなります。
引用:令和4年2月仙台国税局消費税課「適格請求書等保存方式の概要-インボイス制度の理解のために-」
日本の税制では、売上で発生した消費税から仕入で支払った消費税を減算する「仕入額控除」が利用できます。
しかし、制度の開始後はインボイスを受け取り、証拠として保管していないと控除が適用されません。
このインボイスを発行できる業者は「適格請求書発行事業者(課税事業者)」です。そのため、売上高1000万円以下の免税事業者はインボイスを発行できません。
インボイス制度の問題点を4つ解説
インボイス制度開始に伴う問題点として、主に4つのポイントがあります。
免税事業者は仕事が少なくなる恐れがある
経理事務が煩雑になる
適格請求書発行事業者公表サイトに個人情報が掲載される
消費税分の値引きを要求される可能性がある
問題点1. 免税事業者は仕事が少なくなる恐れがある
仕入額控除を受けたい事業者にとって、インボイスを発行できない免税事業者からの仕入れは、税負担が大きくなる要因です。
そのため免税事業者は、インボイス発行を求める事業者との取引を打ち切られる可能性があります。
仕入れに該当する項目は以下のとおりです。
商品などの棚卸資産の購入
原材料等の購入
機械や建物等のほか、車両や器具備品等の事業用資産の購入または賃借
広告宣伝費、厚生費、接待交際費、通信費、水道光熱費などの支払
事務用品、消耗品、新聞図書などの購入
修繕費
外注費
引用:国税庁「No.6451 仕入税額控除の対象となるもの」
ただし後ほど紹介する経過措置により、当面は課税仕入の一定割合を控除できます。
課税仕入となる取引については、国税庁のHP等をご覧ください。
問題点2. 経理事務が煩雑になる
インボイス制度が開始されると、全ての取引に対して消費税区分を設定する必要があります。
インボイス制度対応のクラウド会計システムがあれば問題ありませんが、経理事務を手作業で行っている場合は事務負担が大きくなるでしょう。
問題点3. 適格請求書発行事業者公表サイトに個人情報が掲載される
インボイスを発行できる適格請求書発行事業者の登録を受けると適格請求書発行事業者公表サイト(https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/)に個人情報が掲載されます。
法人の場合は企業名と住所が掲載されます。すなわち屋号が個人名だと、そのまま本名と住所が掲載されるのです。
さらに、登録番号を知っている人なら誰でも個人情報を閲覧可能です。
また公表情報はダウンロードも可能なので、容易に個人情報を特定される恐れがあります。
問題点4. 消費税分の値引きを要求される可能性がある
インボイス制度開始後も免税事業者の場合、合理的な理由なく消費税の上乗せを拒否される可能性があります。
ただし、そのような行為は下請法違反や独占禁止法に抵触するおそれがあります。
【違法となりうるケースの例】
取引完了後に課税事業者でないと判明したため、請求書の金額にかかわらず消費税相当額の一部または全部を支払わないこととした。(下請法違反のおそれ)
課税事業者が免税事業者に対し課税事業者への転換を要求したにもかかわらず、価格交渉を拒否。一方的に価格を据え置いた。(下請法違反のおそれ)
課税事業者が免税事業者に対し、「課税事業者への転換をしなければ契約を打ち切る、または消費税分の金額を引き下げる」と一方的に通告し、価格交渉も拒否した(独占禁止法のおそれ)
【参考】財務省:インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え⽅
インボイス制度によるフリーランスの手取りへの影響
年収1000万円以下の免税事業者が多いフリーランスは、これまで収益として受け取っていた消費税分を納税しなければなりません。
仮に年収400万円のうち40万円が消費税であれば、今後は360万円が年収となります。
ただし、以下に該当する業者はインボイス制度の影響が生じにくいと言われています。
①売上先が消費者又は免税事業者である場合
②売上先の事業者が簡易課税制度を適用している場合 そのほか、消費税が非課税とされるサービス等を提供している事業者に 対して、そのサービス等のために必要な物品を販売している場合なども、 取引への影響は生じないと考えられます。
引用:財務省「インボイス制度への対応に関するQ&Aについて(概要)」
インボイス制度の豆知識
インボイス制度は、2023年10月1日より激変緩和措置として仕入額控除の経過措置が設けられます。
また、インボイス制度が始まった後でも適格請求書発行事業者の登録が可能です。
次項で紹介する詳しい内容を判断材料として、課税事業者への転換をするか否か考えてみてください。
仕入額控除の経過措置が設けられる
2023年10月から2029年9月の間は、免税事業者からの課税仕入の一定割合を仕入税額として控除できる経過措置が設けられます。
なお、この6年の間で控除できる割合も変化するので注意しましょう。
2023年10月1日〜2026年9月30日:仕入税額相当額の80%
2026年10月1日から2029年9月30日:仕入税額相当額の50%
2023年10月から2029年9月の間も登録を受けられる
2023年10月1日から登録を受けるには、2023年3月31日までに納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出します。
ただし、2023年10月1日〜2029年9月30日の課税期間中に登録を受ける場合は、登録日から課税事業者となることが可能です。
また登録日の属する月が上記の課税期間である際は、「消費税課税事業者選択届」の提出を省略して登録を受けられます。
インボイス制度開始までの間に慎重な準備を
課税事業者への登録は、収入の減少や個人情報流出の可能性が考えられます。しかし、取引先との兼ね合いを考えると、いずれ課税事業者への転換が求められるでしょう。
制度開始までの間に、登録のタイミングを慎重に判断してください。
参考資料
国税庁「インボイス制度の概要(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_about.htm)」
国税庁「No.6451 仕入税額控除の対象となるもの(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6451.htm)」
適格請求書発行事業者公表サイト(https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/)
財務省「インボイス制度への対応に関するQ&Aについて(概要)」(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/20220119menzeiqa_3.pdf)
財務省「インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え⽅」
国税庁「お問合せの多いご質問(令和4年7月29日掲載)」
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